第60話 最後の対話

 【side:凛】


 「円二く〜〜〜〜ん!早くおいでよ〜〜〜!!」


 「まってくれ!はやすぎる!」


 今日はなんという風の吹き回しなのかしら。


 円二君から『ほうかごおまえといっしょにあそびにいきたい』だなんて。

  

 これまで、いっつも私の方から誘ってきたのに。

 円二くんも少しはヒロインらしい自覚を覚えてきたのね。

 褒めてあげてもいいわ。


 ま、ヒロインもある程度主人公に惚れた後は自分からぐいぐい来るのが普通だものね。


 これからは円二くんに家事、仕事、育児、私の介護に至るまであらゆることをやってもらうつもりだし、丁度いいわ。


 そろそろ家政婦スキルもじっくり仕込ませないと。


 「早く来ないと置いていっちゃうからね〜〜〜!」


 そんなこんなで、私はつい嬉しすぎて、カバンを円二くんに持たせて走っちゃった。


 息を切らしながら道を走っていると、前方に赤い観覧車が見えてくる。


 私と円二くんが恋人同士になった場所、姫宮観覧車。  


 川辺の広大な森林公園の一角に建てられた人気スポット。

 あそこに乗ったカップルは幸せになるという言い伝えがあり、日曜日はいつもいっぱい。

 

 懐かしいわぁ。

 あの時観覧車で見た光景は今でも覚えてるの。


 私と円二くんはあそこで恋人同士として結ばれて、キスをしたんだっけ。


 …まさかあの後あんなことになるとは思わなかったけど、今となってはいい思い出ね。


 雨降って地固まるというやつよ!


 「うふふふふふふ…あはははははは!!」


 ああ、幸せ…

 

 私は円二くんを追いかけながら絶頂する。

 



 ついに私はヒロインを取り戻した。


 主人公として、あらゆる邪魔者を情け容赦なく破滅させ、ヒロインに金で幸せな人生を与えてやり、最後には結ばれる王道ストーリーをクリアしたの!


 一瞬だけルート選択をミスってラスボスのアバズレに危ない目にあわされたけど、今では雑魚でしかない!


 あと数日に迫った学園祭で、あの女は真実を暴かれ、円二君にゴミのように捨てられる!

 『作品』にした後は闇サイトにばら撒いて、永遠に消えない墓標をデジタル空間に刻み込んでやるわ!

 もちろん、パパとママからもらったスマホを取り戻したら、『作品』を永久保存ね。


 円二くんと喧嘩した時はあの映像を見せて説教してあげるの。


 ーあなたの人生を幸せにしたのは誰かしら?浮気されてピーピー泣いてたのを救ってあげたのは誰?


 ってね!


 いずれにしろ、アバズレを地獄に叩き落とせば、私のこれまでの旅路は一気にクライマックス!


 円二くんと私は晴れて結ばれ、アバズレが泣き叫んで命乞いをする中、誓いのキスを…


 「なにしてるんだ?はやくいくぞ?」


 気づけば、円二くんはいつの間にか私の前を歩いていた。


 いつの間に私を追い抜いたのかしら。

 いつもなら『ヒロインが主人公の前を歩いてはいけない』と説教するところだけど、まあいいわ。


 今の私は機嫌がいいの。


 「あ、ごめんなさい。今行く!」


 私は再び歩きはじめ、円二君と共に観覧車の元へ向かった。




 ヒロインとして調教するのは、もう少し落ち着いてからね。


 

 ****



 【side:結愛】


 「お邪魔します」


 円二が偽のデートで凛さんを誘き出したのと同時刻。

 あたしは、密かにとある場所に来ていた。


 「し、静谷芳樹です」


 「静谷茜といいます。今日はよろしく」


 凛さんの親戚の家。

 すでに円二と話はついていたらしく、親戚夫婦の2人が出迎えてくれた。


 「お邪魔しまーす!美也はもう3回目だけど」


 「ここが、あの女のハウス…くんくん、なんだか、あの女の匂いが漂っているようだよ…くくくくくく…」


 鮎川先輩と原田先輩も一緒。


 全身真っ黒な服を着た原田先輩のテンションはちょっとおかしいけど、『そっとしておいてやれ』と円二から言われてるので、そのままにしてあげた。


 「じゃあ、さっそく…その、アレをもらえますか」


 「あ、ああ。これだ。解約しているが、写真フォルダに入ってるのは、そのまま残ってる」


 「この人、凛のやつが散々返せ!って言って来たけど、絶対に渡さなかったんだよ。ちょっとだけ、惚れ直しちゃった❤️」


 「お、おい。こんなところでやめないか」


 茜さんの惚気を聞きつつ、芳樹さんから渡されたものを受け取る。

 

 凛さんのスマホだ。

 指示通り写真フォルダを開くと、探し物はすぐ見つかる。


 


 あたしと円二が、ホテル街でキスしていた時の写真だ。

 半分演技、半分本気でキスしているあたしたちを眺めながら、凛さんはシャッターを取り続けている。


 そのまま、ホテルに入るまで数十枚取り続けた。


 あたしと円二を脅すための、最後の武器。

 これを失えば、凛さんは本当に全てを失う。


 本当に、全てを。

 



 …というか、流石に恥ずかしいわね。


 凛さんには悪いけど、さっさと写真を別の場所にー、




 「じー…」


 「くくくくく…」


 「うわっ!鮎川先輩と原田先輩!な、何覗き込んですんですか!」


 「いいなー…青春だなー…」


 「くくくくく…ぼくはいいのさ。忘れないよ、あの時のキスの味は…」


 「も、もう…!早く作業を終わらせて帰りますよ!」


 「「はーい!!」」


 子供のような返答を返す2人に内心呆れつつ、作業を始めるのだった。

 

 

  ****



 「凛」


 「なぁに?」


 2人きりの観覧車。


 ちょうど頂上に来たところで、俺はかつての幼馴染に声をかけた。




 「本当に、悔い改めないのか?」


 おそらく、彼女との最後の対話。



  ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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