第13話 回復

 意識の朦朧としたモトカを抱きかかえながらなんとか[感知]で沢山の人がいる場所を見つけた。


「街を見つけたよ。あともうすぐだから何とか頑張ってくれ」


 腕に抱えられた少女の呼吸は小さく元気な姿と比べてとても小さく軽く感じた。

 もうほとんど反応が無くなってきている。

 [感知]でまだ心臓が動いていることがわかる。

 まだ大丈夫だ。

 きっと間に合う。

 トーマの奴は無事だろうか。

 正気を失っているように思えたけど……。

 俺の腕の傷は[回復]で治っている。

 あいつもいいスキル持ってるから簡単にくたばったりはしないと思うが。

 そういえばさっき『いいからさっさといけやユージ』って、初めて名前を呼ばれた気がするな……。

 あいつ……。

 正気を失ったふりをしてワザと俺達を逃がしたのか?

 なんでそんなこと。

 くそっ、そもそも焦っていて判断が鈍っていたんだ。

 斬撃も魔法も効かなくてもいくらでも倒す方法があったはずだ。

 こんなにスキルがあるのに全然使いこなせていないな。

 あっ!!

 なんでもっと早く気付かなかった!

 [回復]をモトカにコピーしてやればすぐに助かるんじゃないか。


 さっそく[回復]をコピーしてモトカに貼り付けた。

 

「勝手なことしてごめん。[回復]のスキルを君に与えた。自己治癒の能力が高まって傷が治っていくと思う。これで助かるはずだよ」


 モトカは薄っすら目を開けて俺の言ってることをちゃんと聞いていた。

 ゆっくりだが急速にモトカの状態が良くなるのが手に取るように分かった。

 これで助かる。

 あとは回復の魔法をかけてもらえばきっと大丈夫だ。

 

 そうこうしているうちにあっという間に街の門の前にたどり着いていた。

 二人の門番らしき人が血だらけの少女を抱えているのを見て駆け寄ってくる。

 

「なんだ? 魔物に襲われたのか?」

 

「おい、こいつモトカじゃないか。なんでこいつの実力でこんなことに? Bランク程度の魔物じゃやられたりしないはずだが……」


「言ってる場合か! すぐに回復の魔法を……」


 すると門番の一人が呪文を詠唱し始めた。

 すごいな門番でも回復の呪文が使えるのか。

 

「よし、取り合えずはこれでいい。ランズ、お前はこの子を聖教会に連れて行って本格的な回復魔法で治してもらえ」


「おう、急いで連れていくぜ。途中でギルドの連中にも声かけとく」


 門番の一人は俺からモトカを受け取り走り去っていった。

 そして残った一人が警戒しながら俺に話しかけてくる。


「それで何があった? ここらじゃ見ない顔だし事によっては拘束しなくてはいけない。ランズがギルドから応援を呼んでくるはずだから逃げようしても無駄だからな」


 そうか、確かに怪しいもんな。

 だけどモトカの安全が確保されたから今はここに用はない。

 すぐにトーマを助けに行かないと。

 状況だけ伝えてさっさと戻ろう。


「森で銀狼シルバーウルフの群れに囲まれて戦っていたら後ろから恐狼ダイアウルフに襲われました。まだ仲間が足止めしてくれているのですぐに引き返します」


「な!? 恐狼ダイアウルフ!? そんな馬鹿な! こんな場所にそんな凶悪な魔物が……。もしそれが本当なら大変なことになるぞ。ギルドに討伐部隊をようせいしてーー」


「そんな時間ないです! 俺は今すぐに向かいます。報告はしましたから。じゃあ」


「馬鹿な! 行ったところで何ができる。お前の仲間はもう死んでるよ! だいたい恐狼ダイアウルフなんてこんなことろにいるはずないんだ。つまらない嘘で逃げようって事か?」


 信じてもらえないのか。

 だけどこうしている時間ももったいない。

 全力で振り切れば問題ないはずだから力ずくでおし通るか。


 そうこうしてると街から人が走ってきた。

 

「おい、セガロ。モトカが譫言で恐狼ダイアウルフって言っているみたいだがどう言う状況だい?」


「な!? 恐狼ダイアウルフ? じゃあお前さんの言ってることは本当なのか……?」


「だから言ってるだろ! そっちの対応はそっちで勝手にしろ! 俺は行くからな」


「おい、待て、ほんとなら死にに行くようなもんだぞ!」


 俺はその言葉を無視してもと来た道を全力で駆けた。

 モトカを抱いていない分早く戻ることができる。

 俺は後悔の念に押しつぶされそうになりながら走った。

 とにかく全力で。

 なんでもっと機転を利かせられなかったんだ。

 モトカがやられた後すぐに[回復]を貼り付けてやればトーマを一人置いてくることにならずに済んだのに。

 斬撃や魔法が効かなくても二人なら十分やれたはずだった。

 しかも[感知]をおろそかにしたから恐狼ダイアウルフの接近に気が付かなかったんだ。

 だけど今更言っても仕方がない、とにかく急ごう。


 だがもし俺一人残っていたら何とか倒せていただろうか。

 銀狼シルバーウルフ十匹に恐狼ダイアウルフ……

 ダイアウルフの攻撃をかわしながら銀狼シルバーウルフを削っていって恐狼ダイアウルフと一対一に持っていかないといけないな。

 躱しながら助けを待つこともできるかもしれない。

 トーマがどんな判断をしているかわからないがとにかく無事を祈って急ごう。

 

 だんだん現場に近づいてきたがまだ[感知]に何も感じ取れない。

 別れた地点を通り過ぎてついにアースウォールのあった現場まで来てしまった。

 だが全く[感知]の反応がない。

 トーマはおろか恐狼ダイアウルフ銀狼シルバーウルフの反応さえ。

 大量の銀狼シルバーウルフの死体だけが残っている。

 どこに行ったんだ?

 逃げながらかなり遠くまで行っているんだろうか。

 とりあえず銀狼シルバーウルフの死体を回収しておいた。

 そして[嗅覚]のスキルの存在を思い出して辺りの匂いを探ってみたが使い慣れていないこともあり元々の匂いを[嗅覚]で嗅いでいないからかよくわからない。

 だけど残りの銀狼シルバーウルフを追うことはできそうだ。

 よし、あっちだ。

 だが銀狼シルバーウルフの匂いを嗅いで手がかりを見つけて急いで向かってみたがそこには大量の血だまりが残されているだけだった。

 銀狼シルバーウルフの死体もないがここで匂いが途切れている。

 ここで一体何が?

 トーマの姿も恐狼ダイアウルフの巨体も見当たらない。

 [感知]に強い魔物の気配もない。

 [嗅覚]で微かに残った人間の匂いと思われる匂いを嗅ぎとりその先へ進んでみると小さい川に繋がっていたがそこで匂いも途切れてしまった。

 これで完全にトーマと恐狼ダイアウルフの行方が分からなくなってしまった。

 入れ違いでトーマが街に行っているかもしれないしモトカの容態も気になるからトーマを探しながら一旦街に戻ってみよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

諸行無常の異世界冒険 ~この世界では誰もが勇者~ べっこ餅 @bekomochi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ