第16話 図書館でばったり②

 正輝は手で涙を拭うと真帆がオススメしてくれる本を楽しみに待っていた。

 真帆の後ろについて正輝は今いる本棚の反対側に回った。


「私の最近のお気に入りの作家さんはこの人かな~」


 そう言って、真帆が正輝に渡したのは有名な女性作家のベストセラーになってる小説だった。

 正輝はその作家の他の小説は読んだことがあるけど、真帆が渡してきた小説は読んだことがなかった。

 

「中でもやっぱりこの本はベストセラーにもなっててオススメだよ! 読んだことある?」

「ないです。気になってはいましたけど」

「じゃあ、読んでみて! きっと涙を流すよ」

「そんなにですか?」

「うん。泣ける! 私が保証する」

「真帆さん、泣いたんですね」


 小説で涙を流す人に悪い人はいないと正輝は思っている。

 きっと、真帆は純粋なのだろう。小説の登場人物に感情移入ができるタイプの人間だ。それは正輝も同じだった。きっと、真帆よりも涙脆い。


「じゃあ、僕もきっと泣きますね」

「正輝君も小説呼んで泣く人なんだね」

「ですね。結構泣きます」


 正輝は恥ずかしそうに苦笑いを浮かべた。

 

「正輝君は純粋な子なんだね」

「それは、真帆さんもでは?」

「たしかにね。でも、ダメだよ。女の涙に騙されちゃ。女は嘘泣きをするのが得意な生き物なんだから」

「真帆さんも嘘泣きするんですか?」

「どうだと思う?」


 真帆は悪戯な笑みを浮かべて正輝のことを見た。

 どうなんだろう。正輝は考えた。だけど、分かるはずがない。真帆と出会って、まだ数週間しか経ってないのだ。正輝は真帆が泣いているところを見たことがなかった。


「分からないですね」

「安心して、正輝君には嘘泣きは使わないから」

「それはどういう意味で?」

「ひ・み・つ」


 真帆はウインクをして正輝の腕に自分の腕を絡ませてくる。 

 相変わらず、さりげなく腕を絡ませてくるんだよな。正輝は真帆のその行動にもはや諦めを覚えていた。流れに身を任せることにしていた。


「それより、今度は正輝君のオススメの本を教えてよ!」

「僕のやつですか。いいですよ」

「やったー!」

「真帆さん、図書館では静かにしてください!」

「ごめん、ごめん」

 

 分かっているのか、いないのか、真帆は楽しそうに笑っていた。

 その後、正輝はオススメ本を真帆に勧めると、一緒にテーブル席に向かい合うような形で座って本を読むことにした。



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