正しかった選択を"教えて"ください。
@ruour
【序章】~【1章】
あの時こうしていれば
その時選択を間違わなければ
後悔せずにすんだだろう……と
そういう経験や想いは誰にでもあるだろう
では”教えて”くれないか?
私はいつ何処で選択を間違えたのだろうか?
───────────────────
私は文字を教えてくれたあの子が好きだ
私に世界を教えてくれたあの子が好きだ
私に不幸を教えてくれたあの子が好きだ
本当に大好きなんだ……
「…グ~…ガ~~!」
その当のあの子は喧ましい寝息をたてているのだが……
寝息の主は、足輪のNo.の部分に刻まれているとおり『ルーチェ』と呼ばれる少女であり、金糸と見紛うような長髪と翡翠の輝きを放つ目を持つ、私と同じモルモットである。
普段の落ち着いた笑顔と聞き分けの良さからは信じられないほど迫力のある寝息は、
今では皆の…いや、私だけの秘密だ
此処は医学薬学・魔法学で覇権を握るカラミータ国の管理下にある、とある研究施設である。以前は私とルーチェの他にもたくさんの子供達が檻の中にいたが、研究資材として消費されていく過程で今では2人しか残っていない。
「……んぅ?……ウリューったら、先に起きたなら起こしてくれればいいのに…」
感傷的な気持ちに浸っていると、まだ眠気の残る目を擦り、ふぁ~ふぅと欠伸をしているルーチェに小言をぶつけられる。
「ごめんね、わたしも今おきたから」
彼女に言葉を返すが、これは嘘だ。
最近ルーチェはどこか無理をしている感じがする。何か辛いことがあったのだろうが、私が心配しないように何もなかったかのように装ってくれている。
でもそんなルーチェが唯一リラックスしているのが、先程のように騒がしい寝息をたてている時なのだ。
好きな人が無理をしている姿を見たい人はいないだろう?
無理をしていないルーチェを引き出すことは今の私にはできない。少し寂しさはあるが、演じていないルーチェの顔を見ることができる大切な時間を私が手放す訳ないのだ。
「ルーチェの今日のタスクはいつおわるの?」
「まぁ…今日もそこそこ掛かるかなぁ…」
ルーチェが無理していることと関係あるのか分からないが、この頃のルーチェのタスクの量はそれまでと考えられないほどに増えていたのだ。心配すると余計に取り繕おうとするので、私は気にしていないフリをしていた。
「でも昨日ほどタスクは多くないと思うし、今日は久しぶりに新しいことを”教えて”あげるね」
「ほんとう!?それじゃあわたし、今日はいそいでタスクおわらせるね!」
「ウリューが急いでも私のタスクが終わらなければしょうがないじゃないか…」
呆れ笑いを浮かべながらルーチェは朝の身支度を始める、私もそれに釣られて着替え始めた。
強引に漂白して誤魔化してある、血の滲んだモルモット用のシャツに。
確かに友達は物理的に減ったし、タスクには辛いものもある。しかし、最近こそ機会は減ったが夜はルーチェに文字の読み書き、外の世界の事、他にも色々なことを教えてもらえる。
ルーチェと共に過ごすことで胸が熱くなる瞬間が此処にはあるため、私は自分が不幸であることを知りながら満たされていた。
「約束、だからね?ルーチェ」
「うん、分かってるよ。ウリュー」
主語など必要無いほどに互いを理解っている私とルーチェは、それぞれ担当の研究員に手を引かれながら檻を後にした。
たった今2人の日常が終わったことなど知るはずもなく。
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