第40話 背中、流すからね
【side:凛】
「うげえ…ぐはぁ…」
数時間後。
凜は息も絶え絶えの状況で、宿泊しているホテルに帰還する。
何発か本気で殴られたため、もともと酷かった顔全体のけがはさらに悪化していた。だが、もはや病院に行くこともできない。
学校に駆けつけた警察の追求からやっとの想いで逃げてきたからだ。
広川のほかにもう一人犯人がいたことは報告されているに違いない。監視カメラの少ないルートを選んで逃走したが、全く見られていないという保証はなかった。
もし逮捕されれば、結愛に対する復讐は永遠に果たせなくなる。
(警察からはなんとか逃げられたけど…広川は、もう、使い物にならないわね…)
ばさりと、ベッドに辛うじて身を横たえ、凛は苦悶の声を上げる。
「どうして私を殺してくれなかったの、円二くん…!」
凛はあえて憎しみを煽り、挑発した。
そうすれば、円二に罪という名の十字架を永遠に背負わせられると信じたからだ。
殺人者となった円二を見て、結愛も彼を見限るだろう。
それに、醜い顔となってしまい、常に痛みに苛まれている自分も、苦しみから解放される。
そう考えた。
「私の思い通りに動いてくれない円二くんなんて嫌いっ…!いい加減、私を弄ぶのはやめて、あの女と別れて、寄りを戻してよぉ!!!」
円二が凛の思う通りに動かなかったのは、凛本人の本性を見抜き、ここで暴力をふるったところで喜ばせるだけと判断したからである。
だが、今の凛にそれは読めなかった。
****
警察から解放され、自由を取り戻したのは朝方だった。
一旦というだけでそれ以降も色々あるわけだが、語るほどの面白さはない。短期間でこんなに被害届を作る日が来るとは思わなかった、それだけだ。警察署でも色々噂になっているのかもしれない。
気絶していた広川は警察に連行され、凛は行方をくらましたまま。
凛は大けがを負ったはずだが、おそらく逃げおおせるだろう。根拠はないがそう確信している。
あいつのことは、良くも悪くも俺が一番よく知っているのだから…
警察署を出た後は、念のため病院へ。
俺は拳含むあちこち擦り傷を作っただけで軽傷、原田さんも無傷。
念のため病院で検査を受けた後、結愛や鮎川さん含む全員で合流した。
「ううう…みんな無事で何よりだよぉ」
「ありがとう鮎川さん。何があったかは…また詳しく話すよ。一言では語れそうにない」
「無理しなくていいの!週末はゆっくりしててね」
「ああ。また来週」
鮎川さんは握手した後に去っていこうとするが、口元を俺の耳に近づける。
そして、そっと囁いた。
「…凛さんの居場所、多分分かったよ。ホテル街の一番安い宿にずっと泊ってるって」
「ホテル街?」
「ほら、駅前の…その…」
「うん?」
「ほら…」
鮎川さんは顔を赤くした。
「円二さんも男の子なら、分かるでしょ。そーいうホテルってこと」
「あ、そういうこと」
「学校で何人か目撃したってだけで未確定ではあるんだけど…頭に包帯とガーゼを巻いた高校生ぐらいの女の人で、部屋にいろんな人が出入りしてるって…ねぇ」
「…ありがとう。後で住所とか教えてもらってもいい?」
「うん。でも、気を付けてね」
「殴りこみには行かないさ。もう、喧嘩はしばらくやりたくない」
肩をすくめた後、鮎川さんはポニーテールを揺らして去っていく。
残りは俺、結愛、原田さんの3人となった。
とりあえず原田さんを家に送り届けようか。
「は、原田さん。その…ごめんな。色々、怖かっただろ」
「…」
「今日はその、学校も休んでゆっくりしてだな」
「…」
「あ、そうだ!家まで送っていくよ。今の住所ってどこ?」
「…」
駄目だこりゃ。
原田さんはうつむいてなにも話さない。
数時間前、警察がやってくる直前の会話を思い出す。
ーぼく、あそこで何があったか、警察に少しぼかして話すよ。そうじゃないと、しばらく学校にも行けそうにないし。
ー…大丈夫?
ーうん。ぼくの苦しみや悲しみは、円二くんが晴らしてくれたから…
あの時は元気そうだったが、もちろん素直に受け止めることはできないだろう。
どうしたものか。」
「…ねぇ」
その時、原田さんが顔を上げた。少し泣いたのか瞳を晴らしているが、表情は明るい。
「ぼく、今日は家に帰りたくない」
「えっ」
「それに色々あって汗かいちゃったし、円二くんと話したいことがあるし、内容をあまり聞かれたくないし、だから…」
それどころか、いたずらっ子のような笑みを浮かべ、軽くウィンクする。
「ぼくと一緒に、お風呂入らない?」
****
「うわぁ。円二くん家のお風呂、すごく大きいんだね!」
「ま、まあな。親父が30年ローンで買った家だし」
1時間後。
丸山家の自宅の浴室で待機していると、1人の美少女が入ってきた。
少年のようなボーイッシュな顔つきに、年頃の女の子ようなはにかんだ笑顔を浮かべ、白いタオルを巻いて入ってくる。
鮎川さんよりは小さいが、タオルで包み切れなかった胸の谷間がちらちらと視界に移りこんだ。
「あ、あんまり見ないでよね…ぼく、あんまり女の子っぽくないし…」
「や、やっぱり俺出ようかなー」
「だめ!今日は色々助けてもらったし、円二くんにお礼を言わないと、ぼく…いてもたってといられない」
「…」
「じゃあ…最初は、背中、流すからね…」
(義妹よ…すまん!)
がるるる…と不機嫌になってるであろう結愛に心の中で詫び、俺は全てを受け入れるのだった。
****
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