第1話 出会

 パソコンの電源を入れようとしたらあたりが真っ白になって……

 気が付いたら薄暗い洞窟のような場所にいるみたいだ。唐牛で隙間から光がさしているからぼんやりと見える。

 俺のパソコンは一体どこへ? 

 俺の大事なメモリー達は無事なんだろうか。

 服は着ていた量販店で売っている鼠色の上下セットのスエットで靴は履いていない。

 やたらとごつごつした岩肌むき出しの床の上に立っているから足の裏が痛い。

 目が慣れてきてあたりを見回すとツーブロックで短く整えられた金髪に顎鬚、ゴリゴリの半グレ集団のリーダーみたいな見た目のヤンキーが仁王立ちでこちらを見ているのに気づいてびくっとした。

 監禁?

 誘拐された?

 とにかくなにかしらの犯罪を犯していそうな見た目のあいてと洞窟で二人っきりのようだが相手が話しかけてきた。


「何所じゃここ」


 半ギレで俺に聞いてきた、正直ちびりそうになりながらもこいつも同じ状況だと思った。


「私にもここがどこだかわかりません。ついさっきまで家で彼女と寛いでいたとこだったんですけど、いきなり視界が真っ白になって気づいたらここに……」


 ビビりながらも無難に状況に応えつつ、なめられたらいけないと思い彼女がいる設定にしてみた。


「ほう、そうかい、ワイも大体同じやな」


 ふう、彼女いると嘘をついてみたがどうやらうまく騙されてるようだな、あんがいちょろいやつかもしれない。

 とりあえずここがどこかわからないしこの薄暗い洞窟を探索してみることにした。

 ボロボロのベットや布切れ、意味の分からない小物が散乱していて最近誰かが寝泊まりしていた形跡はないようだな。

 反対側の壁側にはさび付いた大量の剣や槍等の武器と皮製品が無造作に置かれている。

 一際目を引いたのが唯一壁に飾ってある禍々しい雰囲気の刀だがあれはやばそうな感じがするから触らないでおこう。

 

 一体ここは何処なんだろう。

 大昔の武器の保管場所か休憩所かなにかかな。

 意味が分からなすぎる。

 誘拐されたにしても刃物が転がってたり縛られたりしてるわけじゃないし違う感じがするな。

 皮製品の中から長靴のような皮の靴を見つけて拝借した。

 裸足よりはましだが履き心地のいいものじゃないな。

 見なかったことにしたがヤンキーの彼は攻撃力の高そうなトゲトゲの靴を履いていた。

 見なかったことにしたが。

 そんなことを考えているとやつはあの禍々しい刀を手に取ってベルトに鞘を刺した。


「ちょ……何してるんですか?」


「あぁ?これが一番高そうやから一応持っていくだけや」


「いや、これ誰の物かわからないですし、まずいですよ」


「自分かてその靴勝手に履いとるやろが」


「いや、これは、その、この洞窟がごつごつしてて足が痛かったので……」


「じゃあ別にええやないか」


 溜息がでそうになったけどぐっと我慢。そもそも日本でそんなもの持ち歩いてたら銃刀法違反じゃん、まあ言っても無駄に絡まれるだけだからほっとこ。


「とりあえずこの洞窟は他になにもなさそうなので外に出てみましょうか」


「そやな、あっちの方は外につながってそうやしな」


 洞窟の先に進みすぐに出口が見つかった。

 光が漏れているからわかったが、向こう側から入り口がわからないようになっているみたいだ。

 何か隠された場所って感じがするな。

 人が出入りした気配も足跡も全くない。

 とりあえず外にでるとじっとりとした森だった。

 木々の隙間から差し込む木漏れ日で昼であることはわかるがそれにしても薄暗く気持ちが悪い。


スルスル


 すると突然スルスルと音を立てて蔦みたいなものが足に絡まってきた。

 なんだ? と思っていると徐々に力強く太ももあたりまで巻き付いてきた。


「えっ? なにこれ? ちょっと! 助けてください!」


ヤンキーに助けを求めるとすぐさま蔦をつかみ引きはがそうとしてくれたが全然びくともしない。なぜだかだんだん力が抜けてくる。


「なんやこれ、きしょくわるい、全然とれなやん」


「い、痛い。力が入らない、早くっ、何とかしてくれっ」


 そのときヤンキーの腰に差している刀が目に入った。


「それ! その刀、早く」


 ヤンキーは一瞬訳が分からないと言いたげな顔をしたがすぐに刀を持っていることに気づいて刀に手をかけた。


「おりゃぁぁぁ」


ザバッザバッ


 足ごと斬られると思って死ぬほど後悔したがうまく切り伏せてくれたようだ。

 やはり犯罪者っぽい見た目通りに刀の扱いにも慣れているのかもしれないな。

 尻もちをついてそんなことを考えているとヤンキーが何やら呟いた。


「なんや? すきるって? どないなっとる!」


「え? ス、スキル?」


「今誰か喋ってたやろ、すきるがどうのって」


「いや、私には聞こえなかったんですけど……」


 え?

 スキル?

 いやいや、異世界じゃあるまいし、なに言ってんだよ。

 冗談はその靴だけにしとけよ。

 とりあえず立ち上がろうとしたらヤンキーが手を差し出してきた。

 意外といいやつなのかもしれない。

 ヤンキーの手に触れると頭に声が響いて見覚えのあるイメージが浮かんだ。


≪強奪:殺した相手のスキルを奪う コピー、切り取り、キャンセル≫

≪吸収:触れている相手のエネルギーを奪う コピー、切り取り、キャンセル≫


 え? なにこれ無機質な声で再生されて、スマホの画面をダブルタップやパソコンで対象を右クリックしたときに出るウィンドウみたいなイメージが頭の中に!

 混乱しつつコピーを選択してみるすると次の選択肢が提示された。


≪スキル、強奪をコピーしました。 貼り付け、保存≫


 貼り付け?保存?いや、えーっと、とりあえず保存っと。


≪スキル、強奪をコピーして保存しました。≫


 うむ、どうやら強奪のスキルをコピーして保存したらしいな、うん。

 そしてコイツのスキルは[強奪」で木の根のバケモンみたいなのを倒したから[吸収]のスキルを奪ったって頭に声が流れたってわけか。

 なるほどなるほど。

 とりあえず[吸収]もコピーして保存っと。


 うん、これあれだな。

 異世界ってやつじゃね?

 うん、たぶんそうだ。

 たぶん異世界だわ。

 まあ、知らんけど。

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