第11話 強奪

 それにしてもかなり情報が手に入ったな。

 冒険者ギルドがあることも分かった。

 魔法も使えるようになるなんて思ってもいなかったな。

 しかも美少女で怪力な魔女の先生だ。

 情報量が多すぎて追いつけないよ。

 あとはこの世界のルールや常識なんかも聞かないと。

 あとどんな種族がいるのかも知りたいな、特にエルフのお姉さんはいらっしゃるのか。

 あーもう、夢が広がっちゃうなー。

 とにかくギルドに行って冒険者になってお金を稼がないとな。

 働かざる者食うべからず。

 まずは宿と飯を確保できるようにならないと。

 

「あとどれくらいで街に着くんですか?」


「んー、そうね。このまま川沿いに二時間くらいよ」


「おお、もう少しですね。俺達よそ者もすんなり街に入れるんですかね?」


「門番はいるけれどドーエはただの交易都市だから問題ないわよ。王都なんかに立ち寄るときはギルドカードを確認されたりするけどね」


 交易都市か、結構大きな街なんだろうか。

 王都があるってことは王制なんだな。

 早くギルドに行ってギルドカード貰いたいな。

 ん? そもそも登録できるんだよな?


「あの、ギルドって俺達も登録できますよね?」


「うーん、お尋ね者じゃなければ問題ないわ。もしかしてなんか思い当たる節でも?」


「いやいや、全然そんなんじゃ無いです。ただ気になっただけで」


「そ、ならいいわ」


「ちなみに何をやらかしたらお尋ね者になったりするんですか?」


「そうね、殺人、強盗、窃盗、詐欺とかかしら。ちょっとした小競り合いなんかは日常茶飯事ね。あとは稀にいる三大禁忌スキルの持ち主が聖教会送りになったりするらしいわね」


 おお、割と常識的だな。

 喧嘩は日常茶飯事ってわけか。

 喧嘩売られないように気を付けないと。

 三大禁忌か、気になるな。


「ちなみにその三大禁忌ってのはなんです?」


「あら、有名な御伽噺の一部よ。知らないの? 三大禁忌スキルって言って500年前に暴れていた邪神が持っていたとされている危険なスキルよ。三大禁忌スキルを一つでも持ってる人は邪神の器になる可能性があるから聖教会に身柄を拘束されるのよ。拘束された後はどうなるかは知らないわね。まあおそらくは処刑ね。その三大禁忌スキルってのが[洗脳][魅了][強奪]よ」


「へ、へへー、そそそそそうなんですかー、へー」


 ご、ご、強奪うぅ。

 ……強奪……強奪!!

 やべーーーー!

 しょ、処刑されちゃう!

 聞かなければよかったああああ。

 いや、聞いといてよかった。

 うん、聞いといてよかった。

 このことは絶対人には言えないな。


 慌ててトーマの顔を見た。

 トーマは聞いていなかったのか知らない顔をしている。

 

 後で厳重に釘を刺さなければ!

 もう何に釘を打っているかわからないくらいにめった刺しにだ。

 

「何かしら?」


「い、いえ。なんでもないです。知り合いの知り合いにそんなスキルを持っている人がいたようないなかったような気がして。そんなことよりその御伽噺の続きってありますか?」


「ああ、気になるわよね。邪神はそのスキルを使って多種族を惑わせ戦争に巻き込み戦わせ、戦争で名を挙げた強いスキルを持った者を見つけたら殺してスキルを奪っていたわ。そうして血で血を洗うほんとに意味のない戦争が長く続いたの。すべては邪神の掌の上よ。[魅了]と[洗脳]で多種族の眷属を増やして人間の王や魔王なんかも操ったといわれているわ。幾人の英雄や先代の勇者も倒されていったの。それを見かねた女神様が邪神を倒そうとしたんだけどすでに邪神は強大な力をつけていて負けてしまったわ。瀕死で逃げることには成功したけれどもう手の打ちようがなかったの。そして邪神に対抗できる人はもうこの世界にはいなかった。だから女神様は異世界から来るトラベラーに賭けたのよ。異世界から時々やってくるトラベラーは強大な力を持っていることが多いのよ。そこで女神様は力のほぼすべてを使って邪神を打ち倒せる強大な力の持ち主を探してこの世界に召喚したの。それがこの世界で絶対的な正義と力の象徴として伝説となっている勇者様よ。そして勇者様が邪神を打ち倒したって訳よ」


 ふう、何とかごまかせた。

 確かに[強奪]は持つ人が持てばかなりやばいスキルだよな。

 冷静に考えたら俺はコピーしただけだから削除すればセーフじゃね?

 と言うことは、やばいのはトーマか。

 もしばれたら俺はしらばっくれてトーマには尊い犠牲になってもらおう。

 御伽噺で気になるのはやっぱり異世界から来た勇者だよな。

 同郷の人が居れば心強いんだけど、まだ生きてたりすんのかな。


「壮大な物語ですね。その勇者はまだご健在なんですか?」


「勇者様、よ。様をつけなさい」


「はい、すみません。勇者様はまだご健在ですか?」


「わからないわ。普通の人間だったからもうすでに寿命で亡くなっているって話らしいけど、邪神復活に備えて眠ってるって話もあるわ。元の世界に帰ったって話もあったけどそれはトラベラーの研究で無理ってわかったらしいのよ。マナのない世界からマナのある世界に吸い込まれることはあってもその逆はありえないらしいわ。りんごが木から落ちることはあってもその逆は起こりえないとかなんとか。まあよくわからないわ。勇者様ならそんなの関係ないと思うんだけどね。とにかく今は伝説の勇者様はいないって事よ」


 そうなのか、さらっと言われたけど元の世界には帰れないのかもしれない。

 勇者が手掛かりになると思ったんだけどな。

 こんなことならアニメ録画しないでリアルタイムで見ておけばよかったな。

 神回って噂だったのに見れないのかよ。

 まあでも切り替えてこっちの世界で何とかやっていこう。

 うん、前向きに行くしかないな。

 前の世界では馬車馬のように働いていた社畜だったけど全然貯金はたまらなかったし。

 税金高すぎんよ、マジで。

 こっちの世界ではいいスキルに恵まれたっぽいしギルドでビシバシ働いで夢のマイハウスでもどーんと建ててやるぜ。


「そうなんですか。勇者様はどんなスキルを使っていたんですか? 邪神はかなり強かったんですよね? かなり凄いスキルなんでしょうね」


「うーん、具体的にはわかっていないらしいのよ。一説によるとすべてのスキルが使えたとか言われているわ。とにかく勇者様は完全な存在なのよ。この世界では誰もが勇者を尊敬してこの世界では誰もが勇者に憧れているの。わかったかしら?」


「ええ、もちろん。勇者様バンザーイ!」


「ちょっとふざけてない?」


「いや、全然」


「そう、女神様のお言葉によると勇者は常に皆の心の中にいて、この世界では誰もが勇者であると言われているわ。だから新しい勇者が出てきていないとも言われているわね」


 そんな話をしていると突然[感知]に複数の魔物が引っ掛かった。

 どうやらこちらに向かってきているみたいだ。

 エネルギーは大きくないがスピードがかなり速い。

 とても嫌な予感がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る