第53話 長ければ長いほど

 「『友達』だぁ?」


 「ああ。金に釣られて利害関係で繋がっているだけの『ともだち』とは違う。お前たちに復讐するために集まった、本当の友達だ」


 「何を訳の分からねえことを言ってんだ!ぶっ殺してやる!ギャハハー」


 「待て」


 「あ?」


 「黙っていろ阿部。こいつと話がある」


 飛びかかろうとした阿部を赤城が制する。

 すでに頭に血の気がのぼっている阿部とは違い、表情は冷静そのものだ。

 

 覆面をしている『友達』のメンバー、特に俺を注意深く眺めた後、ぽつりと呟く。


 「お前…円二か?」


 「バカな阿部とは違って流石に鋭いな」


 「忘れはしないさ。一応『ともだち』だったからな。お前のおかげで、凜から金をたっぷり稼がせてもらったぜ…凛の奴をどこへやった?」


 「さあな。いずれにせよ、もうあいつから金はもらえないぞ」


 「もったいねえことをしやがる。金が尽きるまでふんだくる計画がパーじゃねえか」


 「あいつの汚らわしい悪事をこれ以上看過できない。手足となって働いてきたお前らも同罪だ」


 「おもしれえ…やってみろよ」


 赤城がたばこを吐き捨てて立ち上がり、握りこぶしを構える。

 流石に喧嘩慣れしているようだ。


 足で軽くステップを踏みながら、俺たちとの距離を慎重に図っている。


 「しかしよぉ…お前に復讐されるほどのことはしていないはずだぜ?」


 「お前を裁くのは、俺自身の恨みじゃない」


 「はぁ?」


 「そこから先はぼくが話すよ、円二くん」




 はらり。


 覆面が地面に落ちる音。

 原田さんが前に出て阿部と赤城を見据える。


 「ぼくを覚えてるだろ?阿部くん、赤城くん。例え、クラスメイトとして一緒にいた期間は短くてもね」


 「お、おい赤城。あいつって…」


 「なるほど、原田か…確かに、俺たちが憎いだろうな」


 「…覚えてくれて嬉しいよ。いや、君たちが忘れるはずないよね。あの日、凜さんの無茶な要求にみんなは戸惑った。広川くんも、最後には引き下がった。でも、君たちは違ったんだ…」


 快活で、誰に対しても明るく接している旧友の瞳に宿るのは、憎しみの炎。

 憎しみを具現化する能力があれば、男2人はとっくに焼き殺されていたに違いない。




 「君たちは追加でお金をもらうことを条件に…凛さんの命令を実行したんだ!!!」



 ****


 

 「くくく…あの時は悪いことしたなぁ」


 赤城の顔に、はじめてはっきりとした感情が宿る。




 見るもの全てをぞっとさせる愉悦の表情だ。


 「俺たちもガキだったから、加減が、いや、やり方が良くわからなくてよぉ。凜から言われたことを見よう見まねでやってみたが、お前が泣き叫んで大変だったぜ。痛かったよなぁ、怖かったよなぁ」


 「…」


 「でも俺たちは悪くねえ。子供だった俺らに判断能力なんてないし、凛の命令に従っただけだ。今ならもっと優しくしてやれるがよ。いずれにせよ、俺たちは無罪だ。時効だしな、ははははははははは…!」


 俺は頭に血が昇った。


 こいつらは、凛の命令に従ったあの日から、人間としての道を捨てている。

 ただの獣だ。


 打ち合わせのことも一瞬忘れて飛びかかりそうになるが、原田さんが後ろを振り返り、首を振る。


 「いいんだ、円二くん。言わせておいておけばいい」


 そして、改めて赤城たちの方へ向き直る。







 「君たちは可哀想だ」


 「…あ?」


 「凛さんを馬鹿にしてるんだろうけど、君たちも同類だよ。過去に囚われて、自分の罪と向き合わず、また新たな罪を重ねようとしている。ただの子供だ」


 「…て、てめぇ」


 「いまだに『ともだち』面して凛さんからお金をせびり、彼女にあの日の罪をなすりつけようとしているのが良い証拠だ。そんな人間の言うことで、ぼくは今更怒ったりなんてしない」


 「く…」


 「ぼくも、植え付けられた過去のトラウマから逃げられなくて、ずっと囚われていた。この世界からいなくなろうと思ったこともある。でも、今は違う」


 原田さんは一瞬こちらにウィンクした。

 

 胸に熱い思いが込み上げる。


 再開できて本当によかった。

 心からそう思えた。 


 「ぼくのことを信じてくれた人、愛しんでくれる人と一緒に人生を楽しみたい。だから…」


 原田さんは、1度軽く息を吐き、笑みを浮かべる。




 「今はただ、淡々と復讐がしたいんだ。みんなと一緒に」


 

 ****



 「やりたきゃやってみろよ…だがな、ここがどこか分かってんのか!」


 愉悦から怒りへと表情を変えた赤城が吠える。


 それと同時に、室内のあちこちから複数人の人影が現れた。


 10〜20代の若い男数人。


 明らかに真っ当な人間たちではない。

 各々バットやナイフのような武器を持ち、着崩した服装やデタラメな色に染めた髪が目立つ。


 先頭にいるひときわ派手な格好をした金髪の男がリーダー格らしい。


 (…予定通りだな)


 凛から奪い取った『ともだち』の個人情報に記載があった。


 阿部と赤城は非行を繰り返した果てに、カラーギャング『西連合』に所属していると。

 俺たちが今いる場所、『西連合』のアジトの場所も書いてあった。


 「おう赤城〜〜〜なんだよこいつら〜〜〜」


 金髪の男が赤城に問いかける。


 かなりチャラい口調だ。

 赤城は弾かれたように男の元に駆け寄り、慌てながら話しはじめる。


 所属しているといっても、赤城と阿部の立場は下っ端でしかないようだ。


 「高部さん!こ、こいつら俺たちに喧嘩売りに来たんすよ!『西連合』を潰しに来た奴らです!」


 「へえ〜〜〜そうは見えないけど〜〜〜?1人女の子じゃん〜〜〜!知り合いじゃないの〜〜〜?」


 「し、知らない奴らです!この際関係ないですよ!あの男2人ボコって、女はさらってー」


 「いやだね〜〜〜〜!」


 「…え?」


 「そうでしょ〜〜〜???円二く〜〜〜ん。君の言う通りやっぱこいつ嘘つきだったし、好きにやっていいよ〜〜〜?」


 動揺する赤城を尻目に、高部は俺に語りかける。


 「はい。『作品』を作った後は、引き渡します」


 「頼むわ〜〜〜〜お前たちも手出すなよ〜〜〜!」


 





 俺がこの男、高部と関係を持ったのは、凛から『ともだち』の情報を受け継いだ3日後である。


 ーは〜〜〜?赤城と阿部に復讐したいから、アジトにいたら教えろって〜〜〜?無理に決まってー


 ー…あなたのお金を騙し取ったとしてもですか?


 ーは?


 ー以前、あなたのお金を新人2人が持ち逃げしたことがありましたよね。あれの犯人は、新人じゃありません。赤城と高部です。


 ー分かった…詳しく聞かせろ。


 ーはい。やつら、違法賭博に負けて多額の借金があったようです。それで、手頃な金を手に入れるべく…




 凛は赤城に脅されている身分から脱却するため、密かに金を使って情報を集めていたらしい。

 ほとんどは上手くいかなかったが、1つだけ決定的な情報を掴んでいた。


 罪をなすりつけられて半死半生の目に遭い、命からがら逃げ延びた新人2人が、凛と接触してきたのだ。


 ーあれは、お袋の治療費として大事に貯めていたもんだ。オレはクズだが、クズにも親はいるからな…結局、お袋は亡くなった。


 ー…心中、お察しします。


 ーま!てなわけで、ケジメはつけないとね〜〜〜!で、どうする〜〜〜?


 ーその2人に、復讐したい友人がいます。協力する必要はありません。中立の立場に立ってください。


 ーOK〜〜〜!でも、オレの分も残しといてよ〜〜〜!ゴミ処理は任せてくれ〜〜〜!


 俺が見せかけの愛を示したため、凛がそれを使う機会は訪れなかった。


 ならば、せめて有効活用してやろう。


 どうせ破滅するなら。







 凛も少しぐらい人の役に立っていいはずだ。

 それが、破滅に向かう幼馴染に対する手向けの1つだ。

 


 ****



 「さあみんな。もうやってしまおう」


 「うん!」


 「ボクハオタスケロボ!ワルイヤツハボコボコニスル!」


 舞台を整えるのに多少時間がかかったが、まあいいだろう。


 俺たちは、復讐の時間をもっと楽しみたいからだ。


 


 「くそっ!阿部!ぼさっとしてあいつらをぶっ殺すぞ!」


 「お、おれ、死にたくねえよぉぉぉぉぉぉ!」




 長ければ長いほど、原田さんの心の傷もいえるだろう。



 ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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