相手を誘き出す口実
ノーブル王立学園において生徒を導くのは教師たちだが、生徒自身が運営する生徒会にも一部
しかし、今年に入ってから生徒会は横暴になった。特に中心人物の一人である公爵令嬢が心労で辞退してからは一層ひどくなっている。これに心を痛めている者は多いが、下手に権威ある組織であるために誰も手出しできない状態だ。
ナイアと組んでから一層情報収集に励んだサリーは、リトルキッドの協力を得て生徒会の中心人物三人が悪霊の影響を受けていることを突きとめた。
もはや定例と化したサリーの部屋での会合でリトルキッドが他の二人に話しかける。
「いよいよだね。例の三人からは強い気配を感じるよ。あの様子だと、たぶん王子に悪霊が取り憑いているんじゃないかな」
「ゲームの通りね!」
「王子のアラン、侯爵家の三男坊ランドル、伯爵家の長男マクシミリアンですか。いずれも敵対すると厄介な方々ばかりですわね」
対応一つ間違えると処刑台に上がることになる顔を思い浮かべてサリーがため息をついた。ゲームと違って人生はやり直せないので失敗は許されない。
これからどうするべきかと考えたサリーは一番の問題点を口にする。
「問題はどうやって
「生徒会に乗り込めばいいんじゃないの?」
「ナイア、あなたは自分が夜に活動している意味を理解していますか? いくらあの仮面を見た者の認識を阻害する魔法がかけてあったとしても、真っ昼間の衆人環視の前で相手を撲殺するわけにはいかないでしょう」
「そ、そうね。確かにまずいわ」
「きみはバカだなぁ」
「うっさいわね! ちょっと忘れてただけじゃない!」
小馬鹿にしてきたリトルキッドにナイアが叫んだ。浄化の過程で相手を洗脳するところを見られるのも良くないが、一度撲殺する光景の印象が強すぎた。
毎度おなじみの口論になりかけたところでサリーが割って入る。
「今回は王族を始めいずれも高位者ばかりですから、ひっそりと事を運ぶべきですね」
「できるならそうしたいわ。けど、こっちから乗り込めないのならどうするのよ? 誘き出す方法でもあるの?」
訝しげな目を向けてきたナイアが尋ねた。
一応方法はある。ただ、できれば避けたい方法でもあった。
あまり乗り気ではなかったが、サリーはナイアの上へと目を向ける。
「リトルキッド、確認しておきたいのですが、悪霊は自分の存在が世間に知られることを避けたがりますよね?」
「そうだね。少なくとも力を蓄えないといけない今の時期は知られたくないはずだよ」
「ということは、自分の存在を知っている者は」
「真っ先に処理したがるだろうね。なるほど、脅迫するんだ。きみもやるねぇ」
途中で意図に気付いたリトルキッドがうなずいた。サリーは眉を寄せるが何も言わない。
一方、自分だけ話しについていけていないことを知ったナイアが口を尖らせる。
「何よ。二人してわかった風な顔をして。あたしにも教えてよ」
「悪霊の存在をばらされたくなければ、こちらの指定した時間に指定した場所へ来るようにと書いて、手紙を差し出すのです」
「ああそういうことね。さっすが悪役令嬢、悪いことを考えるのは得意ね!」
「それ、褒めてないですよね?」
無邪気に悪く言われたサリーは半目で睨んだ。まったく気にした様子のないナイアを見てため息をつく。
ただ、自分たちにとって都合が良いのが夜の人気のない場所である以上、高位者を呼び出すための手段は限られていた。この方法以外サリーは何も思いつかない。
「ともかく、誘き出す方法はこれにしましょう。その後は、お任せして良いのですよね?」
「もちろん! 悪い子は裁きの杖でみんな浄化してやるわ!」
「念のためにきみも来てもらえないかな、サリー。たぶん大丈夫だと思うんだけど、三対一になる可能性もあるしね。一応滅びの杖を渡してあるでしょ?」
「リトルキッド、一人ずつ呼び出すんじゃないの?」
「こっちの思惑通りに相手が動いてくれる保証なんてないじゃない。面倒なやつをこの際一気に叩いておこうって考えることだってあり得るよ」
「確かにそうですわね」
あまり考えたくないことだが、数を頼みに反撃してくる可能性は充分にあった。それを考えるとこちらも頭数を用意しないといけない。
あくまでも自分は控えで基本的にはナイアが対応するという条件で、サリーはリトルキッドの要請に応えた。
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