第52話 俺たちは

 決行当日。


 その日はどうしようもなく気が立ってしまい、下校してからすぐ結愛を求めた。

 衝動にかられているのは否定できない。


 2人でキスを交わしながら、示し合わせたかのようにソファに身を横たえた。




 16時51分。


 「いっ…」


 ショーツを脱いだばかりの結愛が奇妙な声を上げる。


 ソファの上で全身を硬直させ、小指を噛んで目をぎゅっと閉じていた。

 感じている時の癖だ。


 しかも、かなり。


 「…久しぶりだな、その表情」


 「きゅ、急にしたいって言うから…まだ夕方なのに…ひうんっ。や、め…今、敏感っ…」


 より深くつながり、小さな胸を右手で包み込むと、子供のようにいやいやをした。

 その姿を愛おしく感じ、髪をそっと撫でる。


 「…む~」


 つい笑ってしまったのか、結愛が頬を膨らませる。


 「帰宅したばかりの義妹を押し倒すなんて、本当に変態なんだから…」


 「兄が妹のために変態になるのは不思議じゃない」

 

 「ううう…そんな恥ずかしいセリフ堂々と言わないでよ…」

 

 真っ赤にした顔を両腕で覆う結愛だったが、やがて心配そうな表情を浮かべ、ぽつりとつぶやく。


 「あたしを抱いたら、行くんだね」


 「ああ。約束したからな。復讐を手伝うって」


 「無事に帰ってきてよね。あたしを置いていなくなったら…」


 「心配ないさ。無事に帰ってくる」


 「…分かった。じゃあね…」




 結愛は不意に両腕を広げ、俺を小さな胸の中に抱いた。


 





 「今はあたしで、気持ちよくなってよ。その後は、原田さんを助けてあげて…」


 今日ばかりは、俺が子供扱いのようである。



 ****



 「円二くん!」


 マスクとサングラスで変装した原田さんと合流する。

 白と黒のシンプルなカラーリングをした、真新しいスニーカーを履いていた。


 ジーパンと黒いジャケットを着こなしており、やっぱりどこか…


 「…今、またぼくのこと男の子みたいって思ったでしょ」


 「ばれた?」


 「ま、今日はいいか。正直、ちょっと男の人みたいな服装をイメージしてきたんだ。かっこいい?」


 ひらりと一回転した後、サングラスを少し外し、原田さんは軽くウィンクする。


 「かっこかわいい」


 「がくっ…そ、そこはかっこいいじゃないの?」


 「かっこかわいい!」


 「がーん…」


 原田さんは落ち込んで少しうなだれる。

 ちょっと可哀そうになったので、頭を優しくなでた。


 「ふふふふふ…くすぐったい」


 手の感触を楽しんでいるのか、嫌がらずにじっとしている。


 俺も彼女のさらさらとした髪の感触を楽しむ。


 1分ほどそうした後、俺は小さな声で語りかけた。

 

 「確かに原田さんはかっこいい。でも、今日やることは俺に任せてくれないか。復讐を見届けるだけでもいい」


 「言うと思った。でも、全部を円二くんに押し付けたりはしないよ。だって…」

 

 原田さんは、優しい笑みを浮かべた。




 「ぼくたち、友達じゃないか」


 まいったな。


 どうやら、『友達』というワードが俺の心に刺さると知っているらしい。


 もちろん、打算ではなく無意識に感じて話しているんだ。


 昔から天然なところもあるし。


 「円二くんとは、嬉しいことも、腹が立つことも、嫌なことも、悲しいことも全部分かち合いたい。だから、ね?」


 「…分かった。じゃあ事前の計画通りに。でも、出番は最後のあのタイミングだからな。その前は俺たちがやる」


 「そうでなくっちゃ!」

 

 原田さんがガッツポーズを掲げた時ー、




 「オマタセ」


 目出し帽を付けたカタコトの男が声をかけてきた。


 異様に着膨れしており、体格が見えないほどだ。

 原田さんがきょとんとした表情を浮かべる。


 「…えーと、どちらさま?ロボット?」

 

 「フクメンオトコデス。ニンゲンデス。エンジクンノタノミデ、スケットトシテキマシタ」


 「そ、そうなの?」


 「ありがとう、来てくれて」


 「普通に会話するんだ…」


 「コチラコソ、チャントヨンデクレテアリガトウ」


 「約束したからな。友達との約束は絶対だし」


 「アア。ボクタチ、トモダチ」


 「円二くんの人間関係って、やっぱり不思議…」


 やや原田さんを置き去りにしてしまったが、今は説明している暇がない。

 

 全てが終わった時でも良いだろう。


 「さぁ、今日のメンバーはこれで全員だ。そろそろ行こう」


 「イクゾ!」


 「お、おー!」


 3人は足並みを揃え、復讐の会場へと向かっていった。

 


 ****



 「…凛の奴から連絡が途絶えた?」


 「ああ。なーんにも繋がりやしねぇ。ホテルにもいなかった」


 「妙だな。音声はこっちが握ってるというのに。逃げたところで行き場もないだろ」


 「まさか、何かあって死んじゃってたりして。ぎゃはははははは…」


 とある建物の地下。


 暗がりの中で、阿部と赤城は最近起きた異常について語り合っていた。


 無尽蔵に資金を吐き出すかに見えた金蔓の失踪および連絡の途絶。

 それは2人にとって歓迎すべき事態ではない。


 金蔓が考えている以上に、2人は金を欲していたからである。


 でなければ、気が触れたとしか思えない凜からの呼びかけなど応じなかっただろう。

    

 いらいらした赤城は、ポケットからタバコを取り出して吸い始めた。


 「…あのメス豚、やっぱりスマホを奪うか監禁するべきだったか」


 「で、でもよ…いくらなんでも、そこまでしたら俺たちだって…ぎゃあっ!?」


 口を挟もうとした阿部を赤城は思い切り蹴り上げ、黙らせる。


 「て、てめえ!いくら昔のダチだからって…!」


 「おめーみたいなバカはダチでもなんでもねぇ。ただの舎弟だ、立場を弁えろ」


 「ぐ…」


 「あいつの金がなけりゃ俺たちだって危ねーんだ。もう『ともだち』ごっこは終わりにして、あいつを探し出してぶん殴ってでも…」


 バタン!


 その時、入り口の扉が勢いよく開かれる。


 「ああ?誰だ!」




 赤城が素早く入り口に視線を向けるとー、




 覆面を被った3人の男が立っていた。

 少なくとも赤城はそう信じた。


 「俺たちが誰かって?」


 先頭に立っている中肉中背の男が笑みを浮かべる。







 「俺たちは……『友達』だ」


 復讐は、静かに幕を開けた。



  ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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