第10話

「千葉さん、ここすごいですよ! ほらほらっ」


今日は二人でトリックアートミュージアムにやって来た。

胴体が消えたり、ライオンに襲われたり、宙に浮いたり。よく出来た仕掛けに紗佳さんは大喜びで楽しんでいる。

先日のサッカー観戦で感じたことだが、紗佳さんはおとなしそうな外見とは違って、アクティブに楽しむのが大好きなようだ。


「あ、そこ。じゃあこっち向いて。撮りますよー。ハイ、チーズ!」


僕はそんな紗佳さんを撮影する。ここでは恥ずかしがることもなく堂々と彼女を撮れるのだ。これで僕はいつでもいろんな表情の紗佳さんを見ることが出来る。

実はこれは成田の入れ知恵。

「千葉ちゃんにオススメのスポットがあるから松本さんと行ってきな」と招待券を2枚渡されたのだった。

ちょっと節操のないところはあるが、恋愛関係においてはとても頼りになる友人だ。


ゆっくりと楽しんだあとはミュージアムに併設されているカフェでティータイム。僕の撮った画像を見ながら盛り上がる。


「うわっ、この紗佳さんの顔、チョー笑えるんですけど!」


「えっ!どれどれ?ちょっと見せて!」


「いや、待って、クククッ……」


「もう! 千葉さん一人でズルいですよ。私も一緒に見ます!」


紗佳さんはそう言うと、向かいの席から僕の隣に座り直した。


「あ、やだっ!何この顔!これは削除してくださいね」


「いやいや、これは家宝としてしっかり保存させていただきます」


「ダメですよ。消してください! じゃあ私が消しますから貸してください」


そんなことを言いながらスマホを奪い合う。些細なことさえ愛しく思える。

紗佳さんと二人で過ごす時間はかけがえのない宝物だ。



柔らかな午後の陽射しが差し込む窓際の席。その陽射しの中で微笑んでいる紗佳さんは天使のようだ。


「私、早く結婚したから、あまり出かけることもなかったんです。だから千葉さんにいろんなとこに連れてってもらうのがとても楽しいんですよ」


カップに注がれたミルクティーをスプーンでくるくると回しながら彼女が言う。嬉しそうな表情に僕の心も高揚する。


「それに……」


ミルクティーに視線を落としながら言葉を続けた。


「千葉さんとだったら、私……」


と言いかけてハッと息を呑む。


「あ、ごめんなさい。何でもないの。気にしないでください……」


あたふたしながら彼女が言った。


その表情が少しだけ悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。

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