第47話 グリグリさせられたら

 2日後の夜。


 「あんたなんて…大っ嫌い!タンスの角に小指ぶつけて死ね!」


 「俺だって…浮気したお前なんて大っ嫌いだ!これからは毎食ご飯とふりかけしか出さないからな!」


 フルーツ柄のパジャマを着て、こちらを精一杯睨みつける結愛と向き合う。

 義妹はくりくりとした丸い目を精一杯見開き、小さな八重歯をチラリと見せながらこちらを威嚇していた。


 その可愛さに吹き出してしまわないよう、こちらも精一杯怖い表情を浮かべる。


 「ぐぬぬぬぬぬ…」


 「がるるるるる…」


 数秒のこう着状態を経てー、




 「はいカットぉ!よし、これで完成だ!」


 「はぁ…わざと喧嘩する演技って、思ったより疲れるわね…」

 

 偽の喧嘩動画は完成した。

 我ながら迫真の出来だったと思われる。


 何回もリテイクした甲斐があった。


 撮影したスマホで軽く編集していると、結愛が画面を覗き込んでくる。


 「これだけで、本当に凛さんを騙せるのかな」


 「心配するな。これまで撮った写真や動画も編集して送る」


 「一応聞くけど、どんな奴?」


 「えーと…結愛にジト目で睨まれている場面、結愛に変態と言われる場面、俺にからかわれて結愛が顔を真っ赤にする場面とかだな」


 「それただのノロケだから!あたしにも監修させなさいバカ円二!」


 「あ」


 結愛は俺のスマホを奪い、送信予定の写真や動画に目を通す。


 「もう…あたしの恥ずかしい所ばっかりじゃない…こんなの送られたら、いくら凛さんでも恥ずかしくて死んじゃうんだからね」


 ぶつぶつ言いながら一通り操作を終えると、俺にスマホを返した。


 「はい。ある程度厳選したわよ。これで、凛さんも信じると思う」


 「むむ…やはり同性の方が向いてるのか?」


 「そーいう問題じゃないしっ」


 こてん、と軽く頭をチョップされる。

 女心はわからないものだ。


 とりあえず結愛が許可した素材だけを凛に送信した。

 上手くいけば、またあいつに要求を突きつけられるだろう。


 あいつから全てを奪い取るまで、復讐の真の幕は上がらない。


 「あ、あのさ」


 スマホをポケットにしまった時、結愛が声をかけてきた。


 「どうした?」


 「今更こんなこと言うのも、何だけど…」


 ボディソープのふんわりとした香り。

 両手でズボンの端をぎゅっと握り、おずおずと口を開く。



 

 「あたし、ほ、本当は…円二が大好きなんだから…こんなことするのは、これが最後なんだから」


 「…ああ。分かってる」


 「それに…最初の頃、円二に酷いこと言ったの、反省してる。人として、やっちゃいけないことだったって」


 「気にしなくてもいい。俺も、少し熱くなってたから」


 「でも、ここ数日演技とはいえ悪口言ったし、埋め合わせがないと納得できないと言うか…」


 結愛は一瞬を俯くが、意を決したように顔を上げる。




 「だから…今夜は、あたしに意地悪してもいいよ!」


 「えっ」


 「きょ、今日はいつも遠慮してるような変態プレイも何でもOKだから!どーんと欲望をあたしにぶつけて!」


 そう言うと、居間のソファに仰向けで寝転がり、目をぎゅうっと閉じた。


 結愛の誠意ということらしい。


 俺は少し考え込んだあとー、




 結愛のさらさらとした髪と、小さな額を少し撫でた。

 

 「え…?」


 「これで意地悪は終わり」


 「それって…」


 「面食らった結愛の表情を見てにやにやする。それだけで充分だ」


 「円二…」


 初めて会った時から、結愛が見た目よりも繊細な人間だと分かっていた。

 心を閉ざしていただけだ。


 だから、恨んだことは一度もない。


 「あ、今の顔を写真に撮ればよかったかも」


 「…ばか。円二は、やっぱり意地悪だ…」


 こうして、2人きりの夜はまた更けていった。



 ****



 「いいわねぇ!あなたを愛してるはずのアバズレちゃんの冷たい顔!表情!声!可愛そうねぇ。私がなでなであげしてあげたいわぁ…」


 「うわぁ…と、とてもたのしみだよ」


 次の日、送られてきた素材を見た凛は喜びの声を上げた。

 なんとか上手くいったらしい。


 また一歩信頼を得たついでに、新たな対価を得ようと仕掛けてみる。


 「ひとつ、きになってたんだが…」


 「なぁに?」


 「『ともだち』にどうやっておかねをしはらっているんだ?」


 「ああ、そんなこと?私はね、パパとママから遺産を受け継いでるの。私だけが使える秘密の遺産をね…」


 その遺産をネット銀行の口座からいつでも使えるらしい。

 今の凛はパソコンを保有してないので、スマホを通じてお金を引き出しているようだ。


 「グズの親戚夫婦は私がお金がなくて死にそうだと思ってるみたい。いい気味だわ。せめてもの温情のつもりで携帯料金は支払ってるみたいだけど…」


 「しんせき、ね…」


 とりあえず、次の目標は決まった。

 数分適当に話を合わせて、凛との通話を終える。




 「早くあのアバズレに真実を突きつける日が楽しみだわ。あはははははははは…!」


 凛は最後まで上機嫌だった。



 ****



 数日後。


 学校を出たあと、俺は両親を亡くしたあと凛を養育していたという親戚の家に向かう。


 親戚夫婦がどれほど凛の正体を知っているかは分からないが、探りを入れる程度なら問題ないだろう。


 大きなトラブルには発展しないと思っていたがー、




 「円二さん…そんなグリグリさせられたら、変な気分になっちゃうよぉ…」


 「あのですね。これは不可抗力というやつでー」


 「美也の青春が散らされちゃう…!」


 「誤解を招くようなことは言うんじゃなああああああい!」


 鮎川さんとトラブルを起こしていた。


 

 ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!


 「こんな展開にしてほしい」「あんな光景が見たい」などご要望があればお気軽にコメください~ 

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