第46話 変態~~~!!!

 凛と茶番劇を繰り広げた次の日の朝。

『ともだち』の情報を大量に添付したメールが、俺のメールボックスに届いていた。


 家に帰ってから確認してみると、『ともだち』に関連した俺のクラスメイト全員と、その他関係者の個人情報が大量に記録されている。


 ドキュメントだけで約300ページ超。

 画像データの読み込みや整理は3時間以上の時間を要した。

 これまでの凛の活動を記したタチの悪い遺産だ。


 含まれている情報は多種多様である。


 どのような経緯で『ともだち』になったのか。

 どれだけの金を凛からもらったのか。

 どれだけ『ともだち』として活動したのか。

 『ともだち』の招集に応じなくなったのはいつか。


 そしてー、




 小学生1年生の時、原田さんに何をしたのか。


 全て克明に記録されていた。


 「これが全て凛のスマホ一台に収まっていたのか…相変わらず恐ろしい奴だ」


 俺はあまりの執念に寒気を覚えながら、閲覧を続ける。


 あいつが一生脅しや恐喝に利用できるよう丹念に貯めておいたものらしい。

 俺に渡したことで大半が無意味になったのだが、今のあいつにとってはどうでもいいことか。


 数時間をかけて、ほとんどの閲覧を終了。


 「原田さんにとって不名誉な情報は、できるだけ削除しないとな」


 とりあえず必要ない情報は削除し、手早く公開できるように圧縮する。暴露できる情報その1として、初見でも何を意味するのか理解できるようにしなければならない。


 


 …気になる情報が、2つだけあった。


 赤城信也と、阿部雄三。

 この2人は最近まで『ともだち』としてお金をもらっていた形跡がある。

 どうやら凛を逆に恐喝して両親の遺産を散々ふんだくっていたようだ。


 ざまぁと言いたいところだが、凛の制御を離れたこの2人が何をしでかすか分かったもんじゃない。


 動向が分かり次第、手を打った方が良さそうだ。 


 それに後もう一人…いや、これは確証がない。断定はやめておこう。

 

 とにかく、今後はこの情報を活用しつつ、復讐の準備を進めることにする。



 

 以上で報告を終える。



 ****



 「なるほど。大体の事情は分かったわ。よく、まとまってると思う」


 二人きりでの夕食時。

 俺の報告を聞いた結愛は評価を下した。


 褒められている、と受け取っていいだろう。


 今日のメインディッシュであるアジフライを小分けにして口に運び、ゆっくりと味わう。


 「どういたしまして。アジフライはどう?」


 「そうね…て、そこは今関係なくない?」


 「少し味付けを変えてみたからさ。どう?」


 「…おいしい。この前より、よくできてる」


 「よしっ!」


 凛に対する復讐を進めながらも、友人や家族である結愛との時間は欠かさず作っている。

 卒業も近いし、穏やかな時間は1分1秒でも尊いのだ。


 とまあここまでは良いのだが…


 「で、私に何を頼みたいの?」


 「ぎくり」


 「顔を見たら大体わかるし。円二は感情が顔にすぐ出るんだから」


 「じ、実はこの情報と引き換えに必要なものがあってだな…あははは」


 「大体想像がつくけど、言ってみて」


 ええい、こうなっては仕方ない。

 俺は直立した後、深々と頭を下げた。

 






 「俺を…俺を罵ってくれ!出来るだけ長い間、詳細に!!動画にするから!!!」


 「…本当に変態だったのね」


 「変態ではない!変態という名の復讐者だ!!」




 『凛に情報を渡す見返りとして3日以内に送信しろと要求された』と付け加えるのを忘れてたことに気づいたのは、後になってからだった。



 ****



 【side:結愛】


 「い、妹に欲情する、変態っ」


 「もっと、もっとだ…!」


 「だ、誰かが困っているところを見るとすぐ駆けつけるお節介人間!!」


 「もっと叫ぶように!!!」


 「あー…えーと、とにかく…変態!変態!!変態!!!」


 「ぐはぁああああっ…!ふ、なかなかいい罵倒ができるように、なった…がふっ」


 というわけで、あたしは急にM男になった円二を罵ることになった。

 薄々事情は理解してるけど、とりあえず付き合うことにする。


 …正直、ちょっぴり楽しくなってきた。


 もちろん円二のことは嫌いじゃない、むしろ愛してる。

 でも、それは親が子供のことを一段上から慈しむような、あたしが手を伸ばしても届かないような、そんな感じなんだ。 


 あと、円二は割と私をからかうのが好きで、その…エッチの時もくすぐって笑わそうとしてくる。


 ちょっとぐらい、あたしが上位になってもいいよね?


 「ふ、踏んでくれ…!」


 「えっ」


 「もっと俺を見下すような感情が足りない…!俺を踏んで、S心を開花させるんだ!」


 「ええ…」


 そう言うと、円二は私に土下座するような形で背中を見せた。

 背中を、踏めってこと?


 (ほ、本当に、芝居なのかな?もし円二が変態になったらどうしよう…いや、あたしが受け入れればいいか)


 ゆっくりと足を差し出し、円二の背中をゆっくりと踏む。

 硬い背中だ。 


 体重をかけすぎないように気をつけながら、すりすりとこすりつけた。


 なんだか変な気分になる。 




 (そういえば、この家に最初に来た頃、円二に酷いことを言ったな…)

 

 不意に、1年以上前の記憶を思い出した。


 まだ凛さんが円二と仲が良くて、逆に私は仲が悪い頃。

 ママも猫をかぶっていて、まだ家にいた頃。

 

 仲良くしようとした円二を素直に受け入れられなくて、あたしはずっと自分の部屋に閉じこもっていた。


 怖かったからだ。

 

 いろんな家に行ったけど、仲が良いのは最初だけ。

 みんなママの裏切りを境に徐々に態度が変わり、あたしを憎むようになる。


 子供の頃からずっと同じ。


 それなら、最初から誰とも仲良くしなければいい。

 そう信じていた。


 なのに、円二はどんなに拒絶されても、あたしのそばから離れようとはしない。


 ことあるごとに優しくしようとする。

 あたしの些細な変化を見逃さず、気にかけようとする。

 ママが影であたしに浴びせる冷たい視線や暴言から守ろうとする。


 それでもあたしは円二を信じきれなかった。

 今まで、優しくする素振りを見せて裏切る人は何人もいたからだ。


 そんなある日のことー、




 ーごめん。結愛。夕食ができたからみんなで食べようって。

 ー…いらない。

 ー昨日も食べてないだろ。

 ー近寄らないで。

 ーでも、何か食べないとー、

 ー近寄らないでって言ってるでしょ!

 



 あたしは、円二を、何度も罵った。ひどい言葉を使いながら、全力で。


 そうすれば、あたしに遠慮する必要もなくなる。

 あたしを恩知らずのクズと罵って、怒りのまま殴ってくるに違いない。


 むしろ、そっちの方が気が楽だった。

 ずっと、心の中に蓋をして、閉じこもっていられたはずだった。






 でも、円二は何もしない。

 じっと、耐えている。


 反撃もせず、逃げもせず、じっと、あたしを見つめ続けた。  


 最初に耐えきれなくなったのは、あたしの方。


 ーなんでよ…なんで、怒らないの?

 ーごめん。でも…結愛のことが、心配なんだ。

 ー…もう、分かったから。言うこと聞くから、そんな悲しい顔、しないでよ…


 今思えば、あの時から少しずつ円二に心を開いていったのだと思う。


  


 「ごめんね、最初の頃ひどいこと言って…あたしも、子供だったんだ」

  

 「ん?なんか言ったか?」


 「べ、別に。何も言ってない」


 「そうか。ならば、頼む!」


 もう。


 人がシリアスな過去を思い出してる時に、調子狂うんだから。


 「この…変態〜〜〜〜〜!!!」


 「いいぞ…その調子だ!!!」




 円二とのSMプレイは、夜遅くまで続いた。



   ****



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