第39話 迎えに行ってやる

 「ははははははっ!怖いのですか円二くん。君のことは嫌いじゃありませんが、邪魔するなら仕方がありません!」


 広川が刃物を持ってこちらに迫ってくる。


 構えは…多分素人っぽい。

 力もなさそうだ。


 とりあえずナイフを持ってるだけの男子高校生、で間違い無いだろう。


 (いやいや、普通に危ないだろ…)


 俺は自分で自分にツッコミを入れた。


 今やろうとしていることは明らかに無謀なこと。一歩間違えたら大怪我か、最悪死ぬ。


 ーいいかい。刃物を持った人間と素手で対抗するとか無理だからね!逃げるんだよ!


 明智もそう言ってたしな。


 俺も、普通ならさっさと逃げ出して警察を呼んでたかもしれない。

 今日は防具も道具も何もないのだから。


 でもー、




 (どうせこいつも、原田さんに酷いことをした張本人だろ?じゃあ…遠慮するなら必要なんてないじゃないか)




 今は無性に腹が立って、むかついて、憎しみが渦巻いて、ムシャクシャして、怒りを誰かにぶつけたい。


 最悪このゲス野郎でいい。

 相打ちでも、構うものか。


 本来なら舞台袖で伸びてる凛にこの怒りをぶつけるべきなのだろうが、あいつに本当の意味で復讐するには、相応の準備が必要となる。


 怒りをぶつけるのはその時でいい。


 だったらー、




 「…来いよ」


 「はぁっ!?」


 俺は拳を前に突き出して挑発する。




 「今日はお前でいい。お前に、八つ当たりする。原田さんの悲しみも、少しは晴れるかもしれない」


 「じょ、状況が分かってないのか?君なんてこのナイフがあれば…!」


 「来ないなら、こっちから行くぞ」


 ゆっくりと舞台を降りて、観客席の中程にいる広川の元へ向かった。


 少しずつ。

 着実に。

 一歩ずつ。


 「う…うわあああああああっ!」


 プレッシャーに耐えきれなくなった広川が刃物をもって突進してきた。俺はわざとらしくファイティングポーズを取って、奴を待ち構えてー、







 前蹴りをかました。狙いは股間。ノーモーションなので威力はないが、向こうからやってくるなら話は別。


 「うぉっ…!?」


 広川は急に足が迫ってきたことに驚くが、かわせない。ナイフで俺を刺すために突進しているからだ。


 ーでも、もし万が一逃げられないのなら、まずは足を使うべきだ。靴を履いてるから相手は刺しにくいし、距離も詰められない。


 ーなるほど。さすが師匠だぜ!


 全てが決まる刹那、明智のアドバイスが頭をよぎる。


 





 「おごぉっ!」


 股間、はわずかにそれた。鳩尾あたり。流石にそう上手くいかない。ナイフはまだ手に持っている。


 やるか、やられるか。


 ー刃物を持って襲いかかる人間は、一度阻止された程度じゃ止まらない。必ず同じ行動を反復するんだ。だから…


 脚を引っ込めて近づきー、




 「ぐがっ!」


 手のひらを突き出して顎のあたりを叩く。やっとナイフを取り落とし、グラついた。


 ー脳を揺らす打撃で相手の動きを止めるんだ。そうすれば、それ以上攻撃できなくなる。


 「おらぁああああああああっ!」


 最後の賭け。


 広川を思い切り突き飛ばし、床に転がった隙に馬乗り状態でまたがった。


 何が起こったかよく分かっていない広川の頭を掴み、激しく床に打ち付ける。


 「ぎゃっ…」


 何度か打ち付けると、広川は呻き声をあげ、完全に力を無くした。

 袖を押さえつけ、ぐぐぐ…と頭を持ち上げる。


 先程突き飛ばした時にメガネが吹き飛んだらしく、見えていないようだ。

 



 「ゆ、ゆるして…」


 「俺にいう言葉じゃないな。他に誰かここに来てるか?」


 「き、来てません…!あの女と、僕だけー」


 「そうか。分かった」


 再び頭を床に叩きつ、広川を黙らせる。そのほかのことは後で聞いてもいいだろう。


 とりあえず、何するかわからない以上、気絶させた方が良さそうだ。


 拳を振り上げる。


 「ど、どうして…?」


 「…なんだよ」


 「どうして、そんなに強いのですか!ナイフだって下手したらー」

 

 「決まってんだろ」




 家で帰りを待っているであろう義妹。 

 自分の恋心が破れても協力してくれるクラスメイト。

 俺を最後まで信じてくれた旧友。







 「お前らのせいで…守りたい人が多すぎるんだよ」


 拳を振り下ろし、広川を黙らせた。


 

 ****

  


 「円二!」


 「円二さん!」


 しばらく放心状態でいると、後ろから誰かが駆けつけてくる。


 鮎川さんと結愛だ。


 「もう、また私に黙って無茶するんだから…」


 「円二さん、血だらけだよ!?は、早く救急車を呼ばなきゃ!」


 「あれ?2人ともなんで…」


 「原田先輩からLINEが来てたの。もし連絡がつかなかったらここに来てって。あ、動かないで。手当てするから」


 「美也のところにも来てたよ…ってうわ!なんか色々と悲惨な状況に!原田さんも…怪我はないか。よし!とにかく警察を呼ぶね!」


 2人とも色々あって鍛えられており、その後の動きは迅速。


 結愛は片手に持っていた救急箱を開き、ガーゼや消毒液を取り出して、拳の傷口に応急処置をほどこす。


 「いてててて!妹よ、もっと優しくだな…」


 「ばか…またあたしのいないところで無茶した罰よ」


 毒舌だが、ちょっとだけ手つきが優しくなる。


 「はい!鮎川美也と言います!ナイフを持った人が傷害事件を起こしたので、すぐ来てください!場所は…」


 「ここは…?」


 「あ、原田さん!じっとしてて。もう大丈夫だよ。悪い人は円二くんがやっつけてくれたから」


 鮎川さんは現場を見て回り、警察に電話し、原田さんを介抱しはじめた。


 任せても問題ないだろう。


 「あ…」


 「どうかした?」


 「いや…なんでもない」







 劇場の隅に凛はいない。


 血痕だけを残して、舞台袖から逃げおおせたようだ。相変わらず、生命力はゴキブリ並みだ。

 



 好きにすればいい。

 


 お前を地獄に叩き落す方法は思いついた。




 復讐の準備が整えば、すぐに迎えに行ってやる。




  ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!


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