第10話 魔法
街までかなり歩くようだからその間にこの世界について色々聞きだそう。
質問攻めで悪いが人に教えるのが嫌いじゃないタイプのようだしいいだろう。
「それで、魔法についてなんですけど……」
「ああ、そうだったわね。オドとマナは知ってるわね?」
「あ、はい。でも聞いたことあるくらいのレベルで……」
「もう、そこから? 全く、あなた達赤ちゃんみたいなもんね。いいわ一から教えてあげるわよ」
「はい、ありがとうございます」
「まずはオド。オドは意思のある生物の内側から生まれる力の源、エネルギーのことよ。これを使って魔法やスキルを使うの」
「はい」
「オドだけで魔法は使えるのけど、それじゃあすぐにエネルギー切れになっちゃうのよ。だからオドを使ってマナを操作してより大きな力を使うのよ」
「はい」
「そのマナは大気や植物、土や岩、意思のないすべての物に宿っていて世界にあふれているエネルギーのことよ。普通に使う分には尽きることはないって言われているわ」
「へい」
「そのオドとマナを合わせた力を魔力と呼んでいるわ。1のオドで1000の魔力を扱う人もいれば1のオドで10しか扱えない人もいるの。その辺はセンスや才能次第ね」
「ほい」
「そしてそれらすべての力の総称がエネルギーってわけ。体力や寿命なんかをオドに変換して使うこともできるからそれもすべてエネルギーって呼んでるの」
「ふい」
「ちょっと! 真面目に話してるんだけどちゃんと聞いてる?」
「はい! すみません! ちゃんと聞いてます!」
「スキルなんかはエネルギーの消費が少ないけどオドと体力くらいからしかエネルギーを使えないのよ。中にはマナを取り込んでオドに変換できる賢者がいるとかいないとかは聞いたことあるわね。あなたスキルは使えるのよね? さっき[瞬身]使ってたものね?」
「はい、多少のスキルは使えます」
「あら、ほかにもスキルが使えるのね? 私は生まれつきエクストラスキルの[怪力]のスキルを持っているわ。まあそのせいもって今は一人で冒険者やってるんだけど……」
魔女のスキルが[怪力]とはこれいかに。
彼女は彼女なりに苦労があるって事かな。
「それにしても二人とも[瞬身]を使っていたけど生まれつきってわけじゃないわよね? [瞬身]は体術系でもかなり上位のスキルだけどかなり鍛えてるのね」
「えっと、はい、そんなところです」
「話を戻すわね。結局のところ魔法っていうのは魔力で、分解、変換、融合、結合、召喚などを行うことを主に魔法と呼ぶわ。火、水、風、地の属性が四大属性魔法と呼ばれているわ。あとは他には無属性と光、闇、聖属性なんかがあるわ。そして四大属性魔法についてトラベラーが書いていた本にはほとんどの魔法は化学とイメージって書いてあったわね」
トラベラーってのはもしかして異世界人のことかな?
魔法は化学か……聞いたことあるフレーズだな。
「魔法で無から有は作り出せないの。火や水を無から作り出せないから足りないものを魔力で補うのよ。基本的には詠唱をすることで現象の代行が行われて魔力を供給するだけで魔法が使えるわ。それとは別に火や水の発生する原理を理解すれば詠唱破棄や無詠唱が使えるようになるのよ。その原理ってのが科学ってやつらしいわ。」
まあ言ってることはわからないでもないな。
「例えば火の魔法。とくに四大魔法は詠唱さえ覚えれば誰でも簡単に使えるのよ。でも原理を知っていれば詠唱は必要ないの。火が付く原理は知ってるかしら?」
知ってるけど一応聞いておこう。
俺の知識とこの世界の知識が同じものとは限らないしな。
「知らないですね」
「木と木を擦り合わせると火種が出来るわよね。あれは可燃物が発熱して酸素と結合することで燃焼して火が出るのよね。それが発火の原理らしいわ」
まあ基礎知識だな。
たしか可燃物に熱を加えて支燃物と結合させることによって燃焼して火が生まれる。
つまり可燃物に熱が加わわると一定の温度で発火点を迎えて酸素とかの支燃物と反応を起こして発火してその熱でさらに連鎖的に発火するってわけだよな。
「詠唱するとその可燃物の代わりにマナを変換して火を生み出してるの。ただその分オドの消費も多いし威力もあまり強くならないから効率はいまいちなのよね」
おお、マナ便利。
でもマナを直接燃やすのは効率が悪いのか。
「あと上級魔法なんかは引火の原理を用いていたりするわ。ガスなんかに火花を散らして爆発的に燃焼させるのが引火ね。でもマナをガスに変換するのはもっと効率が悪いわね」
確かに瞬発的に威力を上げるには気体の引火を使う方がいいんだろうな。
「あとはこれらを応用して、術者が自前でマナを可燃物に変換したり周囲の可燃物を魔力で集めて振動させて加熱して燃やすのが詠唱破棄や無詠唱ってわけ。枯れ木を魔力で細かく分解したり大気中の水素を集めたり地面の岩や砂に含まれている鉄を分解して粉状にして集めるのよ。周りに何もなければ大気中に含まれる水分をマナで分解して酸素と水素を取り出して燃焼させることもできるらしいわ。これは効率が悪いらしいけど理論上可能みたいね。とにかく工程が増えると効率も落ちるわ。これらの原理を理解して効率よく魔力を上手く使えば詠唱はいらないってわけよ」
確かに魔法は科学って言うだけあるな。
科学の知識が豊富なら使える魔法の幅も広がるって訳だ。
「あとはどれだけ燃焼について知識があるかで魔力効率が変わったり威力が変わったりするわ。例えば木を魔力を使って細かい木炭にしてから燃焼させることで威力が変わったり木を分解してガスを生成して爆発的なエネルギーを作り出すこともできるらしいわ。つまりその場所や場合によって効率のいい燃焼物を選択することで威力を上げたり魔力を節約することができるわね。」
なるほどな。
木の炭素と木に含まれている水分を水素と酸素に分解して炭化水素を生成してメタンガスを発生させるんだな。
それで爆発的な力を生み出せるのか。
あとは醗酵とかでもガスは発生するかな。
結構応用が効きそうだ。
魔法便利だわ。
「あとはストレージに可燃物を保管しておいて取り出したり、可燃物を別の場所から召喚してしまうのもありなのよ」
「ほう、召喚ですか」
「そう、その場所にある可燃物や酸素にも限りがあるから四大魔法の大規模魔法なんかは召喚を用いることがあるわね。」
まあ確かに一気に酸欠になったりしそうだもんな。
逆に酸欠になったら別の場所から酸素を召喚してやればいいのかな。
「水魔法なんかも大気や周囲の植物から水を集めるんだけど大量に扱うとなると限界があるのよ。だから大量の水を使うときは特定の座標を記録しておいてそこから水を召喚して使うのが一般的ね。水魔法も少量なら詠唱すればマナを水素に変換して酸素と結合させるんだったかな、それらも代行してくれるわ。まあ詠唱時間が掛かるのと魔力効率がいまいちだけどね」
「なるほど、勉強になります」
「まあとにかくやってみるのが早いわね。まずはファイヤーからいきましょう。あなた原理がわかるならイメージをしっかり持てば詠唱破棄でも使えるはずよ。まずはアタシがお手本を見せるわね、ファイヤー」
モトカは掌を上に向けて火の玉を作り出した
「これがファイヤー、そしてこれを魔力で圧縮して打ち出すのが、ファイヤーボール」
掌の火の玉が前方の木に勢いよく飛んで行き木が勢いよく燃えて始めた。
「そして水も同じ要領ね、ウォーターボール」
今度は掌を燃え盛る木に向けて水の玉を飛ばして火を消火した。
「あとは同じ要領で空間を高圧縮して打ち出せば、ウィンドカッター」
掌の前から出た風の刃が木の表面を切り裂く。
「そして周りの小石を分解して再構築して固める、ストーン。それを圧縮して打ち出す、ストーンショット」
掌の前に石が生成されてゴンッと勢いよく木に当たる。
「これが四大魔法の初期魔法よ。まあここならストーンショットはそこらの小石をそのまま使えばいいんだけどね。さっき熊を倒したのはただ大量の石を熊の頭の上で分解結合して落としただけって訳よ」
「おお、スゲー!! 見たかトーマ!」
「ああ、ようわからんけどすごいやん」
「ふんっ、これくらい常識よ? ほらさっそくやってみなさい」
モトカはドヤ顔で仁王立ちしている。
俺は可燃物を集めて燃焼させて圧縮して打ち出すイメージをしながら掌を前にかざして詠唱した。
「ファイヤーボール」
掌の前から火の玉が飛んで行った。
木に命中して燃え盛る。
そのまま、水分を集めて圧縮して打ち出すイメージをしながら詠唱した。
「ウォーターボール」
水の玉を飛ばして火を消すことができた。
次はウィンドカッターか。
空気を圧縮して打ち出すだけでいいのかな。
ちょっとイメージしづらいな。
「ウィンドカッター」
風の刃が木を切り刻んだ。
おお、いまいちイメージしきれなかったと思ったけど詠唱破棄ではあるけど技名の詠唱のおかげで上手く行ったのかな。
お次はストーンだな。
これはまあ簡単そうだな。
「ストーンショット」
掌の前に石が生成されて打ち出された。
一応四大魔法の初期は上手く行ったな。
すこし疲労が来る感じがしたけどもしかしたら[忍耐]のおかげで消費を抑えられてるのかもしれないな。
「あら、すごいじゃない! 初めてで四大魔法すべてを使えるなんて魔女でもそうそう居ないわよ。やっぱり私の教え方が上手なのね!! あと調子に乗って使いすぎると肝心な時にエネルギー切れになるから気をつけなさいよね」
「ファーヤーボール」
「「「……」」」
続けてトーマが唱えるが何も起こらなかった。
ほとんど話を聞いていないようだったしあまり賢そうじゃなかったからしょうがないか。
元素とか分解とか結合の知識があまりなかったのかもしれないな。
「まあ、普通はいきなり詠唱破棄で魔法を使えないのよ。あなたは四大魔法も詠唱から勉強した方がよさそうね。」
「ああ、まあべつにええけど」
「ユージは慣れれば無詠唱で手をかざさなくても使えるようになるわ。」
「はい、精進します」
「あとなぜ詠唱破棄から教えたか説明するわね。もちろん詠唱さえ覚えれば簡単に魔法を使えるのだけど、言ったと通り魔力効率がいまいちなのはわかったわよね? あとは詠唱時間が掛かるから実践向きじゃないってのもあるわね。でもほかにも決定的な理由があるわ。詠唱魔法はレジストされやすいのよ。詠唱魔法はマナを変質させてエネルギーに変えている事が多いからそのエネルギーを分解されたり反射されたりされやすいのよ。時間をかけて詠唱して簡単に反射されたらたまったもんじゃないわよね。まあ魔物に使う分にはいいのだけどやっぱり詠唱時間がね……」
「そうですね、魔物も待ってくれはしないですからね」
ちょっと物騒な話になってきたな。
レジストされるってことは対人で魔法を使う事を前提に話している。
やっぱり殺し合いとかあるのかもしれない。
人を殺すことになったらいやだな。
まあ盗賊とかが現れたら容赦はしないけど。
「そうね、あとは聖魔法系ね。ヒールは人体について詳しい人だと詠唱破棄できるみたいなのよ。魔力で細胞を活性化させて回復を促したりしたり足りない細胞をマナで補ったりするらしいけどアタシには理解できなかったから詠唱してるわ。自分や仲間に使う分にはレジストされないもの」
俺も人体に関してはあまり自信がないな自然治癒の原理なんて全然わからん。
俺自身[回復]があるから今はいいけど機械があったら勉強してみよう。
「あと便利なのはさっきも使ったけどストレージね。無属性の魔法だけど珍しく詠唱破棄が一般的ね。異空間に物を保管するイメージよ。ただ保管中は保管量に比例して常にオドを消費してしまうから自分のオドの回復量と相談しないと冒険中にエネルギー切れして荷物をぶちまけてしまうわ」
ふむふむ[異袋]があるからストレージも別にいらないかな。
まあでも試してみるか。
枝を拾って試してみた。
「ストレージ」
手に持った枝が消えて異空間に保管されたのがわかる。
それと同時にエネルギーが持っていかれているのも感じた。
薄々気づいていたがこれに関しては[異袋]が完全上位のスキルなんだな。
[異袋]は消費エネルギーも少ないし大容量だ。
「すごいわね、ストレージは最初のイメージがかなり難しいから習得まで結構かかるはずよ」
そうなのか、俺は[異袋]を使えるからイメージが簡単だったのだろう
「うーん、まあなんとなく……できちゃった感じですね」
「……そう、そんなもんかしら……。あとは身体強化系の魔法よね。パワー、クイック、タフネスなんかがあるわね。パワーは力が大体三倍位になるのよ。まあでも私の[怪力]はその三倍の九倍って言われてるわ。さっきのパワーベアーの[剛力]は六倍ね。一気に教えても混乱するでしょうし調子に乗ってエネルギー切れになる人が多いからほかの魔法はまた今度教えるわね」
忘れてたけど[剛力]ゲットしてたっけ。
それにしても[怪力]やばいな。
あとでコピーしてやろうかな。
魔法よりスキルの方が上位の効果な場合が多いのかもしれない。
ほかの魔法もすぐに教えてほしいが教えるのも疲れるだろう、また今度でいいか。
基本原理は理解したし色々応用もできそうだしね。
「はい、ありがとうございます。ほんとに勉強になりました先生!」
「せ、先生だなんて、な、何言ってるのよ」
ははは、まんざらでもない感じだな。
とにかく魔法が使えるようになったのはでかい。
遠距離の攻撃手段ができただけでもかなり戦術の幅が広がる。
トーマには後で魔法の使い方を詳しくわかるように教えてやろう。
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