第13話 だから、泣かないで…

 凛が裏切りを明確にしたことで、俺の中でかろうじて保ってきた何かが壊れた気がした。


 想い出も、常識も、倫理観も、正義も、未来も。


 何を捨て、何を選べばいいのか分からない。

 停学中も頭の中がいっぱいだった。


 結愛との関係はどのように保ち、維持していくのがベストなのか。

 帰ってこない親父や詠美さんを連れ戻すべきなのか。

 俺自身の進路は?働くべきか?進学か?

 結愛もあと1年もすれば進路を考える必要が出てくる。

  

 そもそもー、




 俺は本当に結愛と恋人でいいのか?

 露見すれば結愛の名誉は失われる。

 凛が腹いせに有る事無い事吹聴するだけでも…


 だがー、




 明確に拒絶すれば結愛は傷つくだろう。

 俺もそれは耐えられない。


 もう誰にも捨てられたくない。

 失望されたくない。

 裏切られたくない。

 

 これ以上結愛に悲しんでほしくない。


 じゃあ誰かに相談するか?

 誰がいる?


 家から去っていった親父と詠美さんか?


 ー…親として最低限のことはやった。

 

 結愛には言ってないが、事件の数日後、親父と再会した。


 保護者として学校に来て、俺と一緒に謝罪する必要があったからだ。

 その帰り道、俺は親父に詠美さんと話し合いを持つ、それができないならせめて家に帰ってくれるよう懇願した。


 ーあとは知らん。好きにしろ。


 だが、全て無駄だった。


 親父は、自分を裏切った女の娘である結愛への協力を拒絶した。

 俺自身も汚物を見るような目で侮蔑した。


 ーそうか、分かったよ、親父…


 殴りつけたくなる気持ちをグッと堪え、なんとか送り出すしかなかった。


 あとは…友人と呼べるが、何も知らない鮎川さんや明智か。

 それとも事なかれ主義で事件をうやむやにした教師たちか?


 だめだ!

 誰にも、誰にも相談できない!


 考えなければ…






 結愛のために考えなければ!

 

 そう思っていても俺の頭の中はぐちゃぐちゃで、元凶である凛が破滅する姿をイメージして常に鬱憤を晴らしていた。

 でも、もうそれもできないだろう。


 奴の手は完全に振り払ったのだから。



 結局ー、





 俺は、逃げてるだけじゃないのか…?



 ****


 

 「ごめん…結局、俺が弱いから悪いんだ…」


 俺は、また結愛の前で涙を流した。


 我慢していた全てが流れていく。

 止められない。


 




 「そっか…」


 頬に、小さな手がそっと添えられた。

 結愛の手だ。


 細い指が、愛おしそうに俺の頬を撫でていく。


 「あたしと、一緒だね」


 「一緒…?」


 「うん…あたしと、一緒」


 結愛は瞳が潤んでいたが、涙は流さない。


 「あたしも、正直、これからどうしたらいいか分からない。正しいと思っていたことは壊れて、何も残ってない…円二と同じように、ぐちゃぐちゃのまま」


 「…」


 「でもね…一つだけ、一つだけはっきりしてることがあるんだよ。それはね…」


 一瞬静寂が流れた後、結愛はー、






 「円二のことが、好きだってこと」


 涙を堪えて、優しく微笑んだ。


 「円二がいてくれれば、あたしは幸せなの。ずっと誰かに利用されて、冷たくされるだった人生に光が差したのは、円二のおかげなんだから…」


 「結愛…」


 「不幸になっても、悪口を言われても、道を踏み外しても、私は構わない。円二といられるなら、あたしはそれでいいんだから…」


 「…」


 「だから、泣かないで…もう、充分苦しんだんだから…」




 そこから先のことは、よく覚えていない。

 子供のように泣いていたと後から教えられた。





 親父が出て行った時と反対。




 この日は、俺が結愛に受け止められた。



 ****


 

 本日は21~23時にかけて3話連続で更新します!話のクライマックスなので、一気に読んでいただけると幸いです。例の人もちょっとだけ出ます。


 相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 ☆500達成でイラスト化企画を立ち上げますので、よろしくお願いしますm(__)m

 


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