第6話
その日以来、僕と松本さんはゆっくりと交流を深めていった。
LINEでその日の出来事を報告したり、たまに電話で話したり。
もっとも交流といっても僕から一方的にアクションを起こして、松本さんがそれに応えるという形ばかりだ。
それでも松本さんはいつも優しく受けてくれる。それだけでも嬉しいことで、僕の恋心は満たされていった。
☆
何度か二人で出かけたりもした。
最初のうちは面と向かって話すことさえ覚束無かった僕も、次第に慣れて普通に話せるようになった。
スポーツ観戦はしたことがないという彼女を誘ってJリーグの試合を見に行った。
「あ、千葉ちゃん久しぶり。今日も頑張ろうね」
「おぉー、千葉さんじゃないですか! 久しぶりに見かけたと思ったらこんな可愛い彼女連れてくるなんて」
「千葉くーん、元気だった? 全然来てくんないんだもん。仕事忙しいの?」
いろんな人が声を掛けてくる。
「千葉さんて有名人なんですね」
松本さんはちょっとびっくりしてる。
社会人になってからは来れなくなったが、学生時代はよくゴール裏で飛び跳ねていたものだ。その時の仲間が懐かしがって声を掛けてきてくれたというわけだ。
「それじゃあ、服の上からこれを着てくださいね」
僕は男性用Lサイズの緑のTシャツを手渡した。
「そしたら次はこれを首に巻いてください」
言われるままに彼女はタオルマフラーを首に巻いた。
「じゃあ行きましょうか!」
アウェイ側入り口へ向かおうとすると、
「え? ねぇ千葉さん、ホーム入口はあっちですよ」
と不思議顔の松本さん。
「はい。今日はこっちです」
自信満々に僕は答え、彼女をエスコートして歩きだした。
☆
『まーつもとやまがっ!ドドンドドンドン』
ゴール寄りのバックスタンドに席を確保したとき、いきなりサポーターの応援が始まった。
アウェイは松本山雅FCだ。
「ほら!松本さんも立って叫んで」
「え?」
僕に無理やり立たされて戸惑う松本さん。ちょっと可愛い。
「ほらほら」
僕が煽ると、
「まーつもとやまがっ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。
「もっと大きい声で! はい!」
「まーつもとやまがっ!!」
「お、いいですね」
と言うと嬉しそうに
「千葉さんも叫んでください」
と言い返す。
「まーつもとやまがっ!」
「まーつもとさやかっ!」
「……?!」
彼女が僕を見て笑った。
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