第2話 お姉さんはお金持ち

 椎名さんの強引すぎる連行に従うしかなかった俺は玄関先に立っていた。

 まず、目に入いったのは靴箱だった。椎名さんが履いていたスニーカーを靴箱に戻したので、気になった。靴箱の中に並べられた靴のほとんどがヒールで数足だけスニーカーが置いてあった。それが、綺麗にきっちりと色分けで並べられていた。

  

 そして、次に目に入ったのは、靴箱の上に飾ってある大きな絵だった。その絵はすごい迫力で、きっと、どこかの有名な画家が描いたものなのだろうということくらいしか分からなかった。正直、絵のことは俺には何もわからない。それがどんな絵なのかも何を題材にしたのかもイマイチ分からなった。


「その絵が気になるの?」

「え、あ、はい……」

「その絵はね、最近話題の女性画家が描いた絵なんだ。私も絵のことはよく分からないけど、たまたまその画家さんの個展に行ったときに一目惚れして買っちゃった」

 

 てへっと、椎名さんは舌を出しておどけた。

 そんな椎名さんのかわいらしいしぐさに俺はドキッとすると同時に、一目惚れして絵を買えるほど、椎名さんはお金持ちなんだと思った。


「まずは、お風呂だね! 着替え用意しといてあげるから入ってきな。急だったからお湯は溜まってなくてごめんね」

「いえ、シャワーだけでも十分なので、ありがとうございます。でも、本当に家にあがってもいいんですか? 僕、ずぶぬれですよ?」

「いいよ~。私は気にしないから。遠慮しなくて大丈夫!」


 椎名さんがそう言うので、俺は靴を脱いで家にあがった。そして、椎名さんの案内でお風呂場に向かった。椎名さんの家は当然ながら俺の家と間取りは一緒だった。リビングと部屋が二つの2DKの家だった。一人で暮らすには十分すぎるほどの広さだった。


「私はリビングでくつろいどくから、お風呂から上がったら、リビングに来てね~」

「はい。分かりました……」


 反射的に俺は頷いてしまった。

 いやいや、俺はなんで、はい、なんて言ってるんだよ!

 そう思いながらも俺はずぶぬれになった服を脱いでシャワーを浴びることにした。

 なんだか、凄くおかしな展開になってる気がする……。このまま流されてていいのだろうか。

 俺は不安を感じながらシャワーを浴びた。温かなお湯が俺の冷え切った体を温めていく。そのシャワーがなんだか不安までも流してくれるような気がした。

 シャワーを浴び終えると、俺は椎名さんが用意してくれていた服に着替えた。上下ともに白色で高校生の俺でも知ってる有名なブランドの服だった。


「お風呂ありがとうございました」

「さっぱりした?」

「はい。おかげさまで。ところで、僕の服は?」

「ああ、それなら洗濯機の中だよ。正輝君が家に帰ることには乾いてるだろうから安心して」

「すみません。何から何まで……」

「困ってる人が居たら助けるのが私のモットーだからね。それより、正輝君。ちゃんと髪の毛も乾かさないとダメよ! ほら、こっちに来て、乾かしてあげるから!」

 

 椎名さんは自分の膝の上をポンポンと叩いた。

 それはどういう意味ですか!?


「遠慮しときます……」


 俺が逃げるようにあとずさりをすると、椎名さんは立ち上がってパタパタとやってきて逃がさないぞと、また腕を組んできた。そして、赤い革製のでいかにも高そうなふかふかのソファーに座らせられた。

 椎名さんは俺の後ろに回ってドライヤーの電源をつけた。


「あの、本当にいいんで……」

「ダメ! 男の子もちゃんと髪の毛の手入れはしないと!」


 そう言いながら、椎名さんがドライヤーの温風をあててきて、俺の髪をわしゃわしゃとする。それがあまりにも心地よくて、椎名さんがドライヤーをやめた後に、名残り惜しくなってしまった。


「あっ……」

「終わったよ」

「ありがとうございます」

「あれ~? もしかして、もっとしてほしかった?」

「い、いや……。そんなことは、ないです……」


 本当はもっとしてほしかったけど、俺は頭をふるふると横に振った。

 俺の心の中をよんでいるかのように椎名さんはニヤニヤと笑っている。


「なんで、そんなに笑ってるんですか?」

「素直じゃない正輝君が可愛いな~と思っただけ。嫌いじゃないよ。そういうところ!」


 そう言って椎名さんが猫にするように俺の頭をわしゃわしゃとした。


「さて、じゃあ、ご飯食べよっか」

「え、そこまでは、悪いですよ……」

「いいのよ。どうせ、私も食べるつもりだったから、一人分も二人分も一緒なの!」

「でも……」

「高校生が遠慮しないの! 若いうちはたくさんいろんな人に甘えたほうがいいのよ!」


 椎名さんは俺に向かってウインクをすると、キッチンに向かって行った。

 なんだか、申し訳ない。シャワーを貸してもらった上にご飯までごちそうになってしまうなんて……。

 せめて、何か手伝えることがないだろうか。そう思って、俺は立ち上がった。


 というか、ちょっと待って!? なんで、椎名さんは俺が高校生ってことを知ってるんだ!?

確かに、背丈とか顔立ちとかで大体の年齢は想像できるかもしれないけど、俺は椎名さんに自分の年齢を言っていないぞ! それに俺は幼顔だからたまに中学生に間違われることがある。本当は十七歳なのに。一体どういうことだろうか……?

 俺はそんな疑問を持ちながら椎名さんのいるキッチンに向かった。


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