第71話 死んでもらうわぁ!!!

「きゃあっ!?」


 全ては突然起こった。


 結愛の悲鳴と共に、俺は前に弾き飛ばされる。

 背後から何者かにタックルされたようだ。

 床に膝をつき、そのまま倒れ込みそうになるのをなんとかこらえる。


 「結愛!ぐっ…」


 右腕には鋭い痛み。

 恐らくナイフのようなもので刺された。

 とっさに左手で傷口を抑え、俺は襲撃者が誰なのかを考える。


 千恵美に拘束された凛ではないはずだ。

 あいつにそんな力はもはや残ってない。


 でも、他に誰がいるんだ?

 あいつの協力者はすでに誰もいないはず。

 資金を失った今、狂気と怒りにかられる凛を新たに手助けするやつなんて…


 「おい!?なんだよあいつ!」


 「円二が刺された!」


 「先生を呼べ!」


 「あの人誰!?」


 「やべぇ…やべぇぞ!」


 祝福の声で満ちていたはずの体育館に、動揺と恐怖の声が満ちていく。

 誰もが俺の背後にいる人物に注目していた。

 

 右腕の痛みを堪えながら振り返るとー、


 





 「久しぶりだなぁ。義妹を抱いたクズ野郎。また会えるのを楽しみにしてたよ」


 ここにいないはずの男が視界に映る。


 高井楓太。

 かつての結愛の恋人。


 そして、凛の共謀者。


 目を血走らせながら、結愛の首にナイフを突きつけ、羽交い締めにしていた。 

 

 「円二!来ないで!この人は危険…いやっ!」


 「ぐちぐち騒ぐな!騒ぐとどうなるか…分かってるな?」


 「くうっ…」


 「やめろ高井!結愛をどうするつもりだ!そもそもなぜ現れた!」


 「さぁね。君に教える義理はないよ」


 ナイフが結愛の首を掠め、血が一筋流れ落ちていく。   


 「円二!逃げて…」


 恐怖で涙を浮かべる結愛を見て、俺の全身を激情が貫いた。


 怒りで駆け出しそうになるのを必死にこらえ、拳を握りしめる。


 


 こいつには後で必ず代償を支払わせる。


 だが、まずは結愛を救出してからだ。


 「結愛、少し待っててくれ。必ず、助ける」


 「そんな…私のことはいいよ!」


 「結愛のない人生なんて、意味はない!」


 「…」


 「だから、今は、じっとしてくれ。頼む…」


 「円二…」


 結愛は目に涙を溜めながらも、気丈に頷く。




 「分かった。でも、無理はしないでね…」


 「ああ。絶対に、無理はしない」


 胸が張り裂けそうになりながらも、俺は次の行動に移る。


 高井がすぐに危害を加えないのを確認した後ー、




 ニタニタと笑っている凛に、視線を向けた。

 

 

 ****



 【side:凛】


 「あははははははははあっ!良い顔をしてるわねぇ!」


 私はヒロイン、いえ、元ヒロインを見て嘲笑った。


 「な…凛さん!すぐやめさせろ!さもないと…」


 「原田さぁん、私にこれ以上手を出せば結愛ちゃんは死ぬわよ〜?」


 「とりあえず大人しくしておきなさぁい?あなたの出る幕じゃないわ!」


 「くっ…!」

 

 背後で私を拘束している原田を黙らせ、私は自分がやるべきことに集中する。


 すなわち、主人公によるヒロインの制裁。


 主人公を裏切ったヒロインには悲惨な末路が待ち受ける。

 それは、古今東西の物語に共通するストーリーよ。



 …いえ。

 最早そんなことはどうでもいい。


 失ったものにこだわるのは良くないわ。


 確かに、私は主人公の地位を失いつつある。

 それは認めるわ。


 ただし…

 そっちがその気でいるというなら…


 「…何がしたいんだ、凛」


 その時、哀れな円二君がぼそりとつぶやいた。

 さすがにアバズレを人質に取られたら冷静ではいられないようね。


 ほくそ笑みながら弄んでやることにする。


 「あははははははは!そんなに結論を急いじゃダメよ!物語ってのは、もう少しゆっくりと味合うものだわ。ねぇ?私の元ヒロイン?」


 「…」


 「そう!そうやって静かにしていいんだわぁ!そして、私のサンドバックでいなさぁい!」


 「…


 「それこれも私を捨てた報い!あなたはずっと…」




 殺気。


 「ひっ…!」


 「何が目的だ、凛。早く言え。さっさと話を進めろ」

  

 体に寒気が走るほどの憎しみが向けられ、私は思わず身震いする。


 こ、こいつ…まだこんな反抗的な表情を浮かべられるのね。

 私を目線だけで殺そうというのかしら。


 生意気!

 身の程知らず!!

 恩知らず!!!


 良いわ、その減らず口がどこまで続くか、試してあげるわ…


 「まずは私を解放しなさい。このアバズレ短髪0号からね」


 「…千恵美、奴の言うことを聞け」


 「円二くん…分かった。離すよ」


 アバズレ0号が私の体から手を離す。 

 すぐさま全力で走り、高井の横についた。


 「高井!私の呼びかけに来てくれたのね!愛して…る!?」


 抱きつこうとした私を、高井はナイフで牽制し、顔をしかめる。


 「円二と結愛に復讐したいだけだ。勝手に恋人にするな裏切り者」


 ちっ。


 これだから脳筋は。

 まあいいわ。


 改めて円二君に向き直る。


 「さて、これで私は自由ね。次の要望に移るわ。わたしたちと一緒に、屋上にきなさい」


 「…屋上?」


 「えぇ…私ね、考えたの。私は、確かに主人公じゃなくなったわ。でもね…そんな時にも1つできることがある」


 「できる、こと?」


 「ええ、それはね…!」


 私は、両腕を広げ、声の限りに叫んだ。







 「悪役になって、あなたに生き地獄を味合わせることよ!そのために、アバズレには死んでもらうわぁ!!!」

 


  ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る