第5話 お姉さんをお迎え

 椎名さんから連絡が来ないまま、数日が経過した。

 今日は十一月四週目の土曜日。あと二日もすれば、今年も最後の月がやってくる。

 現在の時刻は午前五時。

 最近は早起きをして朝の時間を有効に使うのにハマっている。その時間を使って読書をしたり、課題をしたり、受験勉強をしたり。早起きした分の時間を有効活用している。

 

 そんな、読書中の俺のスマホがピコンという音を鳴らしたのが、一時間が経った、午前六時のことだった。そのメッセージの送り主は椎名さん。


『正輝くん! 迎えに来て〜♡』


 と、なんとも意味のわからないメッセージが送られてきた。

 迎えに来て? 一体どこに? 椎名さんの家に行けばいいのか? しかも、来てくれない?じゃなくて来てなんですね。最後の♡も気になるんですけど!? 

 俺の意識は本の世界から一気に現実の世界に引き戻された。

 

 とりあえず『どこに行けばいいんですか?』と送っておいた。この前の借りもあるし、既読無視するわけにはいかない。

 すると、すぐに既読がついて、電話がかかってきた。


「うわ! びっくりした!」


 その反動で、思わず電話を取ってしまった。 


「もし、もし・・・・・・」

『あ! 正輝君の声だー! おはようー! 起きたたんだね!』


 電話の向こうからものずごくテンションの高い椎名さんの声が聞こえてくる。


「お、おはようございます」

『正輝君〜! メッセージ見てくれたー?」


 見ましたよ。というか、メッセージ返しましたよね? それを見たから電話してきたんですよね? それにしても椎名さんはこんな時間にどこにいるのだろうか? なんだか電話の向こうでいろんな人の声がするし。

 てか、テンション高すぎませんか!!!


「見ましたよ。それで、どこに行けばいいんですか?」

『迎えに来てくれるのー!? ありがとうー! 今、位置情報送るねー!』


 椎名さんはそう言うと電話を切って位置情報を送ってきた。電話が切れる瞬間、『正輝って誰だよ!?』っていう声が聞こえた気がしたが気のせいだろうか?

 

 とにかく、俺はその位置情報を開いて、椎名さんの現在位置を確認した。そこは、俺の家から徒歩で二十分くらいの商店街にあるカラオケ店だった。

 なんでカラオケ? もしかして、この時間まで歌ってた? その距離なら一人で歩いて帰れるのでは? とかいろんな疑問が浮かんだが、一旦忘れることにした。俺は必要最低限のものだけ持って、その場所に向かうことにした。ついでに、椎名さんに合鍵も返そう。


***


 俺は位置情報を頼りにそのカラオケ店を目指した。

 

「この辺のはずなんだけど」

 

 まだ、早朝ということもあって、商店街のほとんどのお店がシャッターを下ろしている。人の姿も今目の前に見えている黒服のスーツ姿の男性が数人と、きらびやかなドレスを着た女性が数人しかいなかった。

 

 もしかしなくてもあれだよな? 顔が見えなかったけど、この前、椎名さんが着ていた水色のドレスを着た人もいるし……。 ちょっと待って、てことは俺は今からあの集団に声をかけるのか!? 

 

 黒服のスーツを着た男たちはみな、髪を茶髪だったり金髪にしていて、高笑いをしていた。きらびやかなドレスを着た女性たちも愉快に笑っている。

 

 怖すぎるんですけど!?


 とりあえず、俺は椎名さんに『近くまで来ました』とメッセージを入れた。すると、すぐに既読がついた。その集団の中、金髪の男性に肩を借りていた水色のドレスを着た女性があたりをキョロキョロと見渡した。そして、俺と視線が合った。


「おーい! 正輝君ー!」


 椎名さんが俺の名前を呼ぶと、その集団が一斉にこっちを見た。俺はその集団を見ることができず、下を向いた。

 カツカツというヒールの足音とペタペタという革靴の足音が俺に向かってくる。


「おい! お前が正輝ってやろうか!」


 二つの足音が俺の前で止まると、男の怒鳴り声がいきなり飛んできた。


ひぃぃぃ・・・・・・。 怖い!!!

  

「ちょっと、あんまり大きな声出さないでくれる? 頭痛いんだけど」

「す、すいません」


 そんなやりとりが目の前で繰り広げられていたが、俺は完全に怯んでしまっていて頭を上げることができなかった。


「ほら、あんたのせいで正輝君が怖がってるでしょ! もう、大丈夫、向こうに行って」

「で、でも・・・・・・」

「行きなさいって言ってるのよ」


 椎名さんは極寒のような冷たい声でそう言った。革靴の足音が少しずつ離れていく。顔を上げることができなかった俺の頭を椎名さんが優しく撫でた。


「ごめんね。正輝君。怖かったよね」


 俺を包みこむような温かな声で椎名さんはそう言った。その声のおかげで俺の中の恐怖は消えて無くなった。そこでようやく、顔を上げることができた。


 目の前には水色のドレスを見に纏った椎名さんの顔があった。その顔は林檎のように真っ赤に紅潮していた。


「迎えに来てなんて言わなければよかったね。ごめんね」


 なんで、椎名さんが泣いてるんだろうか?

 椎名さんのキリッとしたにはうっすらと涙が浮かんでいた。そんな、椎名さんの姿をずうずうしいのは分かっているけど、俺は愛おしいと思ってしまった。


「あの、もう大丈夫なので、泣かないでください」

「ほんとに? 怒っていない?」

「怒る? なんで、僕が怒るんですか?」

「だって、迷惑だっだでしょ? こんな朝早くに呼び出してたりして」

「寝てるならまだしも起きてましたから。迷惑なんて思ってませんよ」

「ほんとに? でも怖い思いさせた……」

「確かに怖かったですけど、もう大丈夫です……」


 そう言っても椎名さんは納得していないのか、俺のことを心配そうな瞳で見ていた。

  

 本当に大丈夫なんでそんな瞳で見ないでくれますか?


「あの、帰りませんか?」

 

 なんだか、この場にずっととどまるのが嫌で俺は椎名さんにそう提案した。それに、さっきからずっとあの集団に見られてるし。


「そうだね。じゃあ、ちょっと挨拶してくるから待ってて」

「分かりました」


 椎名さんはおぼつかない足取りであの集団のもとへ戻っていく。

 その後ろ姿は何だかすごくかっこよく見えた。


「「「アカネさん! お疲れ様でした!」」」


 男女混ざった迫力のある声が商店街に響いた。


 なんだ!? 何が起こったんだ!? それにアカネさんって誰?


 俺が困惑してると、あの集団が全員椎名さんに向かって頭を下げていた。そんな集団を背に椎名さんが俺の方に向かって歩いてきた。


「それじゃあ、帰ろっか」

「……はい」


 椎名さんはまたしても腕を絡ませてきてくっついてきた。

 

「あの、歩きづらいんで離れてもらえないですか?」

「ダ~メ! 離さないから」


 そう言って椎名さんはさらにくっついてくる。


 いろいろとまずい! ずっと柔らかいものが当たってるし! いい匂いがするし!

 お願いだから離れてくれー!


 そんな俺の心の声が届いたのか、商店街から少し歩いたところで椎名さんがいきなり腕を離した。あの集団の姿はもう見えなかった。



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