第48話 すいませんでしたぁぁぁあああああ!!
「待って円二さん!凛さんの親戚の家、美也も一緒に行くー!」
放課後に学校を出ようとすると、鮎川さんに呼び止められた。
ポニーテールと巨乳を揺らしながらこちらに駆け込んでくる。
「えーと、今回は一人で行こうかなと。一応敵の本拠地?的な場所だし」
3年前に事故で両親を亡くして以来、凛の保護者として養育してきた親戚夫婦。
会ったことはないが、特に問題のある人物という話は聞かない。
ーあんな奴ら、パパとママに比べたらゴミ中のゴミなんだから!
話を聞く限り、凛との関係も良くなさそさそうだ。
とはいえ油断できない。
結愛は『今日は用事がある』として先に下校したのでちょうどいいタイミングだったのだが、まさかの伏兵登場である。
「大丈夫だよ!この前行ったけど、あの人たちは、凛さんの悪事は良く知らないみたい。道を知ってる美也の案内があっても良いと思うんだけどなー」
「そう言えば、一度凛の行方を探すために訪ねたんだっけ。うーむ、しかしだな」
「…美也と一緒に行くの、いや?」
むぎゅ。
鮎川さんの必殺技、『腕を握り胸を押し付けながらの上目遣い作戦』発動!
「最近は凛さんのことで忙しくて、お互いゆっくりできる時間もないし、たまにはいいよね?」
健康的な白い歯を見せながら、俺に甘い息を吹きかけ、俺の断る意思を急速に萎えさせる。
結愛が月なら鮎川さんは太陽。
非常に対照的であった。
「…分かった。でも、何かあったら引き返すからな」
「はーい!」
というわけで一緒に電車に乗り込んだのだが…
「なんか今日電車混んでるよ〜〜〜!」
「どこかでイベントがあるみたいだな」
「冷静すぎるよ円二さん〜〜〜〜〜!」
やたら電車が混んでいた。
****
「どうやら、18時から男性アイドルグループのイベントらしい。丁度、今向かってる駅の1つ手前だ」
「じゃあ、ほとんど最後まで混んでるんだね、とほほ…」
女性ファンの集団で満たされている電車内。
スマホで調べた結果を伝えると、窓から外を眺めていた鮎川さんはがっかりしたような声を上げる。
確かに、電車内は快適とは言えない状況だ。
「コンサート楽しみだね〜♪」
「テンションあげてこ〜!」
「最初にみんなが入ってきた時のコール、もう一回練習しよ!」
皆もうすぐ訪れる楽しい時間に集中するのに夢中で、こちらには目もくれない。
電車が揺れるたびにぐぐぐ…っと圧力がかかり、俺は足を踏ん張って自分の位置を死守する。
だがー、
「きゃっ…!」
「おわっ!?」
一際大きい波が来てしまい、思わず鮎川さんの方に体重をかけてしまう。
窓から景色を眺めていた鮎川さんは後ろを向いていたため、そのまま後ろから覆い被さる形となってしまった。
結愛とは違う、大人として成熟した女性の体。
鮎川さんの両腕を抑え、形の良い腰とお尻に密着してしまう。
(柔らけぇ…いや何考えてんだ俺は!凛と同じ道に落ちるんじゃない!結愛に殺されるぞ!)
不意に、ケモ耳を生やした結愛のイメージが思い浮かんだ。
いつもの軽い威嚇ではなく、本気で歯をむき出しにしている。
ーがるるるる…もう怒った。円二を…食べる!
ー待て、妹!これは不幸な事故…ぎゃああああああっ!
なんてことになったら大変だ。
慌てて離れようと思ったが、まだ圧力が強すぎる。
「ご、ごめん!もう少ししたら離れるから…」
「ふふふ、円二さんってば大胆」
「…は?」
「結愛ちゃんと言う大切な女の子がいながら、美也とも愛を築こうだなんて、強引なんだから♪」
鮎川さんは頬を赤く染めながらも、まんざらではないという表情を浮かべていた。
ふふんと笑いながら、体の力を抜いて俺に身を委ねる。
すりすり…
体をくねくねと動かして、怪しい刺激を送り込み始めた。
「いや違うから!誤解だから!」
「そんなこと言っても円二さん…そんなグリグリさせられたら、変な気分になっちゃうよぉ…」
「あのですね。これは不可抗力というやつでー」
「美也の青春が、散らされちゃう…!」
「誤解を招くようなことは言うんじゃなああああああい!」
お目当ての駅にたどり着いた乗客が降りていくまで、天国のような、地獄のような時間が続くのであった。
****
「はぁ…目的地にたどり着くまでに精力…いや、体力を使い果たしそうだ」
「あははは、ごめん。美也もちょっとヒートアップしちゃった」
駅を抜け、俺と鮎川さんは凛の親戚の家へと向かう。
あと数分の距離だ。
「…でも、守ってくれたんだ。美也のこと」
不意に、鮎川さんがぽつりとつぶやいた。
「え?」
「電車の中で、美也を他の人から守るように立ってくれたでしょ?」
「ああ…そうなのか?」
「ふふふ。円二さんのことだから、自然にそうしてくれたんだね」
そう言えば、窓際に鮎川が立ち、俺が他の乗客と鮎川さんの間に立っていた気がする。
守っていると言えばそうかもしれないが、ほとんど無意識だった。
「最近、円二さんが怖い顔をする日が多いなーと思ってね。心配だったけど、元気そうでよかった」
「やたらテンションが高いなと思ったら…ごめん、心配かけて」
「いいの!今は大事な時期だからね。気にしないで。でもね…」
鮎川さんがこっそりと耳打ちをする。
「ちょっとだけ…気持ちよかったかも」
「ちょ…」
「さ!あそこが目的地だよ!行こ行こレッツゴー!」
「…」
鮎川さんは走り去っていく。
「やれやれ…」
相変わらず、奔放的な面があった。
****
そんなこんなを経て到着した凛の親戚の家。
チャイムを押し、玄関を開けるとー、
「「すいませんでしたぁぁぁあああああ!!」」
夫婦が土下座していた。
****
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