第2話
「あ、そういえばデザインセンターの受付に新しい人が入ったらしいな。上野さんが寿退社なんだってさ。俺、上野さん好きだったんだけどなぁ」
同期の成田がしみじみと言う。
「おいおい、確かに上野さんは可愛いけど四つ年上だろ」
「それが何か?」
「そういえばお前はストライクゾーン広かったもんな」
「可愛いは正義なのだよ。年齢は関係ない。芦田愛菜ちゃんから石田ゆり子さんまでOKだ。そういう千葉ちゃんはどうなんだよ」
「え、俺? うーん、年上は無いな。絶対年下がいい」
「そんなことに頑なに拘ってるからいつまでたっても彼女ができないんだよ」
付き合っていた彼女と別れて早一年。今は友達とワイワイやってるのが楽しいから、独り身でも寂しくはない。
ちなみに過去に一度だけ年上の女性を好きになったことがある。大学のクラスメートの女の子。告白したら、「弟のようにしか思えない」と言われた。実は彼女は一浪していて、さらに年子の弟がいたのだ。
そんなトラウマもあって僕の年下好きは加速したのだった。
☆
「あ、千葉さん、お疲れ様です。今日は3番ブースになります。ご案内しますね」
あれから2か月後、緊張気味の僕に彼女はあの笑顔で応対してくれた。
「名前名乗ってないのによくわかりましたね」
少し前を歩く彼女に聞いてみた。
「だって……」
クスクスと笑いながら立ち止まり振り返った。
「目も合わせてくれない人なんて、千葉さんしかいませんよ」
その瞳に僕の心は射抜かれた。
『ずきゅん!』という音が聞こえた気がする。
僕は恋に落ちた瞬間というものを初めて実感した。
☆
「あ、ごめんなさい。私は松本です。松本
彼女は左胸につけたネームプレートを右手でつまみ、僕に見せた。
ただでさえドキドキしているところに胸の辺りに視線を向けるなんて……。
しかも程よく綺麗な曲線を描いている。
僕は過呼吸で倒れる寸前だった。
彼女はインテリアコーディネーターを目指して勉強中で、この四月に中途で入社したそうだ。
ちなみにその日の打ち合わせで、僕がポンコツぶりを発揮したのは言うまでもないだろう。
☆
「なぁ成田。俺、彼女のこと好きになっちゃったよ」
「お!どうした千葉ちゃん。遂に年下の可愛い子見つけちゃいましたか。で?で?誰だよ彼女って」
「デザインセンターの松本さん」
「はぁー? マジ!?」
「恥ずかしながら
「どうしちゃったんだよ、千葉ちゃん?」
「惚れた。一目惚れだ」
「そっか……。でもよりによって松本さんとはなぁ。ま、惚れちゃったなら仕方がないけど、あんなに年下好きのお前がねぇ……」
「あ、そういえば年齢のことなんて何も考えていなかったなぁ。でもまあ、同じ歳くらいならありかな」
「え? あれっ? 千葉ちゃん何も知らないの?」
「何もって、何だよ?」
「松本さんて30歳でバツイチなんだって」
「嘘っ!?」
「やめとけ。お前にどうこうできる相手じゃない」
「ゔっ…………」
成田の言葉に何も返すことが出来ない僕だった。
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