第7話

試合は3対3の引き分けに終わり、僕の愛するホームチームも松本山雅もそれぞれ勝ち点1をゲットした。ちょっとひと安心だ。


「あー、楽しかった。私、こんなに声出したの初めてかも。それから自分の名前を叫んだのも。こんなにたくさんの人に『まつもとー』って名前を呼ばれたのも初めてです」


ゴールが決まるたびにタオルマフラーをぐるぐると回し、思いっきりハイタッチ。興奮のあまりついついハグしたり……。さらには天を仰いだり、頭を抱えたり。

普段は柔らかでどちらかというとおとなしい感じの松本さんの新しい一面を見ることができた。


「それに千葉さんたら、『まつもと』はともかく、どさくさにまぎれて『さやか』って呼び捨てにしてるし」


悪戯っぽく笑いながら僕を見た。

その顔はまるで幼い少女のようにあどけないものだった。



僕の希望的観測が入っているかもしれないが、松本さんとの距離が一気に近づいたような気がする。うん、今なら言える。

僕は隣の彼女にバレないように大きく深呼吸した。


「紗佳さん」


「はい」


「……」


一瞬、僕の心臓が止まった。涙が出そうなくらい嬉しかった。心の中で何度も何度もガッツポーズした。

だって初めて「紗佳さん」て下の名前で呼んで、それに返事してくれたんだもん。


「紗佳さんの喜んだり笑ったりしてる顔がたくさん見れて僕も嬉しいです」


「千葉さんのお陰ですよ。こんなに楽しいのいつ以来だろうってくらい」


ニッコリ微笑む彼女はとても眩しい。


「あ、あの、もしよかったら、いつか松本に山雅の試合見に行きませんか? あそこはサッカー専用スタジアムだから臨場感がケタ違いだし、なんと言ってもホームゲームだとサポーターも凄いですから」


「松本に?」


「はい。それに松本城とか縄手通りとか、素敵な場所がたくさんあるんです。あ、それからとっても美味しいお蕎麦屋さんもあるし、車なら近くにスイカの産地もあって、そこのスイカがこれまた美味しいんですよ。だから、あの、その……えーっと……」


僕は柄にもなく熱弁してしまった。自分でも何が言いたいんだかよくわからなくなる。


「うふふ。千葉さんは松本が好きなんですね」


「えっ? は、はい、だっ、大好きです!松本…………紗佳さん」

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