第66話 むぐぅぅぅぅううううううううう…!!!

 ーもう、別れよう。結愛には言わないでおく。だから、俺と結愛に2度と近づくな。


 ー…あなたが悪いんだよ。


 ーは?


 ー私の方を見てても、心はずっと結愛ちゃんの方に向いてた。だから、悪いのは円二くんだよ…助けて!高井くん!私乱暴されちゃう!


 静まり返った体育館で、数ヶ月前に録音された音声が、粛々と再生されていく。

 凛が本性を顕し、円二や結愛をハメようとした時のもの。


 「これが、あの日の事件の真相だ…凛は高井をけしかけ、俺や結愛を襲わせようとした。高井に都合の良い嘘を吹き込んで…これが、全ての始まりだった」


 当事者である俺は事実を語っていく。

 完全なる無表情で。

 淡々と。


 やや不親切な感はあるが、心配はない。


 「はーい!みなさん注目!3年の鮎川美也でーす!今日の暴露内容は、円二さんと同じ凛さんの被害者である原田千恵美さんが資料にまとめてまーす!全校生徒分…は流石に厳しかったので100部用意しました!みんなで回し読みしてくださーい!」


 観覧席から飛び出した美也が、全校生徒に100ページに及ぶ資料を配りはじめたからだ。

 今から円二の語る内容の全てが、第三者から見ても分かりやすいようイラストや図でまとめられており、凛の悪行を誰でも理解できる。


 凛の最大の被害者と言える原田千恵美、彼女の憎しみ、怒り、悲しみが全て詰まった力作である。


 「1年生の丸山結愛です!前夜祭に乱入してすみません!ですが、どうか…どうか円二の…お兄ちゃんの言うことを聞いてあげてください!」


 体育館の出入り口には、生徒たちの足止めを請け負った結愛が立ち塞がる。

 

 この前夜祭は「学生の自主性に委ねる」という名目のもと、教員は参加しない。

 職員室で全員待機している。


 誰かが体育館を抜け出さなければ、内部の事件が露見することはない。


 全てが計算通り進んでいた。


 ーこの裏切り者ぉぉぉおおおおおおおっ!


 ーきゃあああああああああああっ!


 高井が逆上して凛を殴りつけた所で、俺は録音の再生を終える。


 「これマジなの?」


 「凛さんえぐいわ…」


 「普通に犯罪じゃねこれ。高井も被害者だろ」


 体育館はにわかに騒がしくなり、学生の矛先は凛へと向けられる。


 「凛先輩!これって本当なんですか?」


 「嘘なら嘘って言ったほうがいいぞ!」


 「ち、ちちち違う…こんなはずじゃ…私の、私だけの、従順なヒロインが…おごごごごご…」


 千恵美に捕らえられた凛へ質問が飛ぶが、俺の裏切りを予知してなかったのか、まともに対応できない。


 それどころかー、


 「みんな信じてぇぇぇぇえええ!!!私は悪くないのぉぉぉぉぉぉおお!私はただ幸せになりたかっただけなのに…悪いのはみんなあの女なのぉぉおおおおおおおおおっ!」


 千恵美を必死に振り払おうともがき、口から唾を撒き散らしながら自己弁護を叫ぶ。


 「なんだありゃ…」


 「頭おかしいだろ」


 「あんな人だと思わなかったわ…」


 周りの学生が異常性を感じて気持ち悪がるのを見て、邪悪な喜びが心に湧き出るのを感じた。


 だが、まだだ。




 これで壊れてしまっては困る。

 夜はまだまだ長いのだから。


 俺たちがお前の罪を数え終わるまで、せいぜいもがいてくれ。


  「みんな!一度静かにしてくれ!話はまだ終わってない!」


 俺は騒ぎが大きくなってきた群衆に向けてジェスチャーを送り、一旦静かにさせる。


 「正直、これだけなら、凛の自業自得で全てを終わらせてみるよかった。こうやって、凛の悪行を暴露することもなかったかもしれない…そのまま、資料のページをめくってくれ」

 

 体育館は再び無言になり、学生たちが資料をめくる音だけが響いた。

 


 ****


 【side:凛】



 「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!?どうして私を裏切ったのぉおおおおおおおおおおっ…ぐにゃいああああああああああ

ああっ!!!」

 

 分からない。

 理解したくない。

 拒絶したい。


 なんで?


 なんで私、追い詰められてるの?

 破滅させられそうなの?


 私が悪いことした?


 円二君のクラスメイトを金で買収して、お邪魔虫の体を辱めて、裏切った円二君にちょっと罰を与えただけじゃない。


 …私は、悪くない。







 絶対に悪くない!!!


 「さて、ここからはぼくが話すよ。ぼく自身が話したほうが、凛さんの罪をより深く分かってもらえるからね…」


 後ろからぞわりとする声。


 はるか昔に凌辱して追放したはずのおじゃま虫。




 10年前は私がこいつを捕まえていたはずなのに…!!!


 「な、何をするつもりなの!」


 「何って、大したことじゃないさ。君とぼくの、ちょっとした想い出話だよ。『ともだち』のエピソードも交えてね…」


 「正気なの!?」


 昔からおかしな人間だと思ってたけど、ついに頭が完全におかしくなったらしい。


 絶対に止めなきゃ!!!


 「やめろこのアバズレ0号!!!あんた、それを暴いたら自分もどうなるかわかってるの!!!レ…むごごごごごごごごっ!」


 0校は無言で私の口にハンカチを突っ込んで黙らせた。


 なんて屈辱!

 なんて暴力!

 女の子を身動き取れなくして、辱めるなんて!!!


 こんなことをするなんて、親の顔が見て見てみたいわぁぁぁぁあ…!!!


 「そんなことはもう、気にしない。円二君と復讐を誓った時に決めたんだ。何も包み隠さず、一つ残らず暴いてやるって!」

 

 非情なアバズレ0号は、私の口を押さえつけ、円二君に合図を出す。




 ーあなたたちには『作品』を作ってもらうわぁ。結愛とかいうアバズレ女を使った芸術作品をね!


 懇願もむなしくあっさりと暴かれ始める秘密。







  「むぐぅぅぅぅううううううううう…!!!」


 私は呼吸すら困難な中で、悲鳴をあげるしかなかった。



 

 ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします! 


 

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