第70話 一度もないのよぉ!

 「勝った、の?」


 「ああ。俺たちは勝った。凛に…勝ったんだ!」


 声が震えている結愛の手を握りしめ、俺は答える。


 俺も声が震えていた。

 無理もない。


 多くの人間を騙し、傷つけ、弄んできた凛に勝ったのだから。


 「円二…!」


 「結愛…!」


 俺たちは互いの名を呼び合いー、




 しっかりと抱き合った。

 そのまま永遠に抱き合い続けるのではないかと思うほど強く。


 「本当に、お疲れ様。あたし、円二の役に立てたのかな?」


 「ああ…!お前がいなければ、ここまで辿り着かなかった。千恵美も、助けることができた。本当に、ありがとう…」


 「円二、泣いてるの?」


 「な、泣いてなんかないぞ。これはその…喜びの涙ってやつだ!」


 「ふふふ。強がっちゃって。あたしを選んでくれて、救ってくれて、本当にありがとうね、円二…」


 ストレスと緊張からの解放。

 復讐を成し遂げた喜び。


 感情がぐちゃぐちゃになると同時に、全身にどっと疲れが押し寄せるのを感じる。


 このまま、今日は朝までこうしていようかな…


 「ぶー…また円二君が青春を楽しんでるよ〜?」


 「ふふふふふ。少しぐらい許してあげようよ鮎川さん。ぼくも、今日はとても気分がいいんだ」


 と思ったが、背後で今回の復讐に協力してくれた2人の美少女の声を聞いて、思いとどまる。


 「美也と千恵美も、今日まで本当にありがとう。今日の勝利はみんなのおかげだ」


 「えへへへ〜〜〜それほどでも〜〜〜!」


 ポニーテールを揺らし、上機嫌で笑いながら応える美也。


 「ぼくは君の頼みならいつでも駆けつけるよ。今日までも、そして、これからも…」


 少しはにかみながら微笑みを浮かべる千恵美。

 

 今回の騒動で得た、頼もしい仲間だ。

 これからはみんなでずっと楽しく過ごしていきたい。




 「よし!警察呼んだぜ」


 「ここで実はドッキリでした〜展開だったりしたらどうしよう」


 「でもこの後どうするんだ?凛は縛っとく?」


 「SNSでなんて言えばいいかなぁ?」


 「先生は…そろそろ呼んでもいい?」


 凛の破滅を見た生徒たちが再びざわめき始める。

 俺は声を張り上げた。


 「みんな待ってくれ!もう1つだけ、言いたいことがある!」


 みんなが俺に注目する。


 そしてー、







 「俺は…結愛が好きだ!!!」


 「…へ?」


 ぽかんとした表情を結愛を尻目に、俺は叫び続ける。


 「世界で一番好きだ!愛してると言っていい!」


 「ちょ、ちょっと!何言ってるの!」


 「大大大大…大好きだ〜〜〜〜〜〜!!!」


 「もうっ…ばかっ!」


 「へぶっ!」


 顔を真っ赤にした結愛に頭をはたかれ、俺はようやく叫ぶのをやめる。


 「がるるるる…つ、遂にみんなの前で変態を隠さないなんて…大変態!」


 「いちちち…悪い。でも、言っておきたかったんだ」


 俺は全校生徒に向けて宣言する。


 「みんな、これで復讐は終わりだ。迷惑をかけてすまなかった。俺が今夜復讐を決意したのは、自分のためじゃない。1つ目の理由は、これまで凛に傷付けられた人の悲しみや無念を晴らすため!もう1つは…」


 結愛の瞳を見つめ、しっかりと気持ちを口にする。


 「結愛を守りたかったからだ。ただ、それだけだ」


 「円二…」


 「俺の事情に巻き込んでしまって、悪かった。これからは、ずっと、一生、大切にする」


 「…」

  

 結愛は一瞬瞳を揺らしたが、やがて、こちらを見つめ返す。


 「分かってるわ。円二のこと、ずっと見てるんだもの…」


 そしてー、





 「こちらこそ、いつまでも、よろしくね!」


 俺の唇に、軽くキスをした。



 ****


 

 【side:???】


 私は、主人公ではなくなった。


 愛する人、ヒロインに騙され、何もかも奪われた。

 全てはこの人のためにやったことだったのに。

 邪魔する人間を絶対に排除してきたの。


 そんな私が、負ける?

 

 主人公の地位を奪われ、破滅させられる?


 アバズレにヒロインを寝取られて、バッドエンドで終わる?


 そんなのー、







 あり得ない。

 認められない。

 おかしい。

 不条理だ。


 群衆が円二君とあのアバズレを支持したとしても、味方が1人もいなかったとしても。


 私は悪いことなんて何もしていない。 

 破滅させられるようなことなんてもってのほかだ。

 

 こんなのおかしい。


 そんなに円二君が私のヒロインになりたくないならー、

 あくまで私の手から離れようと言うならー、




 こちらにも、考えがある。 

 

 


 「うおおおおおおおおっ!」


 「ヒューヒュー!」


 「いつまでもお幸せに〜〜〜〜〜!」


 円二君とアバズレは群衆の声に気を取られ、こちらから気が逸れている。

 

 やるなら、今だ。


 「くくくくく…」


 「…凛さん、もう、大人しくしてるんだ。君に勝ち目はない。今ならまだ、引き返せる」


 「原田さん…あなたは何も分かってないわ」

  

 「…何?」


 「私はねぇ…」


 チャンスはー、




 「自分が悪いことをしたと思ったことなんてぇ!!!一度もないのよぉ!!!」


 一度きり。







 「今よ高井!!!あのアバズレを捕らえて、私のところに持ってきなさい!!!」


 円二君の背後から全身黒尽くめの男が現れ、ナイフを構えながら襲い掛かってきた。



 ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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