第65話 白日の下に

 「みんな、今日は楽しんでますかーーー!司会の静谷とー?」


 「まるやまです…」


 学生でいっぱいの体育館に響き渡る少女の声。


 この学校を残り数ヶ月で卒業する3年生、満面の笑みを浮かべた静谷凛と、無表情の丸山円二。

 

 お互いに手を握り合っているが仲睦まじいようには到底見えない。

 また、頬や頭にガーゼを付けながら異常なほどハイテンションな凛は不気味そのものだ。


 「いよいよ今日は学園祭の前夜祭ですね!私、この日を今か今かと待ち続けててー、昨日は夜も眠れませんでした!きゃはっ!円二君はどうだった?」


 「おれは…ぐっすりねたよ」


 「もう!もっとハイテンションなじゃないとダメだぞ円二君!盛り上がっていこー!」


 「おー…」


 互いの掛け合いもいまいち噛み合っていない。


 そんな2人の姿を見て、学生たちはざわざわと騒ぎ始める。


 「なぁ、あの人たちって、結局どういう仲なんだ…?」


 「恋人同士だったらしいけど、円二先輩が凛さんを思い切り殴った後は別れたって聞いたよ?」


 「逆だろ。凛が高井に円二を殴らせたんだ。円二が浮気したからだって…」


 「高井くんと付き合ってた妹の結愛ちゃんもその場にいたんでしょ。実は、高井くんを寝取られた結愛ちゃんが、怒りのあまり凛に暴行働いてたりして…女の嫉妬は怖いよねぇ」


 学校側の隠蔽によって、春に起きた事件の詳細は、ほとんど伝わっていない。

 各々が伝聞で手に入れた情報を披露し、体育館は混沌とした空気に包まれる。


 「さて!さっそく前夜祭と行きたいところなのですが…その前に!みなさんに伝えなければならないことがありまーす!!」


 そんな空気を知ってか知らずか、凛は大声を張り上げ、進行をはじめた。


 


 ただし、進行するのは学園祭ではない。




 「今隣にいる丸山円二君は…私と小学生の頃から恋人だったにも関わらず、浮気してました!」


 思わぬ発言に会場がどよめき出すが、凛は気にも留めない。


「そのお相手はなんと!!義妹のはずのアバズレ糞ビッチ…結愛ちゃんです!!!」


 最前列で座っている結愛に向け、凛は憎悪の目線を向けた。



 ****



 んほほほほほほほほぉ!!


 たまらないわねぇ。


 あのアバズレ、いきなりの暴露で声も出ないみたいだわぁ。

 私たちの愛のパワーを前にして震えているのね。


 でもまだまだこれからよ?


 地獄をたっぷりと味合わせてあ・げ・る。


 「ああ!なんと私は可哀想な女なのでしょう!小学生の頃から円二君にずっと尽くしてきたのに、無惨に裏切られてしまいました!しかも、体育館で話し合いをしようと持ちかけたら、円二君は躊躇なく私を殴り付けたの!高井君を呼んでなかったら本当に死んでたかもしれない。おかげで、私の顔や頭には、一生消えない傷が付いちゃった…」


 …まるっきりストーリーが違うじゃないかって?


 そんなこと気にしちゃダメよ。

 円二君だって少しは罰を受けなきゃね。


 その分、アバズレを破滅させたあとはたっぷりと愛してあげる。


 「いや違うぞ、あの日凛を殴ってたのは高井だった。むしろ円二は高井に殴られたと言ってたはず…」


 「だよね、凛さんの言ってることおかしくない?」


 ちっ。

 外野の一部が騒がしいわね。


 顔と名前は覚えたから後でお金渡そうっと。

 あるいはあいつに消させようかしら。


 「でも、私はめげずにずーーーーーーっと円二君の帰還を待ち続けてきたのです!すると、奇跡が起こりました!円二君が私に復縁を求めてきたのです!!なんとだっさいことに、アバズレ結愛に浮気されたんですってーーーー!恥ずかしいーーーー!!!


 気にせずに演説を続ける。 

 

 私はずっとこの日を待ち続けていた。


 ここまで恥をかいてしまえば、円二君は私に一生頭が上がらないだろう。


 アバズレを『作品』にするときも手伝ってくれるかもしれない。


 「でも、私は許してあげました!今日、円二君との復縁を宣言し、2人で全力で学園祭を楽しみます!そして、結愛とかいうブサイクを破滅さっせまーーーーーーーーす!!!」


 これ以外にも言いたいことは原稿用紙約1000枚分あるけど、さすがに学園祭が終わってしまうのでやめておくわぁ。


 「はい!次は円二君ね!」


 私は円二君にマイクを渡す。


 「私のスマホで、アバズレと浮気してるところを見せてちょうだい♪そのあと、アバズレが別の男と浮気してる場面を見せるの♪」


 アバズレが円二君をどのように裏切ったのか、まだはっきりとは確認していない。


 ーそういえば、結愛が浮気してた証拠ってどんななの?


 ーそれは…ほんばんまでみせたくない。


 ーふぅん。ま、いいけど。勿体ぶるならすごいもの見せてよね。


 んほほほほほほぉ!

 

 きっとすごい映像なんだわぁ。

 想像しただけでぞくぞくするぅ。


 「さぁ話しなさい!円二君!ここにいるみんなに!!全ての真相を!!!」


 「…分かった」


 マイクを受け取った円二君が、復讐の第二幕を開けた。













 「この邪悪な女の言ってることはほとんどが嘘だ」


 …え?


 「確かに、俺は最初に彼女となった凛と別れ、結愛と付き合っていた。いや、今も結愛と付き合っている。家族として迎え入れた存在をで愛してしまうのは、色々と葛藤があった。でも…だからこそ、今後は本気で幸せにしようと思っている」


 えーと。

 何かの前振りなのかしら。


 早く本題に入って欲しいのだけれど。


 「だが、それ以外のことは嘘っぱちだ!俺は凛を裏切ってなどいない。俺が結愛と家族として関係を深めることを裏切りだと逆恨みした凛が、結愛と付き合っていた高井と浮気した!高井は元々凛に近づくために結愛と付き合ってたから、クズ2人にとっては渡りの船だったがな… 」


 ちょっと。


 なんで本当のこと話してるの。


 「凛は罰を与えると称して、高井に俺を殴らせた。そして、全ての罪を俺や高井になすりつけ、自分だけは助かろうとした。だが、利用されてることに気づいた高井にその場で殴られたんだ!!今凛が顔中に負っている傷はな…こいつ自身の自業自得だ!!」


 や、やめてよ…


 これじゃあー、




 破滅するのは、私じゃない!

 

 「さっきの演説で薄々気づいてるだろう。この女が嬉々として人の不幸を喜び、破滅を願うタチの悪い女だってことは…」


 「ちょっと!やめさない!!私にマイクを…」


 「俺に近くな!!!」


 「ひっ…」


 どうして?

 なんで怖い顔するの?

 主人公に向けていい顔じゃない。

 こんなのおかしい。


 どういうこと…?



 一体全体どういうこと???


 「こいつの悪行はこれだけじゃない。俺を手に入れるため、結愛に復讐するため、あらゆる悪行を犯してきた俺はこいつの小芝居に付き合うふりをし、全ての証拠を集めたんだ…」


 なんで…?

 円二君は…







 私のヒロインじゃなかったの???


 

 ****


 

 「今ここで、俺は全ての証拠をばらす。前夜祭を邪魔して悪いが、少しだけ付き合ってくれ。そうすることでしか、こいつを止めることはできないんだ」


 俺はゆっくりと歩き出す。


 向かう先にあるのは、パソコンに接続されたプロジェクター。

 学園祭用の映像を映し出すために用意されたもの。


 そこにー、




 凛のスマホをケーブルで接続した。

 俺と結愛の写真が映されるとほくそ笑んでる凛の前で、これまで封印されてきた忌まわしい真実を明かすために。

 

 





 「やめろぉおあおおおおおおおおおおおおっ!!!」


 耳をつんざく絶叫。


 狂気に満ちた表情を浮かべた、かつての幼馴染。

 さすがに目的に気づいたらしい。


 俺は突進を受け止めようとするがー、




 「この裏切り…なにぃ!?」


 「くくくくく…今度は離さないよ凛さん。文字通り、最期まで!」


 背後から千恵美に押さえつけられる。


 あまり体格の変わらない2人だが、千恵美のこれまでの恨みが、凛を完全に拘束した。


 「やめろ…やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!円二君のばかやろぉおおおおおおおおおおおお!!!」


 「さあ、やるんだ円二君!」


 「ああ!」


 俺はパソコンを操作し、プロジェクターの操作を開始する。

 






 ー…全部、円二君が悪いんですよ?


 再生されはじめる音声。


 凛が初めて本性をあらわにした日、ICレコーダーに録音されていた音声。




 「いやああああああああああああああっ!」


 凛の全てが、白日の元に晒されはじめた。


 

   ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします! 


 

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