第34話 楽しい

 


 「あんたなんかに話すもんですか!円二くんは私の…離せ、この役立たず!」


 凛は危機が近づいてることを悟り、再び暴れ始めた。だがびくともしない。


 「もう罪を重ねるのはやめよう。ぼくと一緒に、円二くんを信じきれなかった罪滅ぼしをするんだ…!」


 原田は汗をかきながら、渾身の力でかつてのクラスメイトを押さえつけていた。

 肉体の強さではなく、意思の強さによって。


 「絶対にいやあああああっ!」


 「これ以上抵抗するなら…ぼくも容赦しない!」


 鬼のような表情を浮かべ、原田はさらに強く押さえつける。

 

 「いたぁぁぁぁあいっ…!」


 「話さないと、もっとひねるよ」


 その表情に躊躇いはなかった。

 これは原田自身にとっての復讐でもある。


 円二がここに来なければ、もっとひどい尋問をやりかねないと彼女は感じていた。


 「ぐぅ…」


 「話さないなら、それでもいい。このまま円二くんが来るのを待つだけだ」


 劇場から話し声が消える。響くのは、凛が息をハァハァと吐く声だけ。


 そのまま、数分の時が流れた。


 「…分かったわよ」


 「何?」


 「くくくくく…話せばいいんでしょ。あの時何があったのか、どうしてあんたが破滅したのか」


 凛が底意地の悪い笑みを浮かべはじめる。


 拘束から逃れたわけでもないのに、原田はその邪悪さに思わず怯んだ。




 「全てはあなたが悪いのよ。私の円二くんを盗んじゃうんだから…」


 観客のいない劇場の上で、凛は自らの過去を語り始めた。



 ****



 【side:凛】


 ーおれとともだちになろうよ!


 体が弱くて入院した時、病室のベットで円二くんに掛けられた言葉。


 それは私にとって救いだった。

 彼と過ごす日々の全てが愛おしくて、楽しくて、永遠に手放したくないと思った。


 だから、私の容態の悪化で彼と離れ離れになった時、どんなことをしても追いかけると誓った。


 ママにおねだりして、どんな手術だろうとリハビリだろうと全て耐えて、小学生になろうとする年齢の時に退院。


 ママのあらゆる伝手を使って円二くんを探し出し、ようやく同じ学校、同じクラスに入学した。


 これで円二くんと一緒になれる。


 そう思っていたのに…



 

 ー円二くん!今日はなにしてあそぶ〜?


 ー原田さんは元気だなぁ。今日は…サッカーでいいよ。


 ーえへへ。円二くん。ぼくの遊びたいスポーツに合わせてくれるんだ。やさしいね!


 ーそ、そんなんじゃないし。ともだちだし…


 すでに円二くんの隣には原田とかいうアバズレが隣にいた。男ぶって円二くんを惑わせ、私と円二くんの愛を奪おうとする泥棒猫。


 悔しかった。


 なんとしても、取り戻したい。

 私を少しでも裏切ったことを後悔して欲しい。







 だから、家に帰ってママに相談してみた。


 いつも強くて、優しくて、私のことを考えてくれる、頼りになるママに。


 ーママ、どうすれば円二くんにもう一度振り向いてもらえる?悪いどろぼうねこを追い払える?


 ーなるほどねぇ…簡単じゃない。今日会社で働く人を3人クビにしたけど、それよりも簡単だわ。


 私のパパとママが経営してる会社は、表向きはパパが社長だけど、本当はママが経営権を握っている。


 ーあなたはパパみたいな負け犬にはなりたくないよね?


 ーうん!なりたくない!


 パパは昔会社が経営難に陥った時、心の病気に陥って全てのやる気をなくしたからだ。ずうっと元気がなくて私の言葉にもあんまり反応しない。


 だから、私にとって、ママはパパでもある。


 ーじゃあ、1つだけ教えてあげる。その円二くんって男の子だけじゃなくて、クラス中のみんなや先生を自分の思う通りにできる方法。


 ーそれって…?


 ー教えてあげるから、手のひらを出しなさい。


 言う通りに小さな手を広げると、ママは今日一番の笑顔でにっこり微笑んで、私の手にあるものを差し出した。




 ーこれ、おかね?


 ーええ。好きに使いなさい。追加で欲しければまたあげるわ。


 一万円札の束が100枚。

 当時の私にとって途方もない額の、魔法の道具。







 ーお金の力さえあれば、なんでも手に入るの。


 こうして、私の円二くんを取り戻すための戦いが始まった。



 ****



 最初は、クラスでも評判の悪い問題児から。


 ーねえ、阿部くんゲームでお金つかいすぎてこまってるんでしょ?これあげる。


 ーおお!すげぇ!おまえかみじゃん!


 ーそのかわり、私のともだちになってくれる?


 ーともだちぃ?


 ーうん。ともだちはね、頼まれたことはなんでも聞くのよ。


 ーきゃはははははは!そんなの知らねーけど?


 ーじゃあ、あなたのママに、阿部くんが勝手にお金もらってゲームしてるって言いつけるよ?


 ーうっ…


 ー私の友達でいてくれるなら、言わないでおいてあげる!


 徐々に色々な人にお金を渡し、私は『ともだち』を作っていく。


 噂が広まればあっという間。


 ー凛ちゃん!あたしにもおかねちょうだい!


 ーこんなにくれるの?凛さんってすごいね!


 ー凛!俺にもお金くれよ!


 原田と円二くん以外のクラスメイトは私のお金をもらい、『ともだち』になった。

 みんなお金と引き換えに私に弱みを握られ、意のままにあやつれる存在。


 ー凛さん、その…クラスメイトのみんなにお金あげてるって本当?


 ーそうですけど。それがどうかしましたか?先生。

 

 ーそういうのは辞めさせてー、


 ーいいんですかぁ?私のママ、この学校の校長先生と仲がいいんですよ?


 ーそ、それは…


 ーもう1、2人ぐらいやめさせたんですって。ふふふふふ…


 教師もママの名前を使って黙らせ、少しお金を握らせたら何も言わなくなった。

 



 楽しい。


 どうしてママはすぐに教えてくれなかったんだろう。

    

 こんな楽しい遊び、毎日でもやりたくなっちゃう。


 


 こうして、私は何も知らない2人以外のクラスメイトを『ともだち』にした。


 そしてー、







 円二君を突き落とした。



 ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします! 

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