Angel,Don’t cry!
きひら◇もとむ
第1話
はじめて彼女を見たとき、世界はスローモーションになった。
そういえば高校生の時、原チャリに乗っていてタクシーにはねられた時に経験したのと同じ感覚だ。
人は命が危険な状況に置かれると、普段は使わない脳の部位まで発動させて身を護るのだと何かで読んだ気がする。
背中まで伸びた綺麗な黒髪、陶器のような白い肌、すべてを包み込むような優しい笑顔、そして美しい立ち居振る舞い。
ん? これが命が危険な状況?
気がついたときには、僕の心臓は経験したことがないほどに強く早く脈打っていた。
なるほど、このままじゃ心臓が破裂してしまいるそうだ。
「いらっしゃいませ」
ちょっとハスキーな声が心地良い。
ほんの一瞬で彼女に心を奪われた。どんどん鼓動が早くなる。僕は用件も忘れて、口はポカンと半開きのまま固まってしまった。
「どうかされましたか?」
小首をかしげ、クスッと微笑む彼女。
我に返った僕は、心の中を見透かされるんじゃないかという恥ずかしさと心臓の鼓動が聞こえてしまうのではという不安から、急いで視線をカウンターに落として言った。
「……あ、13時から予約を入れてる第一営業部の千葉です」
「千葉様ですね。それではご案内致します。どうぞこちらへ」
彼女はスッと立ち上がり、奥の商談ブースへと僕を案内した。
歩を進めるたびにゆらゆら揺れる髪が、僕の心も揺らす。小柄で華奢な背中だが、背筋が伸びて凛としている。
後ろ姿もとても素敵だった。
二十四歳の春。天使のような彼女に僕は一目惚れをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます