第5話 火種

 よし、とりあえず無事に洞窟までたどり着いた。

 [感知]で周囲を探っているが洞窟の近くにに魔物はいないみたいだ。

 この洞窟は魔物に荒らされた気配がないからもしかしたら何かしらの力で守られてるのかもしれないな。


 [異袋]から肉とバッグを取り出した。

 とにかくおなかが減ったから肉を焼くことにしよう。

 洞窟の中に竈っぽいものもあったから道中で使えそうな枯れ木を集めながら帰ってきたから燃やすものはある。

 埃が被っていてわかりずらかったが、やはりこれは竈のようだ。

 うまく煙を外に逃がせる構造になってるな。

 よしよし、これなら肉を焼く場所は問題ない。

 あとは肝心な火だな。


「竈があるからまずは火を起こそう!」


「ああ、すきにしたらええんとちゃう?」


 トーマはベットにダイブして寛ぎ始めて手伝う気はないらしい。

 まあいいさ、麻紐があるからこれを使って火起こし器を作ろう。

 ほんとは、まいぎり式の火起こし器がよかったけど木材に穴あけしたり結構難易度が高い、この洞窟のなかの道具じゃ作るのは無理じゃないけど時間がかかりすぎる。

 今回はゆみぎり式の火起こし器だ。

 弓矢の弓の形になるように木に麻紐を括り付けるだけで完成。

 肝心な棒は折れた矢を見つけたからこれを少し削って代用する。

 まっすぐな木じゃないとうまく回らずに火が付きにくいんだよね。

 早速、棒の軸を木と木で挟んで絡みつけた弓を前後に動かす。

 擦れている部分が徐々に黒くなって煙が出てきた。

 額にじんわりと汗が出てきて手汗もかいてきた。

 あともう一息で火種がたまりそうだ。

 あ、やばい。

 火種を作っても麻紐をほどいて着火用の火口を作っていなかった。


「トーマ!ベットで寝そべってないでちょっと手伝ってくれ!」


 人がせっせと飯の支度をしている間にベットで寛いでいたトーマに声をかけた。


「なんや、いきなり」


「ちょっとそこの麻の紐をバラバラにほどいてくれないか?」


 手は止めずに顎で指示を出す。

 

「なんや、人を顎で使いよって」


 文句を言いながらも麻紐をほどいてくれた。

 ほどき終わるのを見て手を止めずにトーマに再び指示を出す。 


「この火種の近くに置いておいてくれるか?」


「ああ、この辺でええか」


「そこでいい」


 トーマはほどいた麻紐を置いて俺の隣にしゃがみ込む。

 そしておもむろにポケットに手を入れて煙草を取り出し、ライターで火をつけて煙草を吸い始めた。


「なんや、火つけるだけでえらい大変そうやな」


「そうだな、ライターでもあれば簡単に火が付くけど俺は喫煙者じゃないからさ、ライターなんて持ってないしさ」

 

 ライター?

 あれ?

 こいつ今ライターで煙草に火つけたよな?

 火起こしする準備もベットで横になってこっち見てたよな?

 俺の額に流れる汗を見てこいつは何を思うのだろうか。

 俺は火種が冷めてしまうのも構わずに手を止めてトーマに告げた。


「あのさ、悪いんだけどそのライター貸してくれない?」


 正直ぶちぎれそうになりながらも引き攣った顔で爽やかに聞いてみたが返ってきた返事がまた見当違いな返事だった。


「ああ、ええで。なんや自分も煙草吸うんかい」


 その見当違いな返事に鬼の形相で答える。


「いや、普通に竈に火をつけるんだよ!!」


「ああ、そうなんかい。それでやらなあかんのかと思ったわ」


 少し申し訳なさそうに答えていたから悪気はなかったようだが余計に腹が立つ。

 ライターを奪い取るようにトーマの手から奪い、ほどいた麻紐に火をつけて竈にくべる。

 簡単に火がついて細い枯れ木に燃え広がりあっという間に火が安定した。

 火を見ていると自然と心も落ち着いてきた。


 さっそく肉を切り出して食べやすいように手のひらサイズにカットしてた。

 ボロボロのレイピアを濡らした布で擦って磨き、串代わりにして肉を刺して竈の上に乗せる。

 塩くらいあればよかったんだけどまあこんなところじゃ贅沢品だな。

 しだいにパチパチを音をたてて肉の焼ける香ばしい匂いが洞窟中に漂っていく。


 匂いにつられて動物や魔物が近寄って来てないか感覚をとぎすませる。

 どうやら近くには蔦の奴しかいないようだ。

 蔦に嗅覚はないだろうから大丈夫だと思うけどもし洞窟に入ってきたら竈に放り込んでやろう。


「トーマ、肉焼けたよ。一応見た目はうまそうだけど味付けとかしてないからおいしくはないだろうけど」


「ああ、食えればなんでも一緒とちゃう?」


 一緒ではないと思う。

 絶対に。

 まあいいさ、とりあえず食べてみよう。

 

ガブリ、モグモグ 

 

「旨い! が、なんというか……、ワイルドな味でワイルドな風味にワイルドな肉の硬さだな」 


「ああ、わいるどやな。せやけど悪くはない」


 味付けしてないのに肉のうまみである程度食べれるレベルの味だ。

 少し肉の臭みがあるけど、そこまで気にならない。

 無心ですべて食べ尽くして気が付くと洞窟は竈の明かりだけが輝いて外はすっかり暗くなっていたようだ。

 

「いつの間にか外、暗くなってるね」


「ああ、せやな」


「とりあえず今日は休むべきだと思うんだけど、二人で熟睡するのは危険だと思うんだよね。俺が見張ってるから先に寝ていいよ。4時間位したら起こすから交代してくれ」


「ああ、そうかい。じゃあそうさせてもらうわ」


 ベットで寝る準備万端のトーマと交代で寝ることになった。

 その間にスキルの再確認とかいろいろやってしまおう。

 まずは手持ちのスキルの確認からだな。

 

[メモリー]触れた相手のスキルをコピー切り取り貼り付け保存できる。

 ┗[吸収]触れている相手のエネルギーを吸収する

 ┗[強奪]殺した相手のスキルを奪う

   ┗[吸収]触れている相手のエネルギーを吸収する

   ┗[感知]エネルギーを感知する

   ┗[忍耐]ダメージと疲労を軽減する

   ┗[異袋]異空間にアイテムを保存する


 なるほどこんな感じか。

 [感知]のスキルをゲットしたのはでかい。

 相手の力量もある程度分かる、なにより集中しとけば不意打ちに合わずにすむからな。

 やっぱり[メモリー]と[強奪]の枠が別なのがきになる。

 一応トーマのスキルもコピーしておくか。

 トーマに触れて[感知][忍耐][異袋]をコピーして保存した。

 改めてわかったのは[強奪]だとスキルの詳細がわからないことだな。

 俺は[メモリー]を介してスキルの効果を知ることが出来る。

 [強奪]と違ってウィンドウのイメージが頭に浮かぶからだろう。


 問題なのは[強奪]の効果だな。

 トーマは見た目からしてやんちゃな感じだがもし人を殺してスキルを獲得するのを良しとしてしまったら俺がなんとかしないとな。

 ある程度スキルが貯まったら[強奪]を切り取ってしまおうか。

 いや、やると決まったわけじゃない。

 こいつだって善の心があるかもしれないし暫くは様子を見て見守ってやろう。

 信用できると思ったら俺が[メモリー]でコピーしたスキルを貼り付けてやってもいいな。

 あとは[異袋]だな。

 どれくらいの量をしまっておけるのか、保管されてる物は時間経過するのか、水や火を直接保管出来るのか。


――よし、だいぶわかったぞ。

 まず水は直接触れることでダイレクトに保管出来る。

 保管していた布は濡れていなかったから共存させれそうだ。

 次は火だ、火の消えかかってる枝を保管して30分経ってから取り出したけど火は付いたままだった。

 時間の経過は無いようだ。

 最後に保管の容量だが今回は判らなかった。

 とにかく沢山保管出来るようだ、また検証しよう。

 取り敢えずこの洞窟の物は根こそぎ頂いた。

 街があったら売れるものは売ってしまおう。

 いろいろ考えていたらそろそろトーマと交代する時間だな。


「トーマ、起きてくれ。交代の時間だ。朝まで竈の火は絶やさないでくれよ」


「……ああ、……わかった」


そして俺は深い眠りについた。

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