第72話 な、なんで…?

 【side:凛】


 「おらおら!どきなさい愚民ども!!女王にして孤高なる復讐者、静谷凛さまのお通りだ〜〜〜!!!」


 私と高井は体育館にいる生徒たちを蹴散らし、外に出る。 

 

 「な、何する気だ!」


 「凛さん、もうやめて!」


 「誰かー!先生に早く連絡しろー!」


 なんか中でぎゃあぎゃあうるさいけど、完全無視。

 

 唯一の出入り口である扉を閉めた後、その辺にある机や椅子でバリケードを築き、中から脱出できないようにした。


 これで、多少は時間を稼げるはず。


 「さあ時間がないわ高井。さっさと屋上に行くわよ?」


 「うるせえ。こっちに構うな。そっちはちゃんと円二を抑えてろ」


 「当然でしょ?逃げたら…その時は容赦なく喉を掻っ切るわ。たとえ円二君でもね」


 結愛を抑えた高井の代わりに、私は円二君を人質に取った。

 一応、高井から受け取った追加のナイフで円二君の喉元を抑え、動けないようにしている。


 円二君は何も言わず黙って私に連れていかれてるけど、無理もないわねぇ。


 これから…愛する人が死んじゃうんだから!!!


 「…なにニタニタ笑ってんだよ。気持ち悪ぃ」


 楽しいことを考えていると、高井が茶々を入れてくる。


 「やれやれ。相変わらずつれないわねぇ。結愛に加えて円二君にも復讐できるチャンスをくれてやるんだから、少しは喜びなさいよ」


 「…ちっ。頭のおかしいやつだ。そもそも言っただろうが、円二も絶対裏切るってな。最初から結愛を拉致するだけじゃ済まないと思ってたぜ?円二が裏切った時のプランBを用意しててよかったな」


 「…うるさいわね。早く走りなさい」


 「はいはい」


 高井は血走らせた目を光らせた後、足早に屋上へと向かう。

 

 円二君に殴られてできたあざ。

 ボサボサの髪。

 怒りに満ちた表情。


 相変わらずどうしようもない男ね。




 こんな男と再び接触を図ったのは、ちょうど1ヶ月前。

 円二君が私を騙すために接触してきてしばらく経った頃。




 ーてめえ!今更何しにきやがった!


 ー何よ、かつての恋人に対して失礼ね。


 ーてめえのせいで俺の人生はめちゃくちゃだ!親父からも嫌われて、転校先でも後ろ指刺されて、どう責任取るつもりだ!


 ー責任なんて取らないわ…ただし、復讐ならできるわよ。


 ー…なんだと?詳しく聞かせろ!


 ー円二君がね、私に寝返ったの。だから、円二君と一緒にアバズレを『作品』にする。シンプルにいえばこういう計画よ。


 その後、私は頭の悪い高井に計画を詳しく話した。


 別に深く考える必要はない。

 自分をコケにした人物の1人に仕返しができるなら、こいつも嫌とは言わないだろう。


 そう思った。


 ただし、1つだけ見込みちがいがある。


 ーなるほど。分かった。協力してやるよ。だが、条件が1つな?。


 ー…何よ?


 ー抱かせろ。


 ーはぁ?


 ーお前は死ぬほど嫌いだが、お前の体は好きだったからな。何発かやらせてやったら協力してやる。


 ー…


 私はー、




 高井の条件を呑んだ。


 円二君が結愛とエッチした以上、私の処女なんてどうでもいい。

 粛々と円二君の処女をもらうだけ。


 その後、私の処女を求めてきた円二君に、罰として【私の処女をもらえない刑】を課せばいい。


 一時的とはいえ私を裏切ったのだから。




 …もう、こんなことはどうでもいいわね。


 流石に疲れてきたわ。

 今はさっさと悪役の役割を果たしましょう。

 



 屋上までもうすぐ。


 着いたら扉に鍵をかけて、2人を屋上の端に追い込むの。


 そして、結愛ちゃんを地面までダイブさせて、円二君に生き地獄を味合わせる。

 その後ー、




 円二君もダイブしてもらうわ。


 それで私の復讐はおしまい。

 悪役として私は勝ち、主人公とヒロインは死ぬ。


 そして、私は1人踊り狂い、涙するの。


 ああ!

 こんなことしたくなかったのに!

 みんなにも幸せになって欲しかったのに!


 悪意を持った人間の裏切りのせいで!


 こんな結末を迎えてしまうなんて!




 …でも、私は悪くないし、全ての責任はお馬鹿な主人公とヒロインにあるわ。


 私はせめて、お馬鹿な2人の魂が天に昇れるよう、祈りを捧げるしかないわ。







 なーんて、そんなバッドエンドな物語も悪くないでしょ?



 ****


 

 「さあ、着いたぜ」


 数十秒後。


 私と高井は、学校の屋上に着いた。

 中程まで歩き、緑色の柵の一角に手をかける。


 ギイッ…


 鈍い音を立てて、柵の一部が剥がれ落ち、人間大の穴が開く。

 私が数日かけて、プラスチックの柵に切れ込みを入れておいたからだ。


 念のために用意していたBプラン、アバズレと円二君の粛清に備えて。


 「さぁ、この中に入りなさい。アバズレの顔に傷がつけられたくなかったらね」


 「…」


 円二君は声もなく柵の中に入っていく。

 柵の向こうにはわずかな足場しかない。


 その先は、奈落の大地だ。


 「ほら、愛しの兄貴のところに行けよ」


 それを見て、高井はアバズレを解放する。   

 

 アバズレは円二君のところへ走っていきー、


 「円二…!ごめん、ごめんね…」


 「いいんだ。結愛が無事なら、それでいい…」


 2人で抱き合った。


 …最後までイライラさせてくれるわね。

 まあいいわ。


 そのまま地獄まで落としてあげる。


 「さぁ高井!あの2人を落としなさい!」


 私は背後の高井に命令しようとしてー、




 高井が殴りかかってきたことに気づいた。


 「へぶぅうぅぅうううううううううううううっ!!!」


 暗転する視界。

 右手から弾け飛ぶナイフ。


 え?


 どういうこと?


 「おぶっ!!!」


 屋上の床にしたたかに打ち付けられた私は、痛みで美少女らしくない悲鳴をあげてしまう。


 「な、なんで…?」


 動揺する私にー、

 



 高井はナイフを突きつけた。


 「確かに復讐するとは言った。だが、円二と結愛だけじゃないぜ…?」







 「凛、お前にも死んでもらう!!」


 

   ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

 

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