第8話
「ハイタッチして抱き合ったぁ?」
素っ頓狂な声を出して成田が僕を見る。
「そうかそうか、サッカー観戦というのはそんなことができるのか。うん、使える」
「おいおい、そんな不純な目的でサッカー観戦するのはやめてくれ」
まったく成田の頭ん中は女の子のことばかりだ。思わず僕も苦笑いしてしまう。
「わかってるって。冗談だよ、ジョーダン! それはそうと、千葉ちゃんもうラブラブなんじゃないの? で、なんの相談? オシャレなラブホだったら任せとけって」
嬉しそうにニヤニヤしながら成田が身を乗り出してきた。
「実はさ、正直よくわからないんだよね、紗佳さんの気持ちが」
「あらら。なんだよ盛り上がってないの?」
「いや、サッカーの時は自分で言うのもなんだけど、とってもいい感じだったんだよね。でもさ……」
「でも?」
「うん。電話してても素っ気ないんだよね。話が広がらないというか、話自体したくないような感じでさ」
紗佳さんといい感じだったあの日以降、電話をすると明らかにそれまでとは違う対応だった。
なんとなく僕のことを避けているような気がした。そんなことが続いたので成田に相談したというわけだ。
「うーん、なんだろうなぁ。体調悪いんじゃないの? そんな時って話すのも辛いじゃん。松本さん優しいから『NO』って言えなくて、とかさ。だったら少し間を置いてみたら?」
「俺さ、何か変なこと言って嫌われちゃったのかと思ってさ。でもあの日別れたときも、紗佳さんニコニコ笑って手を振ってたから……」
何度もあの日のことを振り返ってみたが、避けられるようなことは何も無かった。
「じゃあ大丈夫だよ。だいたい千葉ちゃんは女の子に嫌われるようなタイプじゃないし。うん、体調悪いか気のせいか、そんなもんだよ。気にすんなって!」
成田の言葉に元気をもらった。
うん、きっと大丈夫。あんなに楽しそうだったんだから。
毎日でも紗佳さんの声を聞きたかったが、成田のアドバイスに従ってちょっと間を置くことにした。
そして二週間後。
風呂に入って歯を磨いて、何度も何度も大きく深呼吸してから、スマホの発信ボタンを押したのだった。
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