第68話 これで…終わりだ

 「凛がいつこんな狂った人間になったか、正確には分かっていない。だが、俺が3歳の時、こいつと偶然出会った時はすでに手遅れだったんだ…」


 再び静まり返る体育館の中で、俺は話し続ける。


 もはや俺たちの話を疑う者はいない。

 固唾を飲んでこちらに注目していた。


 喉がからからになるのを自覚しながら、この事件の、全ての元凶の始まりへと突入していく。


 病気のため入院していた病院で凛と出会ったこと。

 そこで凛に『ヒロイン』としてロックオンされたこと。

 その後一旦別れ、凛と小学校で再会したこと。


 「それから…」


 俺は千恵美の顔をちらりと見た。


 「こら!暴れると本当に窒息死させるよ?」


 「ウモモモモゥ…!!!」


 かつての旧友はしっかりと両腕で凛を拘束していたガ、やがて俺の目線に気づく。


 一瞬互いの目線が交差しー、




 千恵美は、軽く微笑んだ。

 

 笑顔の中に悲しみと、怒りと、覚悟を秘めている。

 それを見て、俺も覚悟を決めた。


 「小学校で俺を見た凛は、怒り狂った。自分を愛するヒロインだったはずの俺が、千恵美と友達になり、自分より親密になっていたからだ。それを裏切りと解釈した凛は、自分の両親から受け継いだ金を使って、クラス内に『ともだち』という組織を立ち上げた…」


 再びパソコンを操作し、再生の準備を整える。


 体育館に資料の次のページをめくる音が響いた。

 もはや、誰も俺たちの話を疑ったり、反発したりはしない。

 真実を知りたがっている。


 「ゥゥゥゥゥ…」


 凛ももはや、絶望の表情を浮かべるだけで何も言わない。

 目をしばたたかせ、奇妙に体をくねらせながら、うめき声を発するだけだ。



 

 どうやらようやく気づいたらしい。

 

 

 

 今日、自分にはどこにも逃げ場がないことを。


 「みんな聞いてくれ…こいつが幼少期に侵した罪の全てを…他ならぬ、こいつの口から!!!」

 

 

 ー聞かせてほしいんだ。なぜぼくにあんなことをしたのかを…どうして、ぼくを恨んでいるのかを。


 ーあははははははははっ…!決まってるじゃない!


 ついに再生され始める音声。

 千恵美が凛と母校の劇場で対峙していた日、密かにスマートフォンで録音していたものだ。







 ーあなたが私の円二君を奪ったから、『ともだち』を使って捕まえて、辱めさせた!!それの…何が悪いの!!!


 それは他ならぬ、封印されてきた凛の原罪。



  ****



 【side:凛】


 あああああああああああああああああっ!!!


 暴かれる!

 私の過去が!!


 音声付きで!!

 資料をじっくりと読まれながら!!!


 クラスメイトを金で一人一人買収して『ともだち』を作ったことも!!!

 円二君を階段から突き落として半殺しにしたことも!!!

 お見舞いにきたアバズレ0号を『ともだち』全員で捕まえたことも!!!

 そして…『ともだち』の中から赤城と阿部を呼び出して、朝まで辱めたことも!!!


 全部、全部、全部!!!


 どーして私だけこんな目に合わなきゃいけないのぉおおおおおおおおおっ!!!


 私はただ…アバズレ0号を絶望させるために言いたかっただけなのに!!!

  そのあと、メガネ役立たずとアバズレ0号を拉致して、もう一度辱めてやる予定だったのに!!!


 生意気にも真相を探ろうとした奴なんて破滅して当然でしょ???


 それだけで…ここまで何もかも暴露されなきゃいけないの!?!?!?


 おかしい…

 この世界はおかしいわょぉぉぉぉぉぉ…!!!


 「静かにしろ」


 暴れだしたのが不機嫌だったのか、アバズレ0号に再びハンカチを突っ込まれる。


 なんなのよこいつはぁ…


 乙女の口をなんだと思ってるのよぉぉぉぉぉぉっ!


 「ぼくは、君が死ぬほど憎いんだ…おそらく、円二くんが想像している以上にね…くくくくくく…」


 「コッ…コココココ…!!!」


 し、しぬぅぅぅぅ…!


 私は非常にも気道をほぼ塞がれ、本当に死にそうになる。

 

 意識が遠くなり、隠したかった過去が暴かれるのを、なすすべもなく容認するしかなかった。










 …見てろよぉ。

 私には、最後の、切り札が…あへぇ。

    

 

 ****



 「それぐらいにしてやれ千恵美。そろそろ本気で死にそうだ」


 「え?あ!ほんとだ。ごめんね円二くん。死んでしまったら、これ以上復讐できなくなるもんね」


 千恵美はハンカチを引き抜き、凛を蘇生させる。


 「おぽぽぽっ…!!!」


 「今、お前の過去を全て暴き終わったぞ。気分はどうだ?」


 「…あ、あかぎは、あべは、どこにやったの?」


 「さぁな。あいつらが今どこにいるのか、俺たちも知らない。お前が知る必要もない。それより見てみろ、凛」


 「…へぁ?」


 死にかけの凛が視線を向けるとー、




 そこには、怒りに満ちた群衆の姿があった。


 「単なる逆恨みで1人の女の子になんてことを…恥を知れー!!!」


 「もう我慢できない!!!私SNSで拡散する!!!」


 「誰か警察に通報してー!!!!」


 「吊し上げろぉぉおおおおおおおっ!!!」


 「死ねぇえええええええええええっ!!!」


 最後の学園祭だった3年生もー、

 先輩の姿に困惑していた2年生もー、

 どうすべしか右往左往していた1年生もー、


 みんなが怒り、叫んでいる。


 たった一人の存在に向けて。


 「すでにみんながお前の本性を知っている。これで…終わりだ」


 「そ、そんな…いや…あああ

ああああああああああああああっ!!!おきゃあああああああああああああああああああっ!!!」


 半狂乱になる凛。


 その姿を見つめながら、俺はぽつりとつぶやいた。


 「結愛、来てくれ」







 「うん!」


 結愛が、こちらに向けて走ってきた。



   ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!


 

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