第58話 復讐は徹底的に

 【side:凛】


 ああ。


 私は何を迷っていたのかしら。

 

 頑なに私にスマホを返そうとしない役立たずの親戚夫婦と1時間に渡る激論を交わした後、捨て台詞を吐いて家を出た時、正直不安だったわ。


 


 ーどうして俺をずっと1人にしたんだ!寂しかった…!お前のせいで青春がめちゃくちゃだ!!!


 なんて言って円二君が私を責めないか。


 画面越しでは優しくても、本当に会った時どうなるかなんて分からないものね。




 でも、私にだって言い分はあるわ。


 円二君は、私がお金をあげて献身的にサポートしてあげなきゃ生きていけないもの。

 何もかも私が裏で動いてあげないといけないの。


 私がいなければ友達も作れないし、恋人なんて絶対無理だし、お料理や家事もまるでできないし、復讐に至っては一生できないわ。




 …高井の時はどうしたのかって?


 あれは、あのアバズレが全部仕組んだに決まってる!

 ピュアな円二くんに悪いことなんて出来るはずない!!

 高井はやんちゃな見た目の割に円二くんに倒されるほど弱いもやしだっただけ!!!

 ICレコーダーで私との会話を盗み聞きするなんて、私の円二くんの解釈と360度違ってるわ!!!!


 





 …こほん、取り乱してしまったわ。


 これじゃあただの悪役ね。

 私は主人公で円二くんはヒロインなのに。

 もっと正しい振る舞い方を身につけなくちゃ。


 ま、まあ、原田さんを拉致しようとした時は私をボコボコにしたし、少しずつ大人になっていってるのは認める。


 でも、少しずつよ。

 

 彼は永遠の子供でなくちゃいけないの。


 何も知らずー、

 何も疑わずー、 

 何も恨まずー、

 何も逆らわない。


 数ヶ月期間が空いちゃった分、もっと念入りにピュアな円二くんを保っていかなくちゃね。


 というわけで、今日ぐらいは円二くんに怒られる覚悟をしていたのだけれど…




 ーひさしぶりだな、りん。きずはもういいのか?

 ー…え?ええ。たまに鈍痛は走るけど。

 ーそうか。むりをせず、ゆっくりとすごしてくれ。

 ー…怒らないの?

 ーおこる?

 ーええ。なんで自分を放っておいたの?って

 ーそんなことはしないさ。


 円二くんはにっこりと微笑んで優しく声をかけてくれたの!

 



 ーおれはもう、おまえにいっしょうおこったりなんてしないよ。いっしょう…


 なんてピュアなのかしら!

 

 円二くんはやっぱり円二くんだった。

 一度や二度騙したぐらいで怒ったりなんかしない。


 ヒロインのように主人公のことを全部肯定してくれるわ。

 私もニヤケ顔をこらえるのが精一杯。


 ーありがとう円二くん!あなた信じてよかったわ!じゃあ早速…

 ーさっそく?


 だからー、


 ー結愛とかいうアバズレをどうやって破滅させるかじっくり考えましょ?浮気を暴くだけじゃ飽き足らないわ!私、あの子で『作品』を作りたいの!


 さっさとあの女には退場してもらわないとね。


 何故かこの学校にいる原田さん(なんだか元気そうでムカつく)とか言うおじゃま虫以上の地獄を味合わせてあげるわぁ。


 もちろん、ピュアな円二くんに『作品』を作らせるのは流石に気が重いから、助っ人に声をかけてるの。


 流石にこれは円二くんにも内緒だけど…




 ああいう気の強そうな生意気ちび女が痛みに泣き叫ぶんで命乞いするのが楽しみー、


 「あのさ」


 「ん?」


 短いようで長い回想がいつのまにか終わっていたようね。


 円二くん、シリアスな顔してどうしたのかしら?

 解釈と異なる表情はやめてほしいんだけど。


 


 「…ふくしゅうなんて、やめないか?」


 「んんんんんん???」


 「たしかにあいつは、ゆあはうわきしてた。でも、そこまでかれつにふくしゅうするべきかまよってる…わかいのみちもあるんじゃないか?」


 やれやれ。


 


 円二くんはピュアすぎるんだから。


 「そんなんじゃ駄目よ円二くん!復讐は徹底的にやらなきゃ駄目!相手が許してって言ってきても、涙を流しても、土下座しても、目の前で痛めつけられても、ぜーーーーーったいに許しちゃ駄目よ?死にそうになってる相手を見てマウントポジジョン取りながら顔をぶん殴り続けるぐらいじゃないと駄目よ?」


 「でも…おれたちだって100ぱーせんといいにんげんじゃないし…」


 「あーはいはいそんなの気にしないの!悪事を一つも犯したことがない善人なんてこの世界には1人もいないわ?復讐すると心に決めたらそんなことでためらう必要なんてない!息絶えるまで手を緩めちゃ駄目よ〜〜〜」


 私は円二くんの肩をポンと叩いて、ピュアすぎる男の子を嗜める。 


 少なくとも、あのアバズレに対して復讐するまでは、もっと元気に、容赦ない態度でいてもらわなきゃね。


 「…わかった」


 私の説得を聞いて、円二くんは納得したような表情を浮かべる。




 「おれ、てっていてきにふくしゅうするよ!ぜったいにえんりょなんてしない!ぼこぼこにする!ぶっころす!!!」


 「その意気だわ!」


 私はほっと胸を撫で下ろす。


 「じゃあ、あのアバズレの浮気を学園祭の前夜祭で暴いた後の話だけどー」


 「円二くん!」


 その時、後ろで声が聞こえた。


 「どうした?千恵美」


 「天気もいいし、今日もぼくとサッカーしようよ!」


 誰かと思ったらおじゃま虫じゃない。


 10年前のあの日、赤城と阿部を使って完膚なきまでに精神を破壊したはずなのにどうして…


 「おいおい、朝もしたばっかりだろ」


 「え〜〜〜…ぼくと遊ぶの嫌?くすん…」


 「ばっ、おい、泣くなよ。仕方ないなぁ。行ってやるよ」


 「えへへ、嬉しい!」


 円二くんはおじゃま虫の頭をポン、と撫でて、急に立ち上がる。


 「おれ、ちょっとともだちとあそんでくる」


 「え…ああ、いいけど…」


 「じゃあ!」


 そして、私を置いて去っていく。


 「おっはよー!ってあぶなっ!もう円二さんと原田さん元気すぎ〜〜」


 「おはよう。美也もサッカーするか?」


 「…さ、流石にやめとく。また後でね〜〜〜!」


 「ああ!」


 モブの女キャラと楽しそうに会話しながら。



 




 どうしたのかしら。


 いくら男女のおじゃま虫とはいえ、あんな爽やかに女の子に話しかけて、モブの女の子とも親しげにするなんて。







 私の解釈と、違う。



 ****



 「凜さんは、どうだった?」


 「何一つ変わってなかった…よ!」


 千恵美に報告しながら、サッカーボールを天高く蹴り上げる。


 「そっか。じゃあ…遠慮はいらないね。例え謝っても許さない…けど!」


 隣の旧友もそれに続く。




 そうだ…復讐は徹底的にやらなくっちゃな。


 澄んだ秋空に消えていくボールを眺めながら、改めてそう思うのだった。



 ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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