諸行無常の異世界冒険 ~この世界では誰もが勇者~

べっこ餅

プロローグ

500年前に女神が召喚した勇者に滅ぼされた邪神アンラは肉体を失って霊体として世界に漂い、力を溜めてその時を待っていた。


『グワッハッハ、ついに見つけたぞ!我が依り代となる器を!』


 そしてついに肉体を取り戻し復活する時がきた。


『異世界の者だったから探すのに時間が掛かってしまったが、憎き女神の使っていた召喚術で我もコヤツを召喚してその肉体を乗っ取るのだ』

 

 マナの集中によって自然災害のように肉体や魂をこの世界に引きずり込まれる者がいる。

 いわゆる異世界転移や異世界転生と呼ばれているそれである。

 だが異世界召喚となると対象を指定しマナの集中のような世界に歪みを作るほどの莫大なエネルギーを必要とする。

 かつて邪神アンラに追い詰められた女神ハミナが異世界から勇者を召喚したがその時は邪神に追い詰められていたためエネルギーを溜める時間もなく無理やり生命力を消費して召喚し、その代償として力の大半を失ったのだった。


 邪神アンラは500年かけて溜めていたエネルギーを使い依り代を召喚して乗っ取るつもりなのである。

 そしてその気配を感じ取った女神は焦っていた。

 邪神が依り代を召喚する可能性があるのはわかっていたからだ。

 だからこそ女神は邪神の召喚術に自分の召喚術をこっそりと織り交ぜて再び勇者を召喚するつもりだったのである。

 力を失ってしまっていたが邪神復活に向けて策を練っていたのであった。

 だが誤算があった、そう、勇者が見つかっていないのである。

 すでに邪神の召喚術は始まっている。急がなくてはいけないがそう簡単に見つかるはずもなく……

 

 ◇ ◇ ◇ 


「あーもう、思ったよりだいぶ早かったわね、勇者はまだ見つかっていないのに! この世界では誰もが勇者とは言ったものの、高潔なる魂に圧倒的な力、世界の祝福を受けた勇敢なる者、そう簡単に見つからないわよ! でもこのままじゃまたこの世界が……」


 だが邪神の召喚術は待ってくれない。


「力があっても邪神に唆されるような魂の持ち主じゃだめね、この際、純潔童貞で高潔な魂であればもう誰でもいい! あーもうコイツでいいわ!」


 ◇ ◇ ◇


――そしてその時、あーもうコイツでいい、のコイツこと主人公であるこの男は……


 俺の名前は中谷優志ナカタニユウジ。いわゆる中小企業のいわゆる社畜だ。

 今日は金曜日、仕事帰りのこの時間帯はくそリア充カップルや飲み会へ向かう陽キャやサラリーマンであふれている。

 俺はなにしてるかって? 

 上司の飲みの誘いを断って一人帰宅の途についているとこだ。

 別に上司が嫌いなわけではないよ? 

 むしろ尊敬しているくらいだ。

 じゃあなぜ断ったかって? 

 はあ? 

 どうせ暇だと思ってるんだろ?

 ふっふっふっふ、プレーボーイな俺には予定があるのさ。

 コーラちゃんとポテチちゃんを両手に侍らせて1DKの我が城にて週末恒例の優雅なる鑑賞会をするのさ。

 毎日残業でへとへとの俺は帰宅⇒飯⇒風呂⇒就寝⇒出社の繰り返しなもんで一週間分のアニメをパソコンの大画面で一気見。

 マジでサブスクって神だと思うわ。

 週末にポテチとコーラをお供に一気見するのが週末のルーティンってわけ。

 さっそく家についてパソコンの電源をぽっちっとな。


バチン!!!


 パソコンの電源を入れた瞬間にバチンと音がした気がして視界が真っ白に。


「うわぁぁぁ、なんだ、パソコンがショートした!?」


 思わず声を出してしまったが耳鳴りでかき消されてしまった。


 ◇ ◇ ◇


 彼がとっさに思ったのはパソコンのデータ(メモリー)達は?

 俺の週末の楽しみは?

 などである。

 だが安心してほしい、パソコンはショートしていない。

 データも無事だ。

 だがもう二度とこのパソコンに触れることができなくなってしまったのは本人に伝えずらい事実であるが。

 たまたま電源をぽちっとした瞬間に女神が召喚の割り込みをしてこの男を異世界に引っ張り込んだのである。

 こうして男は邪神の召喚術に巻き込まれてしまったのであったーー


 ◇ ◇ ◇ 


『ぐわぁぁぁぁ、なぜだ、500年溜めたエネルギーで足りないはずがない! なぜこんなにもエネルギーをもっていかれるのだー!』


 ギリギリで女神が召喚術に割り込んだ影響で邪神は500年溜めたエネルギーをすべて使い果たし、その生命力まで術に吸い上げられてしまったのである。

 そして女神同様、いやそれ以上に邪神は力を失ってしまいこの世界に干渉することができなくなったのであった。

 そこまで女神が計算していたわけではない、たまたま偶然女神ちゃんの超絶ファインプレーである。


「ふう、なんとか間に合ったわ。たまたまだけど邪神も力を失ってくれたみたいね。焦って召喚してしまったけど、よく考えたらこんな力のない弱い人間を邪神の前にいきなり召喚しても瞬殺されるだけだったわね……。まあ結果オーライってやつね。オホホホホホ。って私もちょっと限界だわ、数年は力を溜めないといけないわね……」


 こうして世界の平和は保たれて邪神のなりそこない(?)と勇者のなりそこない(?)が同じ場所に召喚された。

そして薄暗い洞窟に厳ついヤンキー風の男とアニメ好きな社畜がなんの説明もなく異世界にいきなり二人っきりで取り残されたのであった。

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