【2章】~【3章】

【2章】

「ん~……今日のタスクはおわり!」

 疲れを放出するアンテナのように体を反らしながら私は声を上げる。

「今日はなにを”おしえて”くれるのかな、ルーチェがムリしないくらいでわたしとお話ししてくれたらなんでもいいんだけどなぁ…」

今朝の約束を思い出しながら、定位置である檻の隅に座る。


「それにしても今日のタスクはふしぎだったなぁ、ルーチェのことを聞くなんて…そんなのルーチェにきいた方が早いでしょ」

 普段のタスクは薬剤の投与や五感を確かめたり、気分や調子について質疑応答をするものが一般的だったが、今日のは質が違った。まるでルーチェという腫れ物の周りを突いて反応を確かめるようだった。


 そんな考えても仕方のないことばかりを考えてルーチェを待っていると、次第に眠気が襲ってきた。

無理もない、この日はルーチェの寝顔を堪能するために早起きしたのだ。


 昨日なら既に帰ってきている。そのくらいの時間になってもルーチェは帰ってこなかった。それでもしばらくは眠気の猛攻に必死に耐えていたが、少女の体力ではやはり抵抗にも限界があった。

いつしか深い眠りに落ちていた。

「いじわる……」

と口から溢しながら。

─────────────────

【3章】


───私、ルーチェはもう戻れない段階まで進化していた。今はこうやって精神に干渉することでしかウリューに言葉を伝えられない。

「ゆ…め?あたらしいタスクの話?」

「違うよ、なんというか…もっと楽しくてフワフワすることさ。いつかやりたい事と言い換えてもいいね」

「んー…じゃあいつか、ルーチェと外の世界?に行きたい!」

「……うん、私もだよ…」

ウリューは夢を見ていた。夢というのは記憶の整理だとか、深層心理の反映だとか色々説はあるが、恐らくここ最近で1番幸せな記憶を再生していると思われるウリューの夢は、どちらともとれるものだった。


「それじゃあ、えーと……”やくそく”?だっけ?」

「うん、合ってるよ」

「じゃあそれね!」

「……うん…」


 私はウリューが好きだ。

約束をすっぽかしてしまった自分に対して、未だにこんな夢を見てしまうほどに好いてくれてるのだから。

こんなにも自分が誰かに愛されていることを実感できるのだから。

「じゃあ次はルーチェのばんだよ!わたしだけ”せきらら”?に話すとかエッチだよ!」

「いや、エッチって言葉はそんな意味じゃ……まあいいか。そうだな…私の夢は………………」

エッチという言葉の意味をきちんと説明しようとしたが、そもそも詳しくは知らない上、少し恥ずかしい気持ちになって説明は断念した。

そして自分の夢について話すかどうかの決心も遅れた。


「そんなにムズかしいゆめなの?」

「まぁね、ウリューにはまだ早いかもね」

「いじわる…って使い方で合ってる?」

「うん、合ってるよ…」

「へへへ…じゃなくて!ルーチェのゆめは?」


 こんな楽しい時間が、正に夢のような時間がいつまでも続けばどんなに幸せだっただろう?

何故自分はこんな形でしかウリューに言葉を届けられないのだろう?


「…ウリューに幸せになってもらうこと…とか?」

紛れもない本心だ


「そうじゃなくて、じぶんのことで!なにかないの?」

そうだよね、ウリューならそう返してくるよね…


「……分かってるよ……そうだな……」

ああもう時間だ、言わないと…

「君に……ウリューに許してもらうこと…かな?」


『ゴメンネ』

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