第59話 あいつと

 【side:凛】


 「え、円二くんは知らなかったわよね!私が作りたい『作品』のこと!」


 「ああ、そういえば、ぐたいてきにはきいてなかったな」


 放課後。


 私は計画の打ち合わせをするために円二くんを呼び出した。

 急に呼び出したんだけど、円二くんはにこにこしてる。


 胸のざわめきを感じながら、私はまくし立てた。


 「まずはね、あのアバズレを磔にして言葉責めにする!そしてね、〇〇を潰して〇〇〇〇だけ残して、円二くんを裏切った罪を懺悔させる。それでね、〇〇〇は〇〇にして、〇を〇〇〇〇剥ぎ取って、私に被せるの!あとはね…」


 十数分に渡って語られる『作品』の設計図。

 

 円二くんにちょっと引かれるのを承知で、包み隠す話した。

 

 「ど、どう?こういうのって過激なほど闇サイトで売れやすいの!やるならきっちりやらなきゃね!」


 流石に怒られるかと思ったのだけれど…


 「すばらしい。さすがりんだな。おれもみてみたいよ


 「え…?」


 円二くんは平然としていた。


 連絡を絶った阿部や赤城ですら、最初はドン引きしていたのに…


 「おれからもていあんがあるんだ」


 それどころか、ニコニコして私に新たな提案を持ちかける。


 「おれとおまえで、ぜんやさいのしかいをやるんだ。すでにいいんかいにきょかがとおってる」


 「司会?」


 「ああ。そこで、ゆあにうわきされていること、じつはおまえとつきあってることをあかすんだ」


 「そ、それは効果的ね…」


 「そしてすうじつご、がくぜんとしているゆあをらちする。そのあとはおまえのすきにすればいい」


 「…」


 「なんなら、おれも『さくひん』に協力するよ!ぜひつれていってくれ!」


 胸の中がゾワゾワする。


 説明しようのない違和感。

 不吉な予感。


 

 

 円二君は、この前のように私を怒らない。

 何も問い詰めない。

 何も要求しない。

 こちらの欲求には従順に応じる。

 



 何故だろう。 

 

 私が望んだヒロインとしての円二君がそこにあったのに…


 


 何かが違う気がしてならない。


 「ねえ…」


 「どうした?」


 「私に、隠してることない?」


 「かくしてること?」


 「とぼけないで…!本当は私に怒ってるんだ!」


 主人公の私はヒロインに問い詰める。







 「本当は…円二くんもお金が欲しかったんでしょ!?」


 「え」


 「悪かったわよ。本当は、円二くんにもパパとママのお金を渡してあげたかったわ。でも、それっておかしいでしょ?私は主人公なのに、ヒロインにお金を渡して『付き合ってください。仲良くなってください』って頼むなんて…それじゃあ本当の意味で主人公になれないじゃない!」


 「…」


 「ねぇ、分かってよ…ヒロインの献身あってこその主人公なの。主人公は直接何もしなくてヒロインに愛され、尽くされる。それが、正しい形なの…」


 だから、私は高校生になってお金を使うのをやめることにした。


 鮎川とかいうアバズレ2号が『痴漢から助けられた』なんて思い上がってチラチラ円二くんのことを見てた時は、誰かに襲わせて行方不明にさせようと思って闇サイトを漁ったけど、結局関係が進展しなかったのでそのままにしてあげた。


 だって…


 私だって、最後には『何もしなくても純真なヒロインに尽くされる主人公』になってもいいでしょ?


 そのために随分苦労してきたんだから。

 円二くんに投資してきたんだから。

 おじゃま虫に地獄を味合わせてきたんだから。


 それぐらい…




 「おこってなんかないよ」


 その時ー、




 円二くんが私を抱きしめてきた。

 一瞬身を引こうとしたけど、たくましい腕でぎゅうっ…と抱きしめられる。


 「おれはもじどおり、おまえのとりこなんだ。おまえのいうことなら、なんでもしたがうよ」


 ああ。


 暖かい…


 円二くんの方から抱き締めてくるのは、これが初めてかもしれない。


 最後に円二くんと直に触れ合ったのが345日前。


 アバズレに心惹かれていくのを焦った私が、円二くんが告白してくるようなシチュエーションをわざとセッティングして、ようやくキス。


 それで目移りすることもなくなると思ったのに…相変わらず心はあの女に少しだけ傾いていた。


 その時の私の気持ち、分かる?


 ぽっと出のロリ女にヒロインを寝取られる主人公なんて、そんなのおかしいわよね。


 でも、もういいの。




 ようやく、私はヒロインを手に入れた。




 それだけで、全てを許すわ…

 そろそろ円二くんの処女をもらって、そして私も童貞卒業を…




 「それより…」


 耳元で、円二くんが小さい声でささやく。

 私に対して、1つのお願い事。




 「…それは、ダメよ」


 「そうか…わかった。おまえにあずけておくよ」


 「ええ。大丈夫よ。絶対に、私以外の人間が見たりなんてしないわ」


 いくら円二くんでも、それだけは。


 「私、ちょっと用事があるの。先に帰ってて」


 「わかった。じゃあ、またあした」


 円二くんは徐々に遠くなっていく。


 少し寂しいけど、心は暖かいわ。




 だって、今の円二くんとは相思相愛なのだから!



 ****



 「…別に、取り返さなくっていいのに」


 校門を出ると、結愛が待っていた。


 ぽふ。


 一言呟いて、こちらの胸に顔を埋めてくる。

 頭を軽く撫でた後、こちらもぽつりと呟いた。


 「そういう訳にはいかないさ」


 「…あたし、怖くないよ?」


 「俺は怖い?」


 「何が?」


 「がるるるるるっ、って言われながら噛まれることが」


 「…ばか。でも、どうするの」


 「そうだな…」


 俺は少し考えた後、思いついたことを言ってみる。







 「あいつと、デートでもするか」



  ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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