第67話 核心に入る時

 「みんな聞いてくれ!この音声は、凛さんが数ヶ月前に実際に発言した内容だ!ホテルの一室で、お金を使ってかつてのクラスメイトを集めて企んでいた邪悪な計画だ!」


 千恵美の叫び声と共に、音声は静かに流れ出す。


 ーさ、『作品』ってなんですか?


 ーよくぞ聞いてくれたわ池澤さん…1人のアバズレ女を使って作り上げる、至高の芸術作品よ!完成した『作品』はインターネットの海に流され、永遠に鑑賞されるの!あははははははははははははははっ…!


 凛が数年ぶりに赤城や阿部たちと接触した時の記録。

 音質はやや悪いが、大声で叫んでいるため、その音声が凛のものであると誰もが理解できた。


 喉が潰れんばかりの勢いで高らかに笑い、叫び、興奮のあまり踊っている。


 何の事情も知らない人間でも、一度聞けば凛の狂気がはっきりと感じられるだろう。

 

 何よりー、


  「むごごごごごごごっ…ぶくくくくくくっ…!!!」


 本人が異常な反応を示し、必死に逃れようともがくのがその証拠だ。

 その姿を見て、千恵美はほくそ笑む。


 「理解できないみたいだね。無理もない。君も知っての踊って通り、この音声は元々、赤城くんや阿部くんがもってた。それを、円二くんや助っ人さんの力を借りて取り戻したんだ…あらゆる手を使ってね…」


 「んんんんん〜〜〜〜〜〜!!!」


 「うるさいなぁ。今日はもう…静かにしてなよ!!!」


 「むむむむ、むごぉ…」


 千恵美は凛の口の中にハンカチを押し込み、呼吸困難寸前にして黙らせた。

 その間にも音声の再生は進んでいく。


ー作り方をあんたたちに教えるわぁ…まず、あの結愛とかいうアバズレを円二君と拉致するの!そして、円二君を縛り上げて瞼を閉じられないようにした後…を…落として…泣き叫ぶ…そして!!!


 凛は徐々に声を小さくしていくが、唐突に音量が上がる。

 音声が途切れないよう、ICレコーダーの持ち主だった赤城が調整したのだ。


 ー〇〇を〇〇にするでしょぉ?そしたら次は〇〇〇〇を〇〇〇〇してね…!!!楽しいでしょ??日本じゃ一生体験できない、スペクタクルだわぁ!!!


  当然ながら、凛の演説は、体育館にいる学生たちの耳に入ってくる。


 いや、いやがおうにも入ってしまうというのが正しいだろう。


 「まじでやばくねこれ…犯罪じゃん」


 「だ、誰か警察呼べよ!凛とかいう奴やべーって!」


 「いやぁああああっ!気持ち悪い!」


 学生たちは音声を聞いただけにも関わらず、ある者は悲鳴を上げ、ある者は凛を睨みつけた。

 だが、当然ながら全員が同調したわけではない。


 一部の者は、美也から手渡された資料の内容を読みつつ、疑問の声を上げる。

 

 「なぁ!これほんとなのー?非現実的すぎんだけど!」


 「凛さんにも喋らせてやれよー!」


 「証拠とかないのかよ?」


 その様子を見た千恵美は、強引にハンカチを引き抜いた。

 舌ごと引き抜くほどの猛烈な勢いでハンカチが飛び出し、凛は唾液を噴き出しながら苦悶の声をあげてしまう。


 「おげぇぇぇぇえっ・・・!」


 「凛さん、みんなは君の声を聞きたいそうだよ?羨ましいね。ほら、何か話したら?」


 「うげぇ…ほがぁ…こ、この〜〜〜…!!!」


 凛は怒りで顔を真っ赤に染めたが、すぐにはっとした表情になり、聴衆に猫撫で声で訴えかける。


 「み、みんな?まさか、こんな荒唐無稽は与太話を信じるわけじゃないわよね?私みたいなか弱い女の子が、金の力で他の女の子に乱暴しようと計画するだなんて、あるわけないじゃない…そうでしょ?」


 「…」


 「何で黙るのよ!!!私はみんなのクラスメイトで仲間なのよ!仲間が危なくなってる時に助けるのが友達だろうがぁあああああああっ!!!」


 「…」


 先程からそうだが、俺や千恵美の告発に対し疑いを持つものがいても、異常なまでに狂乱する凛の姿を見て、味方する気が失せてしまっている。


 単純に異常性を感じているのもあるがー、


 「早く先生呼んでごおおおおおおおおおおおいっ!!!警察もよんでこいつら逮捕しろおおおおおおおおおおおっ!!」


 この攻撃性を目の当たりにした時、今回の告発にも一種の説得力があるのではないかと感じずにはいられないのだ。

 

 「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」


 一通り叫び終えた凛は激しく息を吸うも、少しずつ落ち着きを取り戻していく。


 そしてー、




 「あはははははははははははっ…!!」


 千恵美が公開した録音と同じく、高らかに笑い出した。


 「そうよ!証拠を出してごらんなさい!私がこんな凶悪犯罪に手を染めて証拠は何!?ただの音声じゃあ編集や加工でどうにかなっちゃうもんねぇ!どうなのよアバズレ0号!!!」


 「…」

 

 「出せなきゃ訴えてやる!損害賠償請求1億円むしり取ってやるわ!ケツの毛まで…」


 「…あるさ」


 「…は?」


 「証拠なら、ある。さあ、こっちに来てくれ!!」


 千恵美は声を張り上げ、手招きする。

 そこにはー、




 「は、はい…」


 メガネをかけたおとなしそうな女学生。


 この学校の制服を着ているが、実は他校の生徒だ。

 先ほどの録音で凛とか会話していた当人、池澤絵梨花である。

 

 もちろんここにいるのは偶然ではない。


 ー池澤、制服のサイズはいくらだ?


 ーえっ…


 ー言いたくないなら言わなくてもいいが。


 ーえーと…L、です。


 数日前から彼女とは連絡をとっていたのだ。


 池澤が自らの罪を償うのに、これ以上の機会はないだろう。

 夕方にこっそり忍び込めば、学園生の準備で忙しい学生や先生の目につくこともない。


 「なっ…池澤!?あんた、なんで…」


 「…原田さんのいうことは全部、本当です。凛さんは私を呼び出して、先ほどの録音された通りの内容を話しました。私も参加するよう依頼されましたが、あまりのおぞましさに怖くなって、連絡を断ちました…」


 「裁判所や警察署でも、今の内容を全部話してくれるかい?」


 「はい…だから、許してください…」


 「だ、そうだ。どうだい凛さん。なにか反論はあるかい?」


 千恵美は微笑みながら凛に訪ねる。


 「あ…う…お…?」


 まさかこの場に池澤がいると予想できかった凛はパクパクと口を開けるがー、







 「池澤ァッ!!!テメエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!コロヒテヤルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


 もはや人間とは思えないような怒りの咆哮をあげた。

 これが凛の本性。


 病的なまでの自己中心的精神と制御できない激情。


 そんな凛を冷静に見つめながら、千恵美は再びハンカチを突っ込んだ。




 当然、2枚目の新品をである。


 「ウモゥ…!!!」


 それを確認した俺は口を開いた。


 「…千恵美」


 「ああ。ここからは任せるよ」


 俺は千恵美から引き継ぎ、話を進めた。


 


 「みんな気になっているだろう。なぜ凛がこのような異常な行動をとっているのか。俺は、全て知っている」


 ここからはー、







 「凛の目的は…俺なんだ」


 いよいよ核心に入る時だ。



  ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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