第63話 あわわわわ!

 【side:凛】


 「朝…か」


 朝日が登った時、私は一睡もできないまま夜を明かしたことに気づいた。


 ここは2階の自室のベッド。


 ママと住んでた豪邸の半分の大きさしかない犬小屋だけど、窓の外から朝日がよく見えるのは嫌いじゃない。


 ーははははは!みんな見てぇ!原田とかいう女は、罰を与えられてこの通り惨めなレイプ目になったわ!罪を犯した人間はこうして罰を受けるの!罰からは、誰も逃れられない!あははははは…!


 アバズレ0号こと原田に罰を与え終わった日の夜明け。

 私や『ともだち』を明るく照らす朝日を見て、神様って本当にいるんだなって思ったの。


 どんな逆境を与えられても、最後には、神様は私に微笑んでくれる。

  

 「ふぁぁ…とはいえ眠いわねぇ」


 オナニーして二度寝しようかと思ったけど、流石に早起きした方が良さそうね。

 

 今日は学園祭の前夜祭当日。

 土曜日。

 日曜日は学園祭なのだけれど、そっちは正直どうでもいい。

 重要なのは今日。


 なぜならー、


 結愛とかいうアバズレを破滅させ、いよいよ円二くんというヒロインをこの手にする日なのだから。


 今日の20時を境にして、私の人生は根本から変わる。


 アバズレにどれだけの罰を与え絶望させるか。

 円二君をヒロインとしてどこまで調教するのか。

 ちょろちょろと鬱陶しいアバズレ0号の原田、アバズレ2号の鮎川をどうやって排除するのか。

 パパとママの遺産を取り戻して、役立たずの親戚夫婦にどうやって復讐するか。


 先のことが楽しみで仕方がない。


 新しい『ともだち』を作って、円二君に新たな幸せを与えてやってもいいかもね。


 なんにせよ忙しくなるわ。


 「あのアバズレ、地獄に落ちる時にどんな声で鳴くかしら。ふふふふふふ…」


 私はベッドの中で下腹部に手を伸ばし、敏感な場所を指で刺激した。

 すでにぐっしょりと濡れている。


 「あんっ…逃げちゃだめよ…円二君の処女は、私がもらうんだから…あのアバズレと何回エッチしても、ここは、初めてでしょ?心配しないで…私、道具で何回も練習してきたから、痛いのは最初、だけ…」


 全身を縛り上げられた円二くんが痛い痛いと泣いている姿を想像しながら、私は徐々にボルテージを高め、顔を赤くしていった。


 「泣いちゃダメよ。そもそも、『結愛を破滅させるまでお互いあまり接触しないようにしよう』なんて生意気なのよ。あなたは、私を散々、裏切ってきたくけに…敏感な場所をごりごり貫かれるぐらい、なんてことはないわぁ…そのまま朝まで泣いてなさぁい…変なもの漏らしたら、承知しないわよぉ…」


 やっぱり、主人公はヒロインを犯すのが醍醐味よね…


 最高の妄想に浸りながら、私は何度も絶頂するのだった。



 ****



 「準備はいいか?」


 「もちろん。台本もばっちり覚えてきた。何回でも言えるよ」


「よし。じゃあ、あとは実行するだけだな」


 朝8時。


 結愛と手を繋ぎながら、学校へと向かう。

 一大イベントが起こる日のはずだが、朝の街は平穏そのもので、行き交う人も皆穏やかだ。


 「…緊張してるか?」


 「ううん。もっとドキドキするかなと思ったけど、いつも通り。


 結愛もリラックスしており、いつも通り。


 肩まで届く黒い髪も。

 雪のように白い頬も。

 薄い桜色の唇も。

 どこか達観したように遠くを見つめる瞳も。


 美しいが、目を離した隙に消えてしまいそうな危うさを感じる、美しい少女。


 「…何ジロジロ見てるの?」


 「いや、なんでもない」


 「もう少し胸が大きかったら文句ないのに、なんて思ってたんでしょ」


 「バレたか」


 「…変態」


 結愛はぷいっと向こうを向くが、手は離さない。

 そのまま何も話さずにゆっくりと歩いた。

 

 話さずとも、お互いの気持ちはなんとなく分かる。

 



 「円二」


 結愛が口を開いたのは、学校の校門前。

 こちらの手をぎゅっと握ってくる。

 

 「あたし。円二と出会えてよかった。だから…これからも、ずっと一緒にいたい」


 俺は結愛の手を握り返した。




 「…俺もだ。これまでも、これからも、ずっと一緒にいる。約束だ」


 「…気をつけてね」

 

 「ああ。何かあったら、すぐに呼んでくれ」


 そのまま握りあった後ー、




 互いの手を離し、校門から学校へと入っていった。

 


 ****

 


 「いよいよだね!円二さん!」


 午前中。


 学園祭の準備で大忙しの校内で、美也に話しかけられた。


 何やら出し物を準備していたらしく、手や顔にペンキが付着している。


 「いつ凛さんの家に行くの?」


 「夕方ごろだ」


 「じゃあ、その辺りで先生に『円二さんは急遽足りない材料を手に入れるため買い出しに出かけました〜!』って言っておくね!」


 「ああ。今日まであっという間だった。ほんとに、ありがとう」


 「えへへ。照れるな〜」


 嬉しそうな美也だったが、やがてこちらをチラリと見る。


 「も、もしよかったら…美也に、ご褒美とかくれたりとか…なんちゃって!ごめん、忘れて」


 「喜んで」


 「…へ?」


 「俺のできることであれば、何でも言ってくれ。これまで復讐に協力して、本当に感謝しかない」


 「そ、それじゃあさ…」


 美也はそっと髪をたくし上げる。

 真っ赤に染まった額がよく見えた。


 「…その、おでこにキス、とか、どうかな?ほら、おでこなら浮気じゃないかなーって。あはは…」


 「分かった」


 「ほんと!?あ、でも心の準備が…」


 ぎゅっと目を閉じ、プルプルと震える。


 「そ、そっとでいいんだよ!?結愛ちゃんに悪いし…」


 早口でまくし立てる美也の唇に近づきー、




 軽くキスをした。


 「…へ?」


 「ありがとう。じゃあ、また」


 「あ…あわわわわわわ…!」


 口をパクパクさせながら目を見開く美也の肩をポンと叩き、俺は去っていく。


 ちょっただけ不公平感を感じていたので、せめてもの恩返しのつもりだ。


 「こ、これが青春の味…!美也、一生忘れられないかも…!」

  



 もちろん浮気ではない。

 …結愛には、後で言っておく。

 


 ****


 

 そんなこんなで学園祭の準備は順調に進み、いつのまにか夕暮れとなる。


 俺は美也に連絡を送った後、教室からそっと抜け出して、学校の校門へと向かった。

 

 


 凛のスマートフォンを手に入れ、復讐に必要な最後の1ピースを手に入れる。


 

 

 復讐が開始されるまで、あと3時間。


 

 ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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