第7話 敏捷
周囲を[感知]で警戒しながら湧き水の場所にたどり着いた。
近くに来た時から[感知]でわかっていたんだけど、どうやら先客がいるようだ。
肉眼で確認すると狐の家族のようだった。
「なあ、狐って食べれるんか?」
「うーん、普通は食べないよね。アンモニア臭がきついらしいし、そもそも食べる部分が少ないんじゃないかな」
「ああ、そうなんや」
「もしかして食べたかったの?」
「いや、ただちょっと腹減ってきただけや」
「たしかにおなかが減ってるとなんでも美味しそうに見えるけど狐はな……。でもあの狐のスキルは気になるな」
「よっしゃ、じゃあぶった切ったるわ」
「いやいや、相手がどんなスキルかわからないし三対二じゃ不利だよ。それこそ即死級のスキルだったらどうすんの!」
「[回復]あるから大丈夫やろーー」
いつものようにトーマは作戦も立てずに飛び出していった。
今回は黙って様子を伺ってやばそうだったらマジで逃げよう。
さっそくトーマに気づいた一番大きな狐はトーマを威嚇する。
三匹が横並びに歩き出し一瞬逃げるのかと思ったがトーマの周りをぐるぐると回り始めた。
どんどんスピードを上げていき一匹を目で追うのがやっとになり、サークル状の残像が見え始めている。
すると一匹が凄まじい速さでトーマの足に噛みついてすぐにサークルの中に戻って行ってった。
戻ったと同時に反対側から別の狐がトーマの肩に噛みつきまたサークルの中に戻っていく。
我武者羅にサークルに近づこうにもトーマの動きに合わせてサークルも動く。
噛みついた瞬間に刀で迎撃しようにも早すぎて刀ではとらえられない。
いくら[回復]あるとは言え、これじゃあ体力が削られてかみ殺されてしまう。
普通の人間なら最初の二、三回でもうアウトだろう。
俺たちは[忍耐]と[回復]があるから簡単には死なないだろうけど。
とにかく早く助けに行かないと。
俺が外側から仕掛けて挟み撃ちで倒すしかない。
脇差を引き抜き駆け出した。
「トーマ、今行く! 挟み撃ちにしよう!」
「ああ、自分ちょっと来るのおそないか?」
「お前が勝手に先走ったから様子見だよ! とにかく挟み撃ちで倒すぞ!」
二人は挟み撃ちをしようと構えてお互いに近づいて行った。
それをあざ笑うかのようにサークルが大きくなり一瞬で二人ともサークルの内側に。
「ああ? なんや、挟み撃ちするんちゃうんかい!」
「うるせー! 取り合えず背中合わせになって倒すぞ!」
背中合わせになり死角が減ったにも関わらず、狐のヒット&アウェイを攻略できないでいた。
すでに二人とも10回以上噛みつかれてしまっている状態だ。
「あかん、このままやと二人ともお陀仏やで!」
「わかってるよ、あっちにいくぞ!」
俺は大きな木の方に移動してトーマもそれに付いてくる。
大きな木を背にしてさらにお互いに死角をカバーするように立った。
狐は木ごと囲むようにサークルになってヒット&アウェイで噛みついてくる。
「で、こっからどうするんや!」
「こうする」
そう言いって俺は脇差を鞘にしまった。
「なんや、あきらめたんか」
「違う」
俺は姿勢を低くして身構えた。
そして狐が足に飛びついてきた瞬間ーー
「こうするんだよ!!」
俺は素手で狐の首根っこを掴み全力で[吸収]をした。
「死角が減ったから俺の左半身はお前の体で狐から死角になってる。だから必ず右腕か右足に噛みついてくるってわかってたんだ。だけど俺の剣速じゃ狐をとらえられない。だからこうして素手でつかんで[吸収]だ」
「おお、やるやんーー」
すぐさま刀を手放して返事と同時にトーマの左肩に噛みついてきた狐を素手で捕まえる。
俺が掴んだ狐が暴れてまくって俺の腕はボロボロの傷だらけになっていたが[吸収]でエネルギーを奪っているせいもありどんどん[回復]していった。
逆に狐はどんどん抵抗する力を失っていく。
そして最後に残った狐が俺が狐を掴んでいる右腕に噛みついてきた。
だが予想した通りだ、すぐさま左手で狐を掴み[吸収]してやった。
最初に掴んだ狐が力尽きて[敏捷]のスキルを獲得した。
続いて左手でつかんだ狐も力尽きた。
トーマの方も問題なく倒したようだ。
「いやー、危なかったね。[回復]と[吸収]がなかったら絶対死んでたよこれ」
「そうか? ワイは自力でもなんとかなったんやけどな」
よく言うよ、なにが「あかん、このままやと二人ともお陀仏やで!」だよ。
スキルがあっても完全に手詰まりだったじゃねーか。
それにしても今回は[敏捷]か、体の動きが素早くなるスキルのようだな。
どうやら動体視力や頭の回転も早くなるみたいだ。
さすがにあの狐ほど早くは動けそうにないけど百メートルを五秒くらいで走れそうな感じがする。
それにしても着々といいスキルが集まってきたな。
これで本格的に街探しを始められそうだ。
とにかく人を探してこの世界について色々聞きたいことが山のようにあるからね。
さっさと水を大量に確保して本格的に移動しよう。
「夜の間に調べたんだけど[異袋]に直接水を保管できるから大量に保管しよう」
「おお、そりゃ便利やな」
「保管した水をコップに直接入れる事もできるよ」
「へー、知らんかったわ」
「あとこの狐どうすんの? 食べるの?」
「ああ、せっかくやし食べるやろ」
せっかくだからってなんだよ。
あの猪と違って食べれる部分が少ないから皮とか剥ぎ取っていろいろ処理しないといけないのかな。
めんどくさいからそのままレイピアにぶっさして丸焼きでいいだろうか。
でも一回で食べる分にしては多いかもしれないが後で考えるか。
「取り合えず内臓は取り出して洗ってから持っていこう」
「ああ、わかった」
二人で狐を処理して大量の水も確保できた。
まだ午前中のはずだしここから本格的に街か人を探そう。
「なあ、ある程度いい感じにスキルも集まってきたし、本格的に街か人を探そうと思ってるんだ。この湧き水をたどればきっと小川に出ると思う。そして小川の先には大きな川があるはずだから川をさらに下れば街があると思う。」
「ええけど、なんで川を下れば街があるってわかるんや」
「なんでって言われてもな……、人間は生きるのに水が必要だろ? だから川の近くに街を作っていつでも水を確保できるようにしてると思うんだ」
「水道使えばええんちゃう?」
「あ、うん。水道があればね。この世界に水道があるかどうかはわからないけど、そもそも水道があるなら川から水を引いて処理する施設が川の近くにあるはずだから結局人は見つかるかな」
「そやったらええけど」
「うん。ただ水が必要なのは人間だけじゃない。あの狐も昨日の猪も水を飲んでたように危険な生き物が水を求めてくるかもしれない。だから[感知]で探りながらできるだけ戦いを避けてなるべく早く街を探したいんだ。いい?」
「うーん、また倒したらええんちゃう?」
「いや、今までは確かに無事に倒せてたけどもっと強い生き物がいるかもしれない。具体的に言うと熊だな、熊が居たら俺は絶対に逃げる。狐や猪であの強さだから熊なんていたら絶対やばいよ。トーマがどうしても戦いたいなら一人で戦ってくれ。俺は結果を見ずに先に逃げるからね」
「いや、そこまで言うんならええけど。弱そうなやつならええか?」
「基本的に避けたいね。この狐もそうだけど弱いと思ってたらめちゃめちゃ強いパターンもあるし戦ってる間に強いのが乱入してくるかもしれないからさ。戦ってる間は[感知]もおろそかになってしまうしこんなわけのわからない森で死ぬなんてまっぴらごめんだね」
「ようするにビビっとるわけやな」
「ん? いや、普通にビビってるよ? 当たり前じゃん。知識も装備も道具もない状態で知らない場所で危険な生き物が襲ってくるんだ。こんなのいつ死んでもおかしくないよ」
「ワイかて死にたくはないで? でもなんやろ、ぶった切るとスカッとするやろ? 力が漲るって言うかなんとも言えん感覚やな」
「全然わからない。確かにスキルを獲得できるのはいいけど生き物を殺してスカッとはしないかな」
「まあ、わからんならええけど」
「もういいよ。とにかく先に進もう」
こいつの無鉄砲さはなんなんだよ。
ほんと付き合ってらんないよ。
とにかく街か人を探さないと命がいくつあっても足りない。
まずは川を探す。
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