第28話 いくらでも…!
【side:凛】
「ちっ…中川の連絡がない。しくじったのかしら」
物音ひとつしない深夜。
凛は拠点としているホテルの中で舌打ちをし、スマホ画面から目を離す。
円二に反撃されて全てを失った後、凛は『ともだち』を招集。それと並行して、学校中の素行の悪いものや怪しい噂があるものに片っ端からメールを送っていた。
ー円二とその義妹は本性を隠している。
ー凛と高井はそれを暴こうとして逆に破滅した。
ー真実を暴いたものには報酬を出す。
『ともだち』は最後の局面で凛の目論む復讐を代行する人間であり、最後まで温存するのが望ましいと考えたからだ。
それまでにスパイ行為や嫌がらせを行い、円二と結愛の幸せを邪魔する人間が欲しい。
だが、凛の予想に反し、ほとんどの人間から返答はなかった。
辛うじて確保できたのは、円二の友人鮎川美也に恨みを持つ中川だけ。明らか思慮の足りなさそうな性格で、直接円二にぶつけるのは分が悪すぎる。
とりあえず鮎川から円二の弱みを探らせようと送り込んだが、そこから連絡が取れなくなった。
(たたでさえ蒸し暑いのと頭が痛いのとで気分が悪いのに…あの単細胞…!)
畳みかけるように、ここ数日凛の状況はさらに悪化している。
築50年にもなるホテルの設備は老朽化して、真夏にも関わらず冷房の効きが悪い。改善を申し込んでみたが、オーナーの老婆に鼻で笑われた。
頭の怪我も治り切っておらず、時折鈍痛が走る。だが今となっては助ける人間もいない。
「簡単な仕事もできない役立たずが!」
心ある人に捨てられ。
非道な人間に脅迫され。
駒とした人間も消えた。
凛は頭を掻きむしり、悪態をつくしかなかった。
そのままひとしきり悪態をつこうとした凛だったが、スマホの画面が点灯する。
一瞬中川の連絡かと思ったが、別の人間。
ーおっすー。ガチャ引くお金無くなったから口座に3万円頼むわw1時間以内に振り込まなかったら警察な!ギャハハハハハ!
凛を脅迫する『ともだち』の1人、
リーダー格の赤城に弱みを握られた後、凛は『ともだち』たちにLINEで金をせびられる日々を送っている。
もはや依頼を遂行するのかどうかも怪しい連中だったが、凛としては従うしかなかった。
(あのアバズレ女を破滅させまで捕まるわけにはいかない…ちっ…それにしても、こいつの口座に昨日も10万円振り込んだばっかりじゃない!!!極悪人め…!)
スマホを利用したオンライン送金サービスがあるため、凛が直接ATMに行ったり、顔を合わせる必要はない。
だが、屈辱的なことには違いなかった。
「なんで私ばかり不幸になるの…?私は、子供の頃から好きな人と幸せになりたいだけなのに…私が、間違ってたの…?」
ーきみも、からだがよわいの。ぼくとおなじだね。
初めて出会った時の円二の姿が、凛の脳裏をよぎり、遠ざかっていく。
ーもししゅじゅつがおわったら、ともだちになろうよ!
「お願いだから私を見捨てないで!あなたはいつもそうよ。悪い女に騙されてる。あなたを愛していいのは、私だけなのに。だから私が守ってあげたの。いつもそうだったでしょ?」
凛は部屋の中で幻影に哀願した。
だが、円二の幻想は怒りの表情を浮かべて背を向き、さらに離れていく。
「ねえ、どうして怒るの?小学生の時に泥棒猫を破滅させたから?あれはちょっと強引だったけど、あなたを取り戻すために必要な儀式だったじゃない…」
ーぼくはなにもー
ーとぼけないで!すべてあなたのせいよ!あなたがえんじくんを…!
小学生の頃の記憶。
泣き顔を浮かべる短髪の少女を思い浮かべ、凛は久々の笑顔を浮かべる。
彼女にとって最高の成功例だったからだ。
だが、再び悲痛な表情へと戻る。
「それとも、高校の時にあなたの愛し方を変えたから?でも、お互い新たなスタートを切る必要があったのよ。そうでしょ?そうでなきゃいつまでも…」
必死に呼びかけても、円二の幻影は最後まで振り向かなかった。
凛は絶望と同時に怒りに駆られる。
「やはりあの女が悪いんだわ…作品を完成させられないなら、私が刺し違えてでも!」
凛が頭の鈍痛も忘れて立ち上がった時ー、
再びスマホ画面が点灯した。
良くも悪くも凛は現実に引き戻される。
「またぁ!?今度はいくら払わせるつもりよ!」
凛は激昂しながら画面を覗き込んだが、その内容に意表をつかれる。
ーこんばんわ。苦戦してるようですね。こちらから1つ提案があります。
いまだ『ともだち』に参加している男3人のうちの1人。メガネの中に無表情な瞳を隠している長身の男。
ー追加料金をいただいたら、実行しますよ?
「…いいわ。本当に復讐できるなら、いくらでもお金を注いであげる…!」
もはや真偽を精査する判断能力もなく、凛は資金を送金し続ける。
彼女にとって、それが愛情や友好の印なのだから。
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新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!
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