第4話 お姉さんの秘密

 お皿を洗い終わった俺は、ふかふかの真っ赤なソファーの端にちょこんと座っていた。椎名さんが自室に戻ってから、三十分くらい経とうとしていた。

 さっきお母さんから連絡が来て、家に帰ってきているらしい。俺が家にいないということで、連絡をしてきたのだ。俺はカギを家の中に忘れて家に入れなくなったから、ファミレスにいると嘘を伝えておいた。さすがに、隣の家の、しかも女性の一人暮らしの家にいるなんて言えない。


 ガチャ。

 

 椎名さんが入っていった部屋の扉が開いた。その部屋から出てきたのは、綺麗な水色のドレスを身に纏った女性だった。


「お待たせ!」

「え、もしかして、椎名さんですか?」

「そうだよ? 私以外に誰がいるのよ! この家には今、私と正輝君しかいないでしょ!」


 なにをおかしなことを言ってるの? と、椎名さんが笑う。 

 確かにそうなんだけどさ、だって、目の前にいる人が別人!? そりゃあ、疑いたくもなるよ! てか、二人っきりって言わないで! 意識したらドキドキしてきた……。

 目の前にいる椎名さんはばっちりとメイクをしていた。その顔はまるで別人だった。といっても、美人だった顔がさらに美人になっただけだけど。

 というか、椎名さんはメイクする必要ないと思うんだけな?


「メイクは女の基本だからね。髪と同じくらいメイクも大事なのよ! それだけで、印象がガラッと変わるんだから。私の仕事は見た目が命だからね」

「椎名さんはメイクしなくても美人だと思うんですけど……」

「あら、嬉しいことを言ってくれるのね!」

 

 椎名さんが俺にくっついてきた。さっきまで匂わなかった甘い匂いがほんのりと漂ってきた。

 ますます、椎名さんが何者なのかわからなくなってきた……。

 この人は一体何者!?


「さて、私はこれから仕事に行くけど、正輝君はどうする?」

「お母さんが家に帰ってきたそうなので、家に帰ります」

「そっか~。じゃあ、服を乾燥機から取り出さないとね」

「あ、そういえばそうですね。すっかりと忘れてました」

「着替えて帰ってくれたらいいからね。その服はその辺にでも置いておいて」

「え、でも、洗って返しますよ」

「その服のこと、お母さんにどうやって説明するの?」

「あ……」


 そのことは考えてなかった。しかも、俺はついさっきお母さんにファミレスにいるって言ったばかりだった。どうやら、椎名さんの言う通りにするしかないらしい。


「じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」

「甘えなさいって言ったでしょ!」


 そう言って椎名さんは自分の胸を任せなさいという風にトンとした。そのはずみで豊満な胸が揺れた。さっきまでは服で隠れていたけど、今はドレスで胸元が大胆に開いていた。目のやり場に困る・・・・・・。椎名さんのこと直視できない。

 俺は俯いたまま言った。

 

「じゃあ、よろしくお願いします」

「任せて。あ、もうこんな時間! そろそろ行かないと。正輝君、戸締りお願い! それと、連絡教えて!」


 椎名さんは俺に合い鍵を握らせて、膝の上に置いていたスマホを勝手に操作して連絡先を登録して、急いで家を出ていてしまった。


 取り残された俺は唖然としていた。え!? ちょっと待って!? この状況はどういうことだよー!? 俺に戸締りを任せて勝手に連絡先を登録すして出ていくって!? 

 椎名さんの有無を言わさない行動に俺はなすがままになるしかなかった。

 本当は、今すぐに、えーーー!と叫びたかったがぐっとこらえた。隣にはお母さんがいるからな。いくら防音とは言え、万が一声が聞かれるとまずいからな。


 ピコン。


 スマホにメッセージが届いた。見てみると椎名さんからで、『戸締りよろしくね!』という言葉と、両手を合わせているウサギのスタンプが送られてきていた。

 既読を付けたからには、何かを返しとかないといけないな。俺は『分かりました』とい簡潔な一文を送った。


「帰るか……」


 一人になった俺はそう呟いた。着替えを済ませると、戸締りを確認して椎名さんの家から出た。そして、椎名さんから無理やり渡された合い鍵を使って扉のカギを閉めた。


 俺は『戸締りしておきました。今日は本当にありがとうございました。このお礼はいつか必ずさせてください。ところで、合い鍵はどうすればいですか?』と椎名さんに連絡を入れた。しかし、その連絡に返事が返ってくることはなかった。

 きっと、仕事中なのだろう。仕方なく、俺はその合い鍵を持って隣にある自宅に入っていった。


「ただいま~」

 

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