第57話 自己紹介しましょうか!

 ※昨日公開時にタイトルが抜けておりました。すみません!





 ****


 凛は人知れず全てを失った。


 両親から受け継いだ財産も、醜い金で繋がっていた『ともだち』も。 

 今は親戚夫婦の家に半幽閉状態となり、冷たい視線で睨まれながら、ほぼ毎日俺と通話口で愚痴っている。

 

 だが、今の彼女はそれを苦に思っていない。


 「あのアバズレを破滅させたらどこへ行きたい?私が、どこにでも連れて行ってあげるわ。あの役立たずの夫婦からお金を取り戻してからね…」


 俺さえいれば何もいらないのだから。

 多額の金と時間をかけて欲しかった存在が、手に入ったと思い込んでいるのだから。


 原田さん含む多くの人間を傷つけてきたのも、もはや凛にとってはどうでもいいことなのだろう。




 だから、制裁が必要なのだ。

 赤城たちのようにただ闇に葬るだけでは足りない。




 心を抉るほどの苛烈な制裁を。


 ー…計画は以上よ。すごく簡単でしょ?完成した作品はあなたたちの好きにしていいわ♪




 押収した赤城のスマホに録音されていた内容を見て殺意を覚えながら、俺は、そう決意する。


 ー写真も消しました。円二くんも、結愛ちゃんも、もう終わり。




 あの時活用し損ねた音声も、そろそろ使い道が生まれそうだ。


 

 ****



 「ん…」


 髪が顔に触れる感触。

 かすかな吐息。


 目を開けると、結愛がキスを試みていた。

 

 首を傾ければ唇に触れられそうなぐらい近い。


 「…起きてたんだ、変態」


 「寝ている兄にキスを試みる義妹も変態では?」


 「あ、あたしはいいの。レディファーストって言うし」


 「言葉の解釈が間違ってるぞ」


 「ふん、隙を見て、またキスしてあげるんだから…」


 原田さん、いや、千恵美のことを告げて以来、結愛はやたらとキスにこだわるようになった。


 嫉妬、と思ったのだが、義妹によると違うらしい。


 ーど、独占欲が刺激されただけなんだからね!原田さんのことは、今後も大事にしてあげなきゃ許さないんだから…


 ーそう言うのを嫉妬と言うんじゃないのか?


 ー違うから〜〜〜!がるるるる、今日は本気で噛む、かも!


 ーじゃあ、どんな気持ちなんだよ。


 ーうっ…それは…


 八重歯を剥き出しにした結愛は考え込み始める。

 再び口を開いたのは30秒後。


 ー原田先輩はその、良い人だから…嫉妬なんて、したくないから…だから、今の気持ちは嫉妬じゃない…


 相変わらず、自分の感情をストレートに表現するのが苦手のようだった。


 「そろそろ学校に行くぞ。今日は…あいつが帰ってくるしな」


 「うん」


 結愛は寝室から出ていこうとするが、途中で立ち止まる。


 「あのさ…」


 「うん?」


 





 「凛さんに復讐したら、その後どうする?」


 意表をつかれる質問。


 「どうって…随分と気が早いな」


 「復讐したって、人生が終わるわけじゃないでしょ。その後のことも考えておかなきゃね」


 「ふうむ…」


 俺は少し考えてみる。




 なんとなく時間ができそうな気がするな。

 そして2人でできること。


 特別なこと。




 「…旅行でも行くか」


 「り、旅行?」


 「ああ。どうせ俺は受験もないし。ここじゃない遠い場所に行こう」


 「ここじゃない、遠い場所ね…そこで、義妹と禁断と背徳にまみれた生活をー」


 「こら」


 「冗談。うん、いい考えだと思う」


 どうやら当たりだったらしい。



   

 「あたし、暖かいところがいいな。特別なものはなくてもいいから、そこで円二とゆっくり過ごすの!」


 「分かった。考えておく」


 「円二に任せるわ。じゃあ、今日も張り切って復習に行きましょう」


 笑顔を浮かべ、結愛は寝室を勢いよく飛び出す。


 「ふんふんふ〜ん♪円二と旅行♪楽しい旅行♪」


 スキップする姿はまるで子供のようだ。


 


 さて。

 どこに連れて行ったものやら。


 

 ****



 「学園祭の開催まであと1ヶ月!みんな、進捗はどうだ?」


 早朝。


 俺と結愛はいつもより90分近く登校し、人気のない図書室に向かう。


 すでに千恵美と美也が待っていて、作戦会議となった。


 「はいは〜い!では早速美也から報告します!文化祭運営部との交渉の結果、例の件は無事承認されました!『なんで円二さんがそんなことを希望するんだろつ?』って不思議がってましたけど、並いる陽キャを美也パワーで説得しました!」


 「ありがとう美也。千恵美は?」


 「ぼくも準備は万端だ。円二くんがもらった資料をパワーポイントや画像編集ソフトで編集する作業は、昨日でほとんど完了してる。あとはどうばら撒くかだけ…くくくくく…」


 千恵美は悪役のような声で笑う。


 …事情が事情なので致し方ない。


 「あ、ありがとう。予想より早いペースで助かったよ。結愛は…分かってるな」


 「ええ。あの人がいる前で、絶対に円二とは接触しない…少しぐらい我慢するわ」


 「ああ。頼む。もう少しの辛抱だからな」


 3人の報告を聞いた後、俺は新たに決まった方針を告げる。


 「知っての通り、学園祭は全校生徒にとっても大事なイベントだ。だから、影響は最小限に抑えたい。これは、俺たちの私的な報復だからな。そこで…」


 机に置かれているのは、学園祭の予定表。


 2日の日程で構成されている。

 その内の1つを指さした。




 「本番は1日目の夜、つまり前夜祭の時に決行する」

 

 

 ****


 

 「おはよう!」


 3年3組の教室に、長らく欠席していた1人の女学生が突如現れた。


 顔はあちこち傷ついて痛々しいばかりだったが、彼女は意に介していない。


 むしろ喜色面々の笑みを浮かべている。


 「みんな、心配かけてごめんね!あれ、みんな冷たいなぁ。私のこと忘れちゃったぁ?無理もないのかしらね。高井とかいうクソ男…こほん、ちょっとした暴行事件があってから長らく来れてなかったし」


 クラス全員忘れてなどいない。


 ただ、異様な雰囲気に呑まれ、発言できないだけだ。

  

 「じゃあ、改めて自己紹介しましょうか!」


 それにー、


 「そこに座ってる丸山円二くんの彼氏、静谷凛で〜〜〜〜す!もし円二くんに手を出したら、誰かに襲わせるからね!」




 クラスの大半は、彼女の本性を知り始めたばかりなのである。

 


 ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。




 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る