第11話
松本さんと僕との関係っていったい何なんだろう。
買い物に行ったり、ドライブしたり。周りから見たら恋人同士のように見えるのかもしれない。
でも僕は情けないことに、そこから踏み出せずにいた。
『今が楽しいから、この関係を壊したくない』
確かにそうだ。一目惚れした女性と電話したり出かけたり。今のままで十分に幸せじゃないか。
もし僕が気持ちを伝えたら、彼女は受け入れてくれるだろうか。
もし駄目だったら……。
僕は彼女を失うことを恐れ、気持ちを伝えることが出来なくなっていた。
☆
「はぁ? 手も繋いでないって? 千葉ちゃん、童貞かよ!」
「バーカ! そんなんじゃねーよ。たださぁ、彼女の前だといろんなことを考えすぎちゃって何もできなくなっちゃうんだ……」
「そんなもんかねぇ。でも頭の中ではぎゅーっと抱きしめてチューしてベッドに押し倒してひん剥いてあんなことやこんなことをしたいって思ってるんだろ?」
「絶対に認めたくない言われ方だけど、残念なことに否定はできません」
「だよな。それ聞いてちょっと安心した。『僕たちはスピリチュアルな関係なんです』とか言われたらどうしようかと思った」
成田はガハハと笑いながら言った。
「でもさ、松本さんも子供じゃないんだから、千葉ちゃんの気持ちには気がついてると思うぜ。ましてや彼女は一度は結婚してるんだから。いい大人が二人きりで会う意味もわかってるだろうに」
「うん。でもさぁ……言ってたんだよ、彼女」
「何て?」
「うん。早くに結婚したから出かけることも少なかったんだって。だから俺とあちこち出かけるのが楽しいって……」
「いいじゃん。それが何か問題なの?」
「出かけることが楽しいのであって、別に俺じゃなくても楽しいのかなって思っちゃうんだよね」
「くはぁ〜、千葉ちゃんさぁ、何言ってんだよ。いつからそんな純情少年になっちまったんだ? いいか?じゃあ聞くけど、千葉ちゃんは好きでもない女の子から何度も何度もデートに誘われたら行くか?」
「えっ、そりゃあ行かないかな」
「だろ。そういうことだよ。何回も出かけてる時点で一次試験は合格してるの。あとは頑張って二次を合格すればいいだけのこと。簡単だろ?」
「そっか。うん、そうだな。よし、じゃあ一丁頑張ってみるよ!」
「おう。吉報を待ってるよ。そんときは千葉ちゃんの奢りで朝まで飲むからな」
「あぁ、待っててくれ」
「じゃあとりあえず今日は前祝いってことで、あらためて乾杯!」
夜のファミレス、ドリンクバーのグラスで乾杯。
一気飲みしたアイスコーヒーはいつもより少し苦く感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます