第14話 『ともだち』

 【side:結愛】


 「…あ…うぅん…んんっ…」


 あたしは、自分の声とは思えないような艶っぽい声で喘いでる。


 理由は単純。


 あたしたち2人の情欲の炎が燃え上がったからだ。


 円二とあたしは貪るようにキスをした後、服を乱暴に脱ぎ捨てて、決して広いとは言えない湯船に2人で入った。


 今は、一向に大きくならない胸を、背後から円二にまさぐられている。

 いつもなら痛みを感じるぐらい強い力だったけど、何故か気持ちよかった。


 (小さいのは良くないっていわれてるけど…円二が興奮してくれるなら、いいのかな…)


 そのまま円二の情欲に身を委ねている。

 このままずっと、学校にもいかず、家からも出ず、こうしていたい。


 色んな感情で頭をぼーっとさせながら、あたしは昔のことを思い出す。


 


 ー結愛!お母さんこの人と話があるの。お風呂に入ってなさい。

 ーはなしって…?

 ーいいから早くはいりなさい!

 ーいやっ…わかったから…たたかないでよ、まま…

 

 子供のころのあたしにとって、お風呂場はママに追いやられる場所だった。


 ママが新しい男の人を連れてきた時の儀式。

 ママと男の人が不思議な声を出しているのを、ただじっと聞いている時間。

 昼も夜も関係なく無理やり入れられる牢獄。


 なぜそんなことをするのか、10歳を超えたあたりから、なんとなく理解するようになった。


 あたしは嫌悪したけど、ママは気にしなかった。

 それどころか、わざと声を大きく出して、あたしの耳にはっきりと刻み付けた。


 ママはこう言いたかったんだろう。






 あなたもになるんだよと。

 自分の娘に蔑まれて、その腹いせに娘にトラウマを植え付けるような人間になるのだと。



 だからお風呂に入るのは好きじゃなかった。

 でも、これからは違うのかもしれない。


 牢獄じゃなくて、あたしと円二を周囲の目から守る防壁になるのだから。




 ーあんたはね、幸せになれないのよ。あたしとずーっと一緒にいるの。


 (わかってる。わかってるよ、ママ…)


 あたしは円二に抱かれながら、ママの幻想に語りかける。




 今の涙が出るぐらい幸せな時間は、きっと長続きしない。


 あたしはママの血を引いた人間だ。

 きっと、いつかあたしも、ママのような道へ堕ちていく。


 その時は、円二を巻き込まないようにしなければいけない。


 ママのような人間を完璧に演じて、円二が完全に失望するようにすれば、きっと大丈夫。もしもの時は、ママも道連れにして地獄に行ってもいい。


 でもね…




 「ねぇ…キス、して」


 あたしは舌を伸ばして、円二におねだりした。円二もぎこちなく舌を伸ばして、絡めあう。

 舌がピリピリと震えて、多幸感に包まれた。



 (その前に…幸せな記憶を、誰かに愛された思い出を、作らせてよ…) 


 あたしはママの幻影を振り払い、円二とのセックスに溺れていく。




 幸せだった。



  ****



  【side:??】



 「もしもし?誰って…失礼ね、私よ。中学校卒業以来ね」


 身分証なしでも宿泊できる、場末の薄汚れたホテル。

 顔を痛々しい包帯で覆われた少女が電話をかけている。

 

 目は血走っており、顔は小刻みに震えていた。


 「また、『ゲーム』しない?円二くんは参加しないけど、またみんなで。今回はね…」


 少女は小声で計画を語りだすが、反応の悪さに表情をゆがめる。


 「ちっ…小学校の時から9年も一緒だったのに冷たいわね。分かったわよ。あれが欲しいんでしょ」


 窓から移る景色に目をやりながら、こともなげに語った。











 「として一人当たり100万円あげるわ。成功したら追加で100万円。『ともだち』みんなでやれば大丈夫よ。…は好きにすればいいわ。それじゃ」


 ある程度話がついたのか、少女は電話を切る。


 「円二くん…あなたは気づいていないかもしれない。でもね…あなたは、私にとっての…」


 妄執に囚われた少女は、さらなる闇へと堕ちていくのだった。



  ****



 これにて第一章は終了です!二章からも、新キャラが出たり登場人物の意外な一面が見えたりと色々な展開が用意されています。


 相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 ☆500達成でイラスト化企画を立ち上げますので、よろしくお願いしますm(__)m

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