共闘する理由

 ゲーム内の悪役令嬢サリーはラスボスだ。最後は学園地下に封印されている魔王の怨念である悪霊に取り憑かれて、仮面令嬢に変身したナイアに裁きの杖で撲殺されてしまう。


 何の因果かこの悪役令嬢に転生してしまったために、サリーは生まれてからずっと未来のデッドエンドを回避する努力してきた。しかし、世界の矯正力でも働いたのか、いずれもことごとく失敗して現在に至る。


 そして、ついにゲーム同様に素行不良の生徒がある日突然模範生になる現象を目撃してしまった。ゲームを知っているサリーは裏でヒロインが動いていることを確信する。


 生徒の名簿を調べ上げ、ゲームのヒロインと同じ名前のナイアという女生徒を見つけたとき、サリーは己が人生最大の危機に直面していることを知った。


 早速学園内の使える手段をすべて使って本日ようやくナイアとの面会にこぎ着けたわけだが、その言動を見ているとどうも中の人は転生者のようだ。


 ナイアとリトルキッドの言い争いが一段落したのを見計らって、サリーは声をかける。


「落ち着きましたか? 何やら聞いてはまずいこともおっしゃっていたようですが」


「うっ、まぁしゃべっちゃったものはもうしょうがないわ」


「口が軽いもんね、きみ」


「うっさい! あんたも同じでしょ!」


「そこまでにしてください。お話が進みませんから」


 再びヒートアップしかけたナイアにサリーが声をかけた。しかし、すぐにリトルキッドがしゃべる。


「こうなったら、この子にも悪霊退治を手伝ってもらうしかないね」


「うわ、自分でしゃべっておいて、秘密を知ったからにはって? えぐいわね」


「主にしゃべったのはきみじゃないか」


「べ、別にしゃべりたくてしゃべったわけじゃないもん!」


「ですからお静かに。喧嘩は自室に戻ってからなさってください」


 面倒だなと思いつつもサリーは再び止めに入った。見ている分には面白いが、これでは話が進まない。


 ため息をついて気を取り直してからサリーはナイアに語りかける。


「今までの言動を見ていますと、あなたは前世の記憶を持っているようですね」


「なんでって、あたし結構しゃべっちゃってたか」


「はい。それで実は、私も前世の記憶があります」


「ええ!? うそ! ホントに!?」


「ですから、実はあなたを見た時点で仮面令嬢ルナだということはわかっていました」


「ということは、あんた自分が悪役令嬢だってこともわかってるわけ?」


「ゲームではそういう役目でしたわよね」


「ほら見てよ、リトルキッド! あいつやっぱり悪役令嬢じゃない!」


「えぇ」


 勢いよく自分の正しさを主張してきたナイアにリトルキッドは困惑した。いつも聞き流していた前世だゲームだという言葉が正しいといきなり言われても受け止めきれない。


 そんなナイアを見ながらサリーは更に付け加える。


「あくまでもゲームでの役割としてですよ。この世界に転生してからは悪いことなどしていませんから」


「ほんとにぃ?」


「すくなくとも、悪い子を更生するという名目で撲殺して回るよりかは真っ当な人生を歩んでいます」


「うっさいわね! ちゃんと生き返らせてるんだからノーカンよ!」


 堂々と主張するナイアを見て、そこはもう少し自責の念がほしいなとサリーは思った。


 ともかく、ようやく本題に入れると安堵しつつ、サリーは話を続ける。


「とりあえずそういうことにしておきましょう。なんにせよ、今の私はゲームのような悪役令嬢ではありません。そして、ゲームと同じことをそちらがしているということは、あなたが浄化している悪い子は悪霊の影響を受けているのですよね?」


「そうよ。リトルキッドが判断してくれるから、今まで間違ったことなんてないわよ」


「ならば、悪霊退治という共通の目的が私達にはあるということですね」


「は? なんであんたの目的と同じになるのよ?」


「ゲームですとその悪霊は追い詰められると私に取り憑くでしょう? この現実でも同じかはわかりませんが、そんな事態は回避したいのです。協力しませんか?」


「ボクは賛成だね。こっちの事情もよく知った協力者がいると浄化もはかどるし」


「まぁそうだけど、途中で裏切るなんてイヤよ?」


「ご心配には及びません。撲殺されるなんてまっぴらですから」


「あーそっか。ゲームだとあんたあたしに殺されるんだったわね」


 ゲームの内容を思い出したナイアはようやくサリーの言い分に納得した。裁きの杖の威力を知っているだけに避けたくなる気持ちはよくわかる。


 最終的にナイアはサリーの提案を受け入れた。

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