第3話 斬首

 さて洞窟で皮の防具を装備してすっかり駆け出しの冒険者みたいになったな。

 まあ装備しないよりましだろう。

 落ちてた布で磨いたらまあまあ奇麗になったし軽いひっかき傷なんかは防いでくれそうだ。

 トーマはデニムに革のジャケットだからそのままで良さそうだな。

 ちなみに肩の部分にトゲトゲはついていない。

 服の上から装備した方がいいと思うけど俺が革装備を付けてるときにちょっと引いた眼で見てたからな、言っても多分嫌がるだろう。


 武器はどれもこれもさびててボロボロだな。

 トーマの刀は業物っぽい感じでちょっとうらやましい。

 なんか禍々しい雰囲気を感じるけど武器は重要だよな。

 俺は丈夫そうなロングソードを見つけたからこれを相棒にすることにした。

 ほんとは刀が良かったけど錆々ですぐに折れてしまいそうなのしかなかったからね。

 刀はロマンだけどロングソードもこれはこれでかっこいい。

 ベルト付きの鞘だからスエットでも装備しやすいしね。

 あと予備で鞘も柄もボロボロだけど刀身だけはきれいな刃渡り50㎝ほどの脇差をもっていくことにした。

 メインのロングソードが折れたりしたら使う予定だ。


 あと動物や魚を捌くのに刃渡り30㎝ほどの短刀も包丁代わりに持っていこう。

 トーマの刀も革のベルトで装備できるようにしてあげた。 

 革のボクサーバッグに水筒や毛布、食器などを詰めて肩にかける。

 戦闘になったらすぐに手放して身軽になれるようにしないとね。

 同じくトーマの分も準備した。


「とりあえず野宿もできるようにいろいろ詰めといたから利き腕の反対側の肩に掛けるといいよ。いきなり襲われたらバックをおろしてから刀を抜かないといけなくなるじゃん?」


「ああ、そうかい」


 やはり少し元気がないままであるが言う通りにバッグを肩に掛けた。


「それじゃまずは洞窟の周りを探索しようか。食べ物や飲み水を確保しないとね。あと魔物の類もいるかもしれないからお互いに助け合える範囲で探索しよう。暗くなる前に何か見つかるといいんだけどね。もしはぐれたら洞窟に戻ることにしようか。」


「ああ、わかったわかった。おかんみたいにグダグダうっさいねん」


 よし、取り合えず人が見つかればいいんだけどさっき見た森の雰囲気じゃ人は近くにいなさそうだったな。

 まずは湧き水や沢なんかが見つかればいいな。

 川があれば川沿いに下っていけば人里にたどり着けるはずだし魚が居れば捕まえて焼いて食べれるかもね。

 あとは果物が生ってればいいんだけど見た目が同じとは限らないし毒があるかどうかなんて見た目で判断できないもんな。 

 パッチテストや動物が食べた形跡を調べて慎重に選別しないとね。


「さて、外に出たけどあの蔦の化け物に気を付けて行こう。ほかにも魔物の類や虫にも注意してね。猛毒の虫にやられたら手の打ちようがないからね」


「そりゃーやっかいやな。ほんまにそんなんがおったらな」


 やはりトーマはいまいち状況を把握できていないようだ。

 だけどこんだけ騒いで異世界じゃなかったらくっそ恥ずかしいわ。

 スキルが実際に使えたから間違いないと思うけど。


「まずは洞窟が見える範囲を中心に探索しよう。まずはこっちから……っと!!ーー」


 さっそく蔦の化け物が足元を這ってきたが今回は警戒していたからすぐに気が付いた。

 すかさず剣をを抜いて剣の重さに任せて振り下ろしながら滅多切りにする。


「ふう、剣を振り回すのって結構重たいな。こりゃ慣れるまで結構かかるぞ」


「なんや、そんくらいでだらしないのう」

 

 完全に動かなくなったところで[吸収]のスキルを獲得した。

 コピーしたスキルと強奪したスキルは別枠になってるみたいだな。

 まあこのスキルは相手に触れていないといけないからかなり使いどころが難しそうだ。

  図体がデカくて防御力が高い相手には有効かもな。

 この後数回蔦の化け物がでてきたが気を付けていればなんてことはなかった。

 

ガサッ


 茂みから音を立てて出てきたのは可愛いウサギちゃん♪

 と思いきや牙を出して威嚇してきた。

 完全に食べ物を見つけたみたいな顔してますやん。

 確かに俺達隙だらけで弱そうだからな。

 向こうから襲ってこないのであれば別に取って食ったりしないんだけどな。


 やたらと厳つい牙を見て剣に手をかけて対峙しようとしたその時。


ガサッ!ガサッ!


 俺たちの後ろから音がして二匹のウサギか飛び掛かってきた。


「チッ、そう言うことか」


 とっさに左腕を出して身構えたが、左腕に噛みついてきた。

 

 「痛ったい!このやろう!!」


 革の腕当てをしていたから血は出てないがとんでもない力で噛みついてきた。

 ウサギの首を掴んで無理やり引きはがして地面にたたきつける。

 すぐさま足で踏んで身動きを封じて、剣を抜いて斬りつけた。

 トーマは肩に噛みつかれていたが革のジャケットを着ていたため同じく無事であったが、噛みつかれたまま刀でウサギを刺すように斬りつける。

 血を浴びた刀が薄っすら光っているように見えたけど気のせいであろう。

 最初の一匹は距離を取っていたため出遅れたのかサッサと逃げて行った。


「危なかった、怪我はない?」


「ああ、ちょっと噛みつかれただけや、血もでとらん」


 俺は腕当てを外して噛まれたところを確認してみた。

 血は出ていないが赤紫色に変色していてかなり痛い。

 たぶんトーマも同じようになってるはずだがやせ我慢してるのかな。

 だがこんなのが続けばかなりやばい。

 素人二人が、こんな危険な森を彷徨ってるなんて本気でやばいのかもしれないな。

 今のはたぶんかなり弱い魔物の類だと思うし、頻繁に魔物に遭遇してたら体がもたない。


「おい、この感知ってスキルかなり使えるみたいやな」


 そうか今のウサギを倒したときに[感知]のスキルをゲットしたんだった。

 さっそく周りを探るように意識を集中させると何となく周りの生き物等の位置がわかるようになっていた。


「へー、これが[感知]のスキルか。これで魔物から不意打ちされることもなさそうだね」


「ああ、さっきのウサギも[感知]できへん場所まで逃げていきおったようやな」


「あのウサギはこのスキルで俺達を感知して回り込んで罠に嵌めたんだろうね」


「まったく、うざってぇやつやな。まあ、もう不意打ちは通用せえへんけどな」


「なんにせよこれで魔物を避けつつ人を効率よく探せるようになったね」


「ああ? 魔物って今みたいな雑魚やろ? もっと探し出して全部ぶった切ってやるんや。なんで避けていかなあかんねん。今みたいにスキルもゲットできるやろ」


 おお、確かにそうかもしれないな。

 不意打ちで魔物を倒しまくってスキルを量産すればかなり安心して森を歩けるようになるかもしれない。

 感知で先に相手の力量を図って無理そうなら逃げることもできそうだしね。

 なんか急にトーマもこの世界に馴染んできたみたいだな。

 さっきまで[吸収]されて元気なかったのに。

 肩の痛みもなぜか無いみたいだけどまあいいか。


 剣の血を拭って鞘に戻してこのウサギを食べるか食べないかで悩んでいるとトーマが勝手に動きただした。

 

 「おいおい、どうしたんだよ。そんな急にどこ行くんだよ」


 勢いよく走りだしたトーマに必死についていく。

 感知で向かう先を調べてみると魔物の反応があった。

 相談もなしにいきなり魔物を狩りに行くのかよ、血に飢えた獣じゃあるまいし相談位しろよ。


 魔物にだんだん近づいてきたところで息を殺して静かに忍び寄る。

 どうやら体長一メートルほどの猪の魔物のようだ。

 いや、もしかしたらただの猪かもしれないが感知した感じは明らかに魔物のそれだ。

 どうやら湧き水を飲みに来ているみたいだな。

 たまたま反応を追いかけたら水にたどり着くなんてラッキー。

 今回は猪が去るのを待ったほうがよさそうだ。

 

 小声でトーマに問いかけた。


「どうする?もしかして倒すつもりなのか?」


 するとトーマも小声で答えた。


「いや、わからん。猪なんてしばいたことあらへん」


 でしょーね!!

 普通ないでしょーね!!

 わかんねえなら一人で突っ走るなよ。

 たまたま気づかれてないだけでかなり危ないじゃん。

 しかもたぶん猪って結構強いだろーが。

 

「まあ猪はまっすぐ突進してくるはずだから木のそばを離れないで突進してきたら木に隠れつつ斬りつけるとか――」


「よっしゃ、それや」


 この馬鹿は聞いた瞬間に意気揚々と刀を抜いて猪の前に姿を現した。

 こちらに気が付いた猪は後ろ足に力を溜めて一気に突進してきた。

 トーマがギリギリ腕が回りきるくらいの太い木に隠れて猪を伺いながら刀を向けて猪の突進を待つ。

 猪はお構いなしに太い木に突っ込んできた。

 トーマは突進に合わせて刀を猪に向けると猪の頬を少し切り裂いたが猪が木にぶつかった瞬間ーー


 ドカァァァン!!メキッ!!メキッ!!メキッ!!


 猪は太い木をものともせずに突っ込んできて木をへし折って来る。

 トーマは木に顔面を強打して倒れてしまい、その上から木が倒れてきた。

 ああ、終わったな。

 ただ茫然と見ているしか出来なかった。


 しかし倒れた木は枝の部分が地面との隙間を作っていてなんとか挟まれずに済んだようだ。

 さすがに猪も衝撃でひるんでいたようだがブルブルと顔を振りまわしてトーマを睨みつけた。

 トーマは必死に木の下から這い出してきている。

 猪は再び後ろ足に力を溜めて突進の構えを取った。

 

「木だ!その倒れた木に登れ!!」


 とっさにトーマに指示をだす。

 トーマは間一髪で木によじ登った。

 その瞬間、猪は再び木に突撃。


ドォーン!!


 トーマは木から投げ出されたが猪とは反対側に落ちて、倒れた木が上手く邪魔をして猪と分断してくれている。

 ふう、何とか直撃は避けられたようだな。

 安心したのもつかの間、今度は大声を出して気づかれたせいか俺をターゲットにしたようだ。

 猪が再び後ろ足に力を入れて突進の構えを取る。

 俺は近くの木の後ろに隠れながら猪の様子を伺いタイミングよく木から離れてトーマのように木にぶつかるのを避けようとした。


ドカァァァン!!メキッ!!メキッ!!メキッ!!


 再び猪が突進してきて木がへし折れる。

 倒れてくる木を避けて猪の方に近づいた。

 先ほど木にぶつかった瞬間に猪が怯むのを見たからだ。

 予想通り猪が怯んでいたから剣を振り上げ体重を乗せて猪に切りかかる。

 

ゴスッ!


 猪に当たったが鈍い音を立てて弾かれた。

 素人が使うなまくらの剣じゃ分厚い毛皮を切り裂けなかったようだ。

 

「嘘だろ……」


 猪がブルブルと顔を振り回して再び突進の構えを取る。

 俺は慌てて倒れた木によじ登り体制を立て直す。

 その瞬間猪が木にぶつかってきた。


ドォーン!

 

 再び木にぶつかってくることはわかっていたから剣を逆手に持ち、ぶつかる瞬間にジャンプして猪に飛び掛かり体重を乗せて剣を突き刺した。


「うおおおおおおお」


ドスッ!!


 猪の首元に剣先が刺さるが猪が暴れて頭を振り上げた拍子に吹き飛ばされてしまった。

 背中から地面にたたきつけられ、肺の中の空気が一気に吐き出される。

 やばい、木の上に逃げないと。

 頭でわかっていても瞬時に動くことができない。

 怒り心頭の猪は容赦なくその後ろ足に力を溜める。

 このままじゃ大木をいとも簡単にへし折る突進を生身に受けることになってしまう。

 最低でも何カ所も骨折、打ちどころが悪ければ最悪即死だ。


 もうだめだっ……と思ったその瞬間――


「おりゃぁぁぁぁ」


 トーマが飛び出してきて刀を振り下ろし、猪の首をいとも簡単に切り落とした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る