第17話 すー…はー…

 隣の席にいる円二くんを見た時、心臓が飛び上がるほど驚いた。

 すごく男らしくなってたけど、名前を確認するまでもない。


 ーと、友達になって、くれませんか!?


 ぼくを孤独から救ってくれた人を見間違えるはずがないのだから。

 懐かしさと嬉しさで胸がいっぱいになって、人目も気にせず抱きしめたい衝動にかられた。

  

 話したいことはいくらでもあった。

 今までのこと、これからのこと。


 内に秘めていた思いのことも。


 でも、すぐに心の中にドス黒い感情が湧いて、ぼくを無表情にする。

 結局、何一つ声をかけなかった。


 …後悔なんてするもんか。






 ー原田さんって、そーいう人だったんだね!


 のことを忘れたことは一度もない。




 もう、誰にも騙されたりなんかしない。



 ****



 女の子と腕を組むとおっぱいが当たります。


 リピート、アフタミー。


 女の子と腕を組むとおっぱいが当たります。


 はい、ここテストに出ます。




 「ねえねえ円二さん!あそこのクレープ屋行ったことある?美味しいんだよ〜。結愛ちゃんも行こうよ〜」


 ぽよんっ…


 「あそこのタピオカミルクはすっごく甘くてね!ココナッツミルクがたっぷり入っててぷにぷにしてるの!」


 ぽよよんっ…


 「へ、へえ…確かに、ぽよよん、じゃなかった、ぷにぷにだなぁ…」





 夏の日差しできらきらと輝くポニーテール。


 『学校で嫌ってる人はいない』と噂されるほどの人なっこい笑顔。

 モデルのようなすらりとした体型。

 柑橘系の爽やかな香り。


 そんな鮎川さんが矢継ぎ早に繰り出す会話を俺はほとんど聞けていない。


 なぜなら…






 鮎川さんの胸に集中力が乱されていたからだっ!


 Fップはあるだろうか、夏服の薄手のブレザーはサイズが少し小さく、くっきりとした丸いラインが良く見える。


 「ふぅ。それにしても暑いね~制服もきつきつだから、ちょっと蒸れちゃってるかも~」

 

 (ちょっとどころかブラが見えるぐらい透けてるんだが!?青い花柄のデザインが素敵!)


 なんて心の中で突っ込んでいるとー、

 

 ぽよんっ…


 その胸が、いつも元気な鮎川さんの足取りと合わせ、ゴム毬のように小刻みに震えていた。俺の腕には当然柔らかい振動が伝わり、その度に身震いする。


 「おうふっ…」


 ぷるるんっ…ぷるんっ…


 一度や二度ではない。


 大海原の寄せては返す波のように、鮎川さんが歩くたびに感触が襲いかかってくるのだ。 新手の拷問である。


 「ん?どしたの円二さん、元気ないけど」


 「え?いやぁ元気ですよ。いろんな意味で。HAHAHA!」


 「そう?あ、もうこんな時間。早く円二さんの家に急がないと!」


 「ちょ、まっ…」


 やや天然なところがある本人も気づいてないのがタチが悪い。 

 急に走り出して腕の力を強めはじめる。


 ぽみゅっ…!


 「おうふ」


 より強い圧力がかかり、悶絶するしかない。

 

 これが青春…?


 





 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!

   

 ん?

 反対側から怒りの気配が…


 「あだっ!!!」


 「うん?円二さんなんか当たった?」


 「いや、なんでもない!あ!あそこの観覧車綺麗だよな〜!」


 「あ、本当だ〜!姫宮観覧車でしょ〜?夏はあそこで花火見れるんだよね〜」


 とりあえず鮎川さんの目をそらして反対側に目をやるとー、




 「…がるるるるる」


 少し尖った八重歯を向いて威嚇する可愛い小動物がいた。

 結愛である。

 

 浮気者の足を軽く踏んで罰を与えたらしい。


 「すまぬ…すまぬ…!」


 「…どうせあたしは小さいですよーだ」


 ぷいと横をむかれてご機嫌斜め。


 許してくれ。


 気移りしたことなど一度もないけど、アレが凶悪すぎるんだ。


 耳打ちをして必死に謝罪を試みる。


 「今日は俺が洗濯もするから!」


 「…知らないっ」


 「明日のお小遣い1000円にするから!」


 「…お、お金で釣られるとかそんな歳じゃないし」


 「ご飯はハンバーグにするから!」


 「…チーズ上に乗っけてくれる?」


 「サー!イエッサー!」


 結愛はやれやれと言った表情を浮かべ、肩をすくめた。


 体格的には数段大きい鮎川さんよりも大人びた立ち振る舞いである。


 「じゃあ許してあげる…と言いたいところだけど、このまま引き下がると、なんだか負けた気がする」


 何かを思いついたのか、不機嫌だった表情が、いたずらっ子のような笑みに変わる。

 





 「あたしだって、負けてないんだからねっ…!」


 ぷにゅん…




 (んおっ!?)


 まさかの大胆な行動。


 結愛が俺の腕にしがみつき、鮎川さんよりもはるかに小さな胸を押し付けてきたのだ!


 しかし、いくら結愛でも胸の性能大きさが…



 「ふ…んっ」


 ぷにゅにゅにゅん…


 なぬっ!


 こ、これは…的確に俺の腕に快感を与えるよう、全身で振動を与えている!天然の鮎川さんにはできない策士の行動!


 しかも恥じらうようなボイス付き!


 胸の性能大きさの違いが、戦力の決定的差ではないということを示しているとでもいうのか!?


 「ねーねー、2人ともなにしてるのー?早く歩こうよー!」


 ぼいんっ!


 このタイミングで鮎川さんも再び参戦してきただと!?


 「ねーねーねー!」 


 ぽよよよよんっ!!!


 「あたしの胸で昇天…しちゃえっ」 


 ぷにゅんっ…!!


 ああ。







 我が生涯に、いっぺんの悔いなし…!

 





 「ありゃりゃ?円二さん、右腕を高くつきあげて魂が抜けたみたいだよ?」


 「気にしないでください。あたしと鮎川先輩でお兄ちゃんを連れていきましょう」


 「うん、そうだね!」


 「…流石に、ちょっと恥ずかしかったかも」


 「…?」


 「いえ、何でもありません。それより、この前は試食に付き合ってくれてありがとうございます…色々ありましたが、お兄ちゃんも喜んでくれました」


 「そっか…美也も嬉しいよ!」


 こうして、美少女2人はほぼ意識を失った俺を引きずっていくのだった。



 ****



 「お邪魔しまーす!円二さん、もう大丈夫なの?」

 

 長らく俺と結愛しかいなかった家に、久々の来客が訪れる。鮎川さんは靴を丁寧に揃え、だだっ広い玄関からリビングへとやってきた。


 「…危なかったけどなんとか帰ってこれたよ。何もないんだけど、ゆっくりしてくれ」


 「ゆっくりさせていただきます!」 


 その時、俺はあることに気づく。


 「そう言えば、何で今日家に来たんだっけ?」


 「あ、そう言えば言ってなかったね」


 ぽん、と手を叩く鮎川さんだったが、表情が少し曇る。


 「あの…その…」


 彼女らしくない、慎重な喋り方。


 「すー…はー…」


 何だか深呼吸をして、感情を鎮める。

 そしてー、






 「美也の…恋人になってください!!!」


 衝撃的な一言を放った。



  ****



 昨日、なんとラブコメ部門圏外から108位までランクアップしておりました。ありがとうございます!


 ここまで来ればなんとか100位以内まではいきたい!


 相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします! 


 追伸:次回は例のあの人が少しだけ登場します

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