滅びの杖(モーニングスター)

 共闘することになったサリーとナイアだが基本的に別行動だ。サリーは昼に自分の派閥を通して学園の情報収集を行い、ナイアは夜に浄化活動をするからである。


「思ってたよりもサリーの情報って役に立つわね」


「気配だけを頼りに悪い子を探すより確実だしね。場合によっては誘導もしてくれるし」


 集団の利点を活かした精度の高い情報提供にナイアもリトルキッドもご満悦だ。夜中に徘徊して空振りという日がなくなったので気力体力が無駄に消耗することもない。


 さすがに自分の命がかかっているだけあってサリーも真剣だ。今日も打ち合わせで必要な情報をナイアに説明する。


「今回は以上です。これで悪霊の影響がありそうな悪い子はほぼいなくなりますわね」


「あらそうなの? 意外に早く片付きそうね」


「効率よく浄化できたからだよ。やっぱりサリーと組んで正解だったよね、うんうん」


「なんであんたが偉そうにうなずいてんのよ」


 半目で睨まれたリトルキッドだったがまったく気にしていない。


 そんな二人に対してサリーが話を続ける。


「今後ですが、いよいよ生徒会に取りかかることになります」


「あー、ラスボス一歩手前の戦いよね。ついにかぁ」


「一歩手前ではなくて、最後の戦いになります。私はラスボスではありませんから」


「わかってるって」


 軽く受け流すナイアを見てサリーがわずかに眉を寄せた。悪霊に取り憑かれなければいい話なのだがそんな保証はない。


 そこまで考えてふと気になったことをサリーがリトルキッドに尋ねる。


「浄化した方ですが、再び悪霊の影響を受けることはありますか?」


「ないよ。聖なる力で悪い力を追い払った状態だから、クリーンな良い子さ」


「私が悪霊に取り憑かれてしまう可能性はあるのですよね?」


「そうなんだよね。あ、だったらこれを渡しておこう。えい!」


 話の途中で何かを思いついたリトルキッドが短く叫ぶと、サリーとナイアの間にあるテーブルの上にごとりと無骨な武器が現れた。


 それは、鈍い銀色に輝く全金属製の棒の先に鎖が付いており、その先にハート型の塊が付いている。更に、棒の根本辺りは滑り止めの白い布が巻き付けられ、ハート型の部分には棘が付いていた。一般的にはモーニングスターと呼ばれている形状の武器だ。


 呆然と見守る二人にリトルキッドが説明する。


「これは滅びの杖と言って、非常用の武器なんだ。裁きの杖だと復活と浄化ができるけどこっちは復活だけ、しかも変身もできない。でも、悪霊を滅ぼすことはできるよ」


「今の話の流れですと、お守りみたいなのを出すのではないですか?」


「守りよりも攻めだよ。叩き潰してしまえば、守る必要はなくなるだろう?」


 説明を聞いたサリーは、なぜヒロインが悪い子を撲殺していくのかわかった気がした。そして同時に、なぜ魔王を封印ではなく撲殺しなかったのか不思議でならない。


 しばらく声の出なかったサリーだが何とか反論しようとする。


「私は武器を扱ったことがないのですが」


「大丈夫、手にしたら熟練者のように扱えるようになるから」


「それ、操られてません!?」


「体の動きを最適化してくれる魔法がかけられているんだよ。操るなんてとんでもない」


「こんなので殴ったら、相手は死んでしまいませんか?」


「復活はさせられるから安心して。滅びるのは悪霊だけだから」


 上機嫌で説明するリトルキッドを尻目に、サリーは気が進まない様子で滅びの杖を手にした。見た目に反して恐ろしく軽い。


「軽いでしょ。神様が謎な材料を元に不思議な技術で作った武器なんだよ」


「謎や不思議って。あなた自分で持ってるのに知らないのですか?」


「そりゃボクも預かってるだけだからね。使い方しか知らないんだ。そうそう、今から呪文を教えるから覚えて。それを唱えると出したり消したりできるから」


 リトルキッドの教えてくれた二つの短い呪文をサリーはすぐに覚えた。そして、何度か口ずさんで滅びの杖を消したり現したりする。扱い方はこれでわかった。


 手にした武器を消したサリーがリトルキッドへと顔を向ける。


「これで悪霊に取り憑かれてしまったらどうするのですか?」


「そのときはナイアが殴ってくれるよ」


「任せて!」


 笑顔で応えるナイアを見てサリーの顔が引きつった。結局問題は何も解決していない。


 これからの先行きに不安を感じながらも、一応対抗手段を手に入れたことにサリーは満足するしかなかった。

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