第40話 完了

2階は外れだった。

一通り周ったが王族は見つからない。


次は三階だ。

そう思い階段へと向かう。


「好き放題、暴れてくれているようじゃな」


大階段のある広場に飛び込むと、親衛隊に出迎えられる。

その数は20。

そこにローブを来た人間が3人混ざっていた。


3人共中々の魔力を感じる。

特に老人の魔力はかなりのものと言っていいだろう。


突入前に、この国には賢者が2人に大賢者が1人いると聞かされていた。

恐らく赤ローブ2人が賢者で、老人がこの国の大賢者なのだろう。


「投降するのなら――」


「断る!」


私は魔包剣マシュマロソードを手に、迷わず突っ込んだ。


まずは賢者を――ってそう言う訳には行かないか。


私の動きに合わせて親衛隊が大賢者の壁になる様に動いた。

親衛隊を先に無力化するしかない様だ。


爆裂魔法エクスプロージョン!」


親衛隊の隙間から杖を突き出し、大賢者が広範囲破壊魔法を当たり前の様に使って来た。


「くっ!?」


私は咄嗟に横へと飛んでそれを躱した。

背後で轟音が響き、魔法によって生み出された熱と衝撃が広場に充満する。


「あんた、自分達の城を潰す気!?」


私は思わず抗議の声を上げる。

あんな魔法を連発すれば、こんな建物などあっという間に崩れ落ちてしまう。

建物を出来るだけ壊さない様こっちは気を使ってるというのに、持ち主側がバンバン壊しにかかるのは腹が立ってしょうがない。


「建物など、建て替えれば良いだけじゃ。違うかの?」


爺は楽しげに笑う。

そのための費用は国民の血税だというのに、許しがたい発言だ。


しかし糞速い詠唱だった。

ひょっとしたら私とタメを張るぐらいに……いやいや、こんな爺にそれだけの能力がある訳がない。

きっと何か種があるはず。


私は高く飛んで、“天井„に着地する。


魔包剣マシュマロソードの応用だ。

足と天井を張り付けた。

此処からなら爺がよく見える。


爆裂魔法エクスプロージョン


再び爺が高速詠唱で魔法を放つ。

私は魔包剣マシュマロソードを解除するとともに、天井を斜めに蹴って魔法とその2次被害――天井の崩落――を避ける。


「成程ね」


だがこれで爺の高速詠唱の種が分かった。

両サイドに居る賢者2人が詠唱をサポートしているのだ。


3人で分担して一つの詠唱を完成させる。

試したことはないが、恐らくかなり高度な技術だろう。

どうやら伊達に歳は喰ってはいない様だ。


「あーもう!面倒臭い!」


爺の魔法を躱しながら戦うのは無理がる。

流石の私も、あれを喰らうと大ダメージだった。

そこを親衛隊に畳み込まれれば、それでジ・エンドだ。

回復する間も与えてくれないだろう。


だからと言って強力な魔法をぶっぱなせば、人死にが出てしまう。

お嬢様に怒られるのは嫌だ。


という事で、私は結界を張る事にした。


魔法の詠唱と同時に走り出す。

また魔法が飛んで来るが華麗に躱し、そして魔法を発動させる。

敵の周りに。


結界は中から外への出入りを遮断する物だ。

かなりの魔力を籠めたので、爺達の魔法は元より、親衛隊達の身に着けているミスリルでも突破は不可能だ。


「貴様!我らを閉じ込める気か!?卑怯な!」


乙女に向かって、肉壁越しにバンバン魔法を使っておいてどの口が言うのやら。

再び私は魔法を詠唱する。

結界は5分程度で消える為、こいつらをこのままここで足止めし続ける事は出来ない。


私は更なる結界を、“結界の中”に発動させた。

人の出入りと内側からの魔法は遮断するが、外からの魔法は素通しするのがこの結界の特徴だった。


通称サンドバックだ。


結界の中でさらに結界が発動し、中の人間が分断される。

上手く賢者と大賢者が分断されてくれた。

さあ、ぼこぼこにしてあげよう。


「んじゃまずはあんた達からよ!」


魔包剣マシュマロソードを両手に出現させ、最初の結界を解除する。

敵の数は親衛隊12に、賢者が1人。


「貴様!」


親衛隊が一斉に飛び掛かって来る。

私はそれを丁寧に迎え撃つ。


1人、また1人と無力化していく。


分断した賢者はどうやらかなりヘタレだったらしく、その場に尻もちを付いて動かなかった。

どうやら大賢者なしでは何も出来ない様だ。

情けないやっちゃ。


親衛隊を黙らせた私は賢者を踵落としで眠らせ、再びサンドバックの詠唱を始める。

念の為更に分断させて貰うとしよう。


「貴様ぁ」


「ハイハイ。お爺ちゃんはそこで黙って見ててね」


結界を解除し、自由になった親衛隊を手早くボコる。

残すは爺と賢者、それに親衛隊員が2人だ。


「降参する?」


「貴様一体何者だ!なぜこれほどの魔法を!?」


ふふふ、驚くのも無理はないわ。

何せ私は天才大賢者ミア・カースト様なのだから!


と、ドヤ顔で堂々と名乗りたいところではあったが、他国の大賢者がクーデターに参加していたとなると色々と問題が出て来る為、そういうわけには行かなかった。

当然顔も分からない様に仮面をかぶっているし、服装も普段の冒険着から着替えている。


「ふ、貴方が知る必要はないわ」


結界を解除すると同時に親衛隊二人を無力化。

爺様と賢者が、それぞれ魔法を詠唱してくるがトロ過ぎて欠伸が出る。

私は容赦なく回し蹴りで二人纏めて吹き飛ばした。


「さて――「残すはこの上だけの様ね」


私の言葉を遮り、後ろから声が響いた。

なんでこの人は一々気配を消して背後から忍び寄るのだろうか?


「終わったのですか?お嬢様」


ペイルとお嬢様は此処本宮ではなく、そのサイドにあった建物を担当していた。

其方もかなり大きかったのだが、どうやらもう終わらせてきたらしい。


「ペイルは革命軍の支援に回らせたわ。まあ何も起こらないとは思うけど、念の為にね」


ペイルももう終わっているのか。

私の担当した場所が一番の難所とはいえ、なんだか負けた気になって腹が立つ。


「他の王族は全て捉えたわ。後はこの上の国王を捉えればお終いね。さ、行きましょう」


お嬢様に促され、3階に上がる。

上がった直ぐの所に大きな扉があり、それには贅沢な、それでいて悪趣味な金細工の意匠が凝らされていた。

正に税金の無駄遣いだ。


恐らくこの先が王の間だろう。


「たのもう!」


扉をあけ放ち、叫ぶ。

口にした言葉には、特に意味はない。


中は長く広い空間か広がり。

その最奥には、金ぴかの玉座に座ったちょび髭のデブ――たぶん国王――と、それを守る親衛隊が20数名が待ち構えていた。


「な!何者だ!!」


デブが叫ぶ。

私達はそれには答えず、真っすぐに赤いじゅうたんの上を進んで行く。


「こ、答えぬか!!」


再びデブが叫んだ。

そこでお嬢様が一歩前に出て、ゆっくりとお辞儀する。


「初めまして国王陛下。私達はこの国を救いに来ました」


「な、なんだと!此処へ攻め込んでおいて、よくもその様な戯言を抜け抜けと!」


「勘違いなさらないでくださる?私が救うのはこの国であって、無能な為政者ではございません。この国の惨状を放置している貴方は万死に値します」


行き場のない子供達を、権勢の道具として使い捨てる貴族達。

そしてそんな貴族を止めようもしない国のトップなど、ゴミ以外何物でもない。


「他の方々はもう捉えましたが、貴方だけはその命で償って頂きましょう。それが国王としてできる、貴方の最後のお仕事です」


「ふざけるな!そいつらを殺せ!褒美は思いのままだ!!」


分かり易い程分かり易い、子悪党な対応だ。

そして国王の褒美と言う言葉に反応し、兵士達の目がぎらついた。

こんな追い詰められた状況にも拘わらず、彼らはまだ出世を狙っている様だ。


私は一歩前にでて――


「始末は私が付けます」


その動きを、お嬢様が遮った。

その手には既に魔法が発動している。


いったいいつの間に詠唱したのだろうか?

全く気付かなかった。


「その男は、この国を腐らせている根本です。それを庇うというのなら、あなた方も同罪。ここで死ぬ事になりますが……宜しくて?」


お嬢様の本気の殺気に、背筋に寒気が走る。

容赦なく皆殺しにするつもりだ。


お嬢様が一歩前に足を踏み出す。

その殺気に気圧されて、親衛隊が下がる。


「お、お前達!?何をしている!国王命令だ!かかれ!」


声に反応して何名かがお嬢様に突撃する。

怖気づいて引き下がれば死なずに済んだのに……馬鹿だなぁ。


お嬢さまが素早く手を振るう。

両手に宿った魔法が鞭の様にしなり、親衛隊達を打ち据える。

途端、ガランガランと重い金属音を立てて鎧がバラバラになって地面に転がった。


だがそこに人の姿はない。


中に居た筈の人間の姿が見当たらないのだ。

余りの不可解な現象に、周りの人間は理解が及ばず時間が止まる。


だが私は直ぐに気づいた。

鎧の周りに散らばる砂粒、それが人間の痕跡だという事に……


瞬間的に人間を灰にする。

えぐい魔法だ。


「な……なんだ!?貴様何をした!?」


デブの声が響く。


「埋葬の手間を省きました」


その質問にお嬢様は笑顔――仮面は被っているが、何となくわかる――で答える。


そこで皆初めて気づく。

消えた兵士達は死んでしまったのだと。


「う……うわぁぁぁぁ!!」


親衛隊の一人が叫び声をあげ、その場から逃げ出した。

恐怖は伝播し、残った者達も逃げ出そうとする。

だがお嬢様はそれを許さない。


既に警告は発している。

それを無視した以上、お嬢様に一切の情けはない。


魔法の鞭がしなる。

それは的確に逃げ出す者達を次々と打ち据え、その度にガラガラと音を立てて鎧が散らばっていった。


「ひ……ひぃ……」


静寂の中。

国王の悲鳴だけが響く。

最早周りには誰もいない。

お嬢様はゆっくりと、その目の前まで歩み寄る。


「覚悟は宜しいですか?陛下」


「た、頼む!命だけは助けてくれ!!褒美はっ――」


最後の懇願虚しく、国王の首が転がり落ちた。

遺体が消滅しなかったのは、魔法の鞭ではなく手刀で首を落としたからだ。


他と殺し方が違うのは、まあ国王の首が灰になったら色々と困るからだろう。


「ミア、首をお願いね」


お嬢様がにっこりと微笑んだ。

首の傷は魔力を籠めた手刀で切り裂かれているので焦げて血は出ていないが、生首を運ぶのは気が進まない。


「行くわよ」


「はーい」


私は渋々ながら首を拾い上げ、お嬢様の後に続く。

帰ったら、手洗わなくっちゃ。

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