悪役令嬢とヒロインのお茶会

 グローリー王国の貴族たちは、自らの子弟子女が十五歳になるとノーブル王立学園へ入学させる。立派な紳士淑女にするためだ。


 そんな学園の二年生である侯爵令嬢サリーは周囲から一目置かれる存在である。


 見目は麗しく、毛先まで潤いを保ったまま波打つ金髪は腰まで伸び、その顔立ちはきつい印象を与えるが非常に端正で、更にその才覚もなかなかのものと評判だ。


 ここまでなら才色兼備のご令嬢なのだが、直言が容赦ないことから距離を置かれることも多い。前世の記憶と人格を持つ中の人が知識無双しようとした結果である。


 色々と紆余曲折した人生を送っているサリーだが、現在は人生を謳歌できる状態ではなかった。何しろ生命の危機が迫っているからだ。


 そして今、正に危機の象徴である一年生の少女を自室に招いている。桃色の豊かな髪を肩で切りそろえたかわいらしい女生徒だ。


 広い部屋の窓際で、丸いテーブルを挟んで座る相手にサリーは微笑みかける。


「本日は、私の招待に応じてくださってありがとうございます。ナイアさん」


「仲間数人で連行するみたいなやり方があんたのやり方なの?」


 メイドがお茶の準備をする中、ナイアが不機嫌そうに口を尖らせた。


 確かにそれは正論だが、サリーも手段を選んでいられるほど余裕はない。


「申し訳ありません。どうしてもあなたと早くお話をしたくて。二度ほどお誘いを断られてしまって、つい」


「怖いと評判の人からのお誘いなんて、普通は断るでしょ」


 それは前世の常識でしょうという言葉をサリーは飲み込んだ。階級社会のまっただ中にあって、特待生だが平民でしかないナイアが侯爵令嬢の誘いを断るなどあってはならない。


 お茶の準備ができたメイドが背後に控えると、サリーはティーカップを手にして口を付けた。慣れた味を一口楽しむと会話を続ける。


「嫌われているようですので、早速本題に入りましょう。先日、あなたは金髪のわんぱくそうな少年の姿をした小さな妖精とお話していましたよね?」


「ぶっ!」


 目の前のティーカップに口を付けていたナイアが盛大にむせた。テーブルに吹き付けられたしぶきを控えていたメイドが拭いてゆく。眉一つ動かさない。


 苦しそうに顔をゆがめるナイアを見つめながらサリーは更に続ける。


「それと、夜な夜な奇抜な格好をして自室の窓から外出されるとか」


「なっ!?」


 目を剥いて見返してくる相手にサリーは微笑み返した。妖精を見かけたときにもしやと思って使用人に見晴らせていたら大当たりだったのだ。


 呼吸を整えたナイアが悪巧みをしているような笑顔を睨み返す。


「どこまで知ってるのよ!?」


「メイドを下がらせましょうか?」


 黙って睨み続けるナイアをしばらく見ていたサリーはそばのメイドに目配せした。すると、全員が部屋を退室する。


 室内に二人だけとなったことを確認するとサリーはナイアへと視線を戻した。そして、微笑んだまま答える。


「妖精の名前がリトルキッドで、あなたが仮面令嬢ルナだということくらいでしょうか」


「あんた、あたし以外には誰にも見えなかったんじゃないの!?」


「おっかしいなぁ。ということは、この子も素質があるってことか」


 突然明後日の方向を向いたナイアが叫ぶと、その視線の先に小さな妖精が現れた。二対の昆虫羽を背中から生やして飛んでいる。


「なんで悪役令嬢に魔法少女の素質があるのよ!」


「いや別に、この子は何も悪いことをしていないでしょ。それに、きみだってばれてるじゃないか。めんどくさがって部屋で変身するから」


「だって、ゲームだといっつも部屋で変身してたから、バレないって思ったんだもん!」


 もはや遠慮する必要はないということか、どちらも容赦なく秘密を漏らしながら言い争っていた。


 二人の様子を見て、サリーは自分がネタ枠魔法少女ゲーム『仮面令嬢 悪い子は裁きの杖でみんな浄化よ!』のことを改めて思い出す。妖精リトルキッドに選ばれた魔法少女が、学園の悪い子を復活(蘇生)&浄化(洗脳)して更生させていくゲームだ。


 そして、話の内容からナイアも前世の記憶と人格を持つ転生者らしいことがわかる。


 割と迂闊なゲームのヒロインを見て、話を進めて大丈夫かなとサリーは少し不安に思った。

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